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AIのデザインを人は見抜ける? ファッションブランド「YUKI HASHIMOTO」の挑戦

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コレクションブランド「YUKI HASHIMOTO」と、AI がグラフィックをデザインするファッションブランド「プロトタイプ」がコラボレーションしたTシャツが、5月27日に発売された。Tシャツは、AI とデザイナーそれぞれがデザインした2種類を用意。見分けがつくのか、検証を試みた。(本記事は月刊『ブレーン』8月号「『仕事を奪う』は本当か 生成AIの隆盛とクリエイターの未来」特集からの転載記事です。特集の詳細はこちら)。

服とAI の関係性を模索

「YUKI HASHIMOTO」は、2018 年にデビュー。服の有する文脈や歴史と現代性を独自に組み合わせたコレクションで評価され、2020 年には「TOKYO FASHION AWARD」も受賞している。

デザイナーの橋本祐樹さんはアントワープ王立アカデミーで学士課程修了後、「ラフ・シモンズ」や「メゾン マルジェラ」でアシスタントを経験。修士課程に進学し、卒業後に自身の名を冠したブランドを立ち上げた。

一方「プロトタイプ」は、AI がデザインをするアパレルブランドとして2023 年春夏シーズンからデビュー。

「AI とファッションとの化学反応や関係性を考えるきっかけを提示したいと考えた」と、運営チームのリョウマツモトさんは説明する。マツモトさん自身は長野県でセレクトショップを経営し、YouTube を通じた実況販売で知られている。YouTubeの登録者は約6 万7000 人に上る。

「YUKI HASHIMOTO」の2023 年秋冬シーズンのコレクションの一環として制作されたのが、今回の2 種類のT シャツ。それぞれ素材や形は同じだが、1 枚はコレクションのテーマ「POST REALISM」を元に橋本さんが制作したグラフィックを、もう1枚は橋本さんがコレクション制作時にイメージしていた「UK ロック」をテーマに、画像生成AI で生成した画像を用いている。

写真 商品・製品 「YUKI HASHIMOTO」の2023年秋冬コレクションより。T シャツの「POST REALISM」という文字は橋本さんたちが組み込んだ。
「YUKI HASHIMOTO」の2023年秋冬コレクションより。Tシャツの「POST REALISM」という文字は橋本さんたちが組み込んだ。

コラボの背景を橋本さんはこう語る。

「NFT やメタバースなどの勃興も気になっていましたが、それらはブランドの現実世界での価値を焼き増しするようなもので、あまり好みではありませんでした。その点、AIは新たな価値を生むヒントをもらえる可能性があります。デザイナーズブランドはそのデザイン自体が価値とされてきましたが、技術も進みブランドも増え、差別化が難しくなってきています。デザインだけでなく世界観やスタッフなどを含め多面的に勝負する必要があるとすると、その中でAIをどんな風に活用できるか、考えたかったんです」。

服のデザインにおいて設計図を考える工程(パターンメイキング)は、現在アパレルCAD などが使われつつも、コレクションブランドでは人の手でなされているという。「一見正反対のAI という技術を用いることにも興味があった」と橋本さん。

マツモトさんも「『パターン(型)』という通り、人の身長や体重、体形などをAIに入力すればその人に合ったパターンがすぐに生成される、という未来も遠くないはず。ファッション業界は良くも悪くも、大手のブランドがやり始めるとトレンド化して本質的な価値が見えにくくなってしまうので、小規模でも今取り組むことに意味があると考えました」と話す。

結果は「五分五分」に

橋本さんがマツモトさんにコレクションテーマを説明し、「プロトタイプ」のチームで大量の候補を生成。

生成過程の画像。Rock band UK、UK RockBand、Rock Music、Rock band CDといったワードを入力して画像生成AI で生成

生成過程の画像。Rock band UK、UK RockBand、Rock Music、Rock band CDといったワードを入力して画像生成AI で生成。

「今回のコレクションのコンセプトは『POST REALISM』で、影のテーマを『UKロック』としていました。そこから、遠くから見るとバンドTシャツのようで実際は人工スエードでできている服など、主観を揺さぶるようなコレクションを制作したんです。このTシャツも同様にUKロックだとギリギリわからない線を探りたいと考えました」(橋本さん)。

候補の中から橋本さん側で画像をセレクトし、最小限の加工を施してT シャツにプリントをする、という手順で制作した。

「AI がつくったグラフィックと僕がつくったグラフィックとで、見分けがつくのか否か?に一番興味がありました。もちろん『YUKI HASHIMOTO』の商品として出すので、どれを採用するかを決めたのは自分なのですが。実際展示会では、五分五分という印象でしたね。目利きのバイヤーがそろう中でもそのような印象だったので、人間がつくるものより劣って見えるわけでは無いのだとわかったのは収穫でした。正直僕でも、これはわからないなと思ったくらいです(笑)」(橋本さん)。

発売後も、公式としてはどちらがAIがデザインしたものかは明らかにしていない。

セレクトショップのバイヤーとしての目線から、マツモトさんは「デザイナーの名前を冠していても実際のデザイナーはわからない、というブランドは以前からありますし、消費者にとってはつくり手がAIでも人間でも、そのブランドへの愛と単純にかっこいいと思うかどうか、だけが判断基準な気がします。でもAIを活用することがスタンダードになったら、今度は人間がつくっていることがひとつの価値になったりするのかもしれないです(笑)」と話す。

今後、画像生成AIは「ルックブックやインビテーションカードなどにも使える可能性がある」と橋本さん。「自分のブランドだと、どうしても自分の考えうる範囲でのアイデアに終始して、それ以上が出にくいところがあります。突拍子もないことを提案してくれる存在としてAIをうまく活用していきたいですね」(橋本さん)。

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写真 人物 集合 橋本祐樹(左) リョウマツモト(右)

橋本祐樹(左)

京都造形芸術大学卒業後、2011 年にアントワープ王立芸術アカデミーファッション学科入学。学士過程を修めた後、「ラフ シモンズ」や「メゾンマルジェラ」などでデザインアシスタントとして経験を積んだ。2019 年春夏コレクションより「YUKI HASHIMOTO」をスタート。

リョウマツモト

長野県上田市のセレクトショップ「HOWDAY」のディレクター/バイヤー。

月刊『ブレーン』2023年8月号

    【特集】

  • 「仕事を奪う」は本当か
  • 生成AI の隆盛とクリエイターの未来

    ▼CASE STUDY

  • ・大日本除虫菊/キンチョール「ヤング向け映像」
  • ・KDDI /αU「もう、ひとつの世界。」
  • ・近畿大学「上品な大学、ランク外。」
  • ・櫻坂46『 Start over! 』
    ▼調査

  • クリエイターのAI 活用実態調査
  • 262人の答え
    ▼座談会

  • 広告会社が挑む
  • クリエイティブ力を拡張するAI の使い方
  • 児玉拓也(電通グループ)
  • 柴山 大(アイレップ・博報堂テクノロジーズ)
  • 毛利真崇(サイバーエージェント)
    ▼OPINION

  • ・渋谷慶一郎/音楽
  • ・一ノ瀬京介/映画
  • ・橋本祐樹・リョウマツモト/ファッション
  • ・手塚 眞・栗原 聡/漫画
    ▼REPORT

  • グローバル事例に見る
  • 未来の可能性
  • 志村和広(電通)