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「機能を増やすには技術がいるが、減らすには哲学がいる」(秋田道夫さん)

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プロダクトデザイナーの秋田道夫さんは、SNS で多くのファンがついている。語りかける言葉が平易で軽やか、日常の暮らしに結び付いている。しかも広い意味でのデザインに触れている――どんな発想から、これら“言葉のデザイン” が生まれてくるのか知りたいと話を聞きに行った。(本記事は月刊『ブレーン』2023年7月号「デザインプロジェクトの現在」から抜粋したものです)。/取材・文:川島蓉子

秋田道夫(あきた・みちお)

1953 年大阪府生まれ。愛知県立芸術大学卒業後、ケンウッドとソニーで製品デザインを担当。1988 年に独立。これまでの受賞歴に、第26回毎日ID賞 一般部門 特選一席、第9 回国際陶磁器展美濃 銀賞、DFA Design For Asia Awards2018 Silver Prize、Red Dot Design Award2019 Best of the Best、German DesignAward 2020 Gold Prize。京都芸術大学客員教授も務める。

 

機能を増やすには技術がいるが、機能を減らすには哲学がいる

秋田さんに最初にお会いしたのは、かれこれ10 年ほど前のこと。知り合いに紹介されたのだが、デザインについて、やわらかく言葉を紡ぐ姿勢に、粋なセンスを持った方と感じた。

今回、久しぶりにお会いしたのだが、細身の身体にシャツとパーカを重ねた装いが、カジュアルな中に品性を感じさせる。軽やかでフラット――以前と変わらない空気をまとっていた。

秋田さんといえば、LED式薄型信号機、交通系ICカードのチャージ機、六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズのセキュリティゲートなど、パブリックな場で大きな役割を担うデザインを手がけている。一方、土鍋「do-nabe」やステンレス製のぐい吞み「50mm」など、日常に寄り添ったデザインも――どれも、すっきりした佇まいながら、無機的な素っ気なさに陥ることなく、さりげない存在感を放っている。

写真 LED薄型歩行者灯器(信号電材、2006年)
LED薄型歩行者灯器(信号電材、2006年)
写真 土鍋「do-nabe」(セラミックジャパン、2010年)
土鍋「do-nabe」(セラミックジャパン、2010年)
写真 ステンレス製ぐい吞み「50mm」(ヴァンテック、2023年)
ステンレス製ぐい吞み「50mm」(ヴァンテック、2023年)

その代表的な仕事のひとつに2007 年から新潟の金属加工メーカーであるタケダと続ける「Primario」シリーズがある。2017年に発売されたルーペは、レンズを支える3本の足が描くアーチが美しい。「アーチの部分から光が入って対象物を照らし出すとともに、この空間からピンセットなどを入れて使うこともできるのです」という説明を聞き、意味を持ったアーチであり、役割や意味を美しく視覚化するのがデザイナーの仕事と腑に落ちた。「German Design Award 2020」の最優秀賞をはじめ、数々の入賞により国内外で高い評価を得たという。

写真 Primarioシリーズ(タケダデザインプロジェクト、2007年~2022年)
Primarioシリーズ(タケダデザインプロジェクト、2007年~2022年)
写真 ルーペ(タケダデザインプロジェクト、2017年)
ルーペ(タケダデザインプロジェクト、2017年)

「機能を増やすには技術がいりますが、機能を減らすには哲学がいるのです」と秋田さん。そう聞いて、「こんなにたくさん機能はいらないのに」とか「この技術が使いたくて付けた機能なんだ」と感ずることが時々あると思い至った。そうならないためには、哲学が必要。つまり、機能の存在意義を問うていく。そこを担うのが、色や形のデザインにとどまらない広義のデザインと納得した。

デザインの公共性と言葉の公共性には、相通ずるところがある

デザインを語ることについて、以前から疑問に思っていたことがひとつある。デザインは暮らしになくてはならない存在なのに、一般の人から「特別な世界のこと」「センスがいい人だけがわかること」と思われることが少なくない。デザイナーが書いた本についても、さまざまなビジネスに携わる人、否、ビジネスに限らず一般の人にもっと読まれていいと思うのにそうなっていない。

秋田さんは2021年からTwitterでの発信を始め、今やフォロワーが約11万人もいるという。その言葉や思考に注目が集まり、2022年11月と23年3月には書籍も発売された。人気の秘密はどこにあるのか。

「私は公共にかかわるデザインをやってきたのですが、デザインの公共性と言葉の公共性には、相通ずるところがあると思います」(秋田さん)。誰にでもわかりやすい、伝わりやすいことを念頭に置き、受け手や使い手がどう感じるか、どう使うかに思いを巡らせ、デザインしていく。言葉の発信についても同様だという。

言われてみて、これはマーケティングでも同様と感じた。「ターゲットの嗜好を分析した」「お客の視点に立った」という商品や売り場の中には、「本当にそうだろうか」と感じるものが少なくはないから――秋田さんの言葉は、改めてそこに立ち戻る大切さを伝えている。

正直と素直は違う

(……この続きは月刊『ブレーン』2023年7月号でお読みいただけます)。

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取材/文
川島蓉子(かわしま・ようこ)
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院修了。ジャーナリスト。著書に、『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)などがある。

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