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「生成AIがつくる景色」カンヌライオンズ 2023レポート(1)

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6月19日から24日にかけ、フランス・カンヌで「カンヌライオンズ2023」が開催されました。ここでは、2017〜22年(2020年は中止)とAdverTimes.でカンヌライオンズのレポートをお届けしてきた電通 zeroのクリエーティブ・ディレクター/PRディレクター 嶋野裕介さんが、今年のカンヌの要注目トピックを振り返ります。

こんにちは、電通 zeroのクリエーティブディレクター/PRディレクターの嶋野裕介です。

昨年に続き現地開催となった、70回目のカンヌライオンズ。今年はクライアントワークで現地に行ってきましたので、カテゴリーをまたいで共通する要素から、新たな発見や学びをレポートしていきます。

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受賞作品やセミナーの内容を帰納法的に見て、以下の3つのトピックスを今年の特徴と捉えました(GGG?)。

今日はそのレポートの第1弾です。

生成AI(Generative AI)との繋がりを生み出した3つの受賞作品

先にお伝えしますが、受賞作をご紹介することで「これからは生成AIの時代だ!どんどん使おう!」というつもりはございません。
生成AI関連の企画のほとんどが受賞を逃した(カンヌのアーカイブが見られるサブスクサービス「The Work」で「(Generative) AI」と検索してみてください)中で、選ばれたものとそうでないものとの境界線はどこにあったんでしょうか。

A. 被害者の話から、記録写真を新たにつくり出す

Maurice Blackburn「Exhibit A-I」
(SDGs部門シルバー、Direct部門ブロンズ、Print部門ブロンズ ほか)

オーストラリアの法律事務所Maurice Blackburnによる、難民の保護を促す施策。オーストラリア政府は10年以上もの間、難民を非人道的に収容してきた。センター内では難民に対する残虐行為が行われてきたが、証拠が残っていない。あるのは当事者の声だけ。そこでMaurice Blackburnは難民たちに300時間に及ぶインタビューを実施し、その情報を元にAI技術者やフォトジャーナリストとともに生成AIで表現した。社会問題を提起するには写真などの視覚情報が有効だが、役者や、まして本人が再現するのは質や精神的ケアの観点で難しい。あえてAIと写真のプロを組み合わせることで、真実性を損なうことなく世の中に強いメッセージを伝えた。

※この作品には部門ごとで多くの議論があり、異なる結果となったそうです(特にクラフト系とコミュニケーション系では違う判断に)。「ありもしないものを、あるように描くリスク」についても心に留めていただければ幸いです。

B. 黎明期ならでは? AIの弱点をつくことで話題をつくる

Kraft Heinz/Heinz Ketchup「HEINZ A.I. KETCHUP」
(Social&Influecner部門シルバー ほか)

トマトケチャップの「ハインツ」は、画像生成AI(DALL-E 2)に「ケチャップ」と入力すると、同社の商品にそっくりな絵が生成されることを元に、「EVEN ARTIFICIAL INTELIGENCE KNOWS “KETCHUP“ LOOKS LIKE HEINZ.(AIでさえ、「ケチャップ」と言えばハインツであることを知っている)」と掲げたユーザー参加型のキャンペーンを実施。消費者からさまざまなプロンプトを募集し、集まった画像をOOHなどで展開した。生成AIの弱点をつき、ブランドの歴史を最先端のツールで証明してみせた(ただしこれを受けてDall-E 2は、ブランドバイアスを減らすために再度学習されたという)。

C. 生成AIへのカウンターパート

NIKON「Natural Intelligence」
(Outdoor部門シルバー ほか)

Artificial Intelligenceの隆盛に対抗する“Natural” Intelligenceとして、ニコンは同社のカメラで撮影された大自然の不思議な光景をOOHとして掲出。写真の中央には生成AIで用いるプロンプトのような文言をコピーとして記載した。現実の自然とその写真が我々の想像を超える驚きのあるものだと示した。

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コピーは「画像プロンプト:火星の砂漠の真ん中にあるラテみたいなスケートパーク」。

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コピーは「画像プロンプト:噴水のように水を噴出する色とりどりのシュールなミニ火山」。

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コピーは「画像プロンプト:冬の海辺のリアルなマインクラフトの崖」。

各写真の右下に記載された「Don‘t give up on the real world(現実世界をあきらめるな)」というメッセージは多くのカメラマン(=Nikonの顧客でもある)を勇気付けるメッセージだと思います。必要なのは技術(AI)の上手い使い方を模索することではなく、ブランドとしての確固たる信念や立ち位置を提示することなのかもしれません。

受賞事例に共通するのは「話題だからAIを使った」だけではなく、「現在のターゲットと生成AIの間の文脈を、ブランドが繋ぎ、新たなメッセージを発した」ものだということ。社会で話題のものを取り入れたくなるのは広告クリエイティブの視点からは当然のことです。だからこそ、無理なくチャーミングな形でブランドとの接着点を見つけながら、さらにそこに社会への提言まで描けたものが、今年の生成系AIの受賞事例となりました。

一方で、受賞しなかった生成系AI事例にも良作は多く、今後もますますビジネスとクリエイティブの世界で重宝されることを確信できた年でした。

会場における生成系AIの存在感

会場でも、AIをテーマにしたブースやセミナー、ビーチ(ネットワーキングエリア)がたくさん用意されていました。昨年もAI関連はあったのですが、話題を呼んだ画像生成AI「Midjourney」のオープンベータ版公開が2022年7月だったことから、今年は生成AIが圧倒的に増えた気がします。

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Microsoft のビーチに展示されていた、同社の検索エンジン「Bing」による生成AIのギャラリー。

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会場内に掲出されていた、AdobeのAIで生成した巨大広告。

そして最注目は、なんといってもOpenAIのCOO、Brad Lightcapさんが参加したセミナー「ChatGPT, DALL·E and the Future of Creativity」。長蛇の列ができていて、私は残念ながら直前で入場規制にあってしまいました(涙)。

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ちゃんと入場制限する真面目なスタッフさん。

ただ、優秀な後輩が内容をまとめてくれていたので、シェアしてもらいました。

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電通のコピーライター 福宿桃香さん作成。

概要はこの資料がよくまとまっています(質問者が当たり障りないことばかり聞いてたらしく、内容は既知のものが多いのが残念)。ただ、個人的な感想としては生成AIはつくっている本人たちも想像していない使い方がまだまだありそうです。そういう意味では、受賞に関係なく応募ケースをたくさんみることで、日本でも話題になる生成AIの使い方は見つかりそうです。

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著者が画像生成AIをつかって描いた「70周年のカンヌライオンズ」。古希なので紫のベストを着せてみました。

次回は「G AMING THE WORLD(ゲーム化する社会)」、3回目はGUT(ガッツ・現代最高のクリエーティブエージェンシー)をテーマにお届けする予定です。

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〈わたしのカンヌこぼれ話1〉

最近のカンヌライオンズは、例えるなら「マンモス大学」です。伝統的な科目に加えて、音楽大学、芸術大学、体育大学(eSport含む)、工業技術大学、最近ではMBAなども加わってますます多角化した海外の総合大学です。集まる生徒は人種・国籍・専門性も多種多様で、異なる価値観を学び合い(ぶつけ合う)そんな場所になっていると感じます。

その意味では、カンヌに行くということは、「海外大学への短期留学」に近いのかもしれません。新しい広告技術や思想を知るのはもちろん、同じ年に一緒にカンヌに行った人と同窓生のように仲良くなれるのも大きなメリット。年齢や職種は関係なく、すべての学びたい人が行く価値のある場だと思います。

嶋野裕介
クリエーティブ・ディレクター/PR ディレクター

電通 zero局所属。マーケ、営業を経てクリエーティブへ。主な仕事に「BOSS×ゴジラシリーズ」「BOSS×ウマ娘」「飲むゲーセン・ストロングファイター」「#金曜日の新垣さん」「3cm market」「ぷよりんご」など。2023年4月に『なぜウチよりあの店が、知られているのか?』を宣伝会議社より出版(尾上永晃氏と共著)。好きな漫画は『ワールドトリガー』『暗号学園のいろは』など。