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こんなビジネス用語はイヤだ!〜『言葉ダイエット』橋口幸生

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2019年に発売された『言葉ダイエット メール、企画書、就職活動が変わる最強の文章術』の5刷を記念して、著者の橋口幸生さんによる記念コラムをお届けします。テーマは「今すぐダイエットすべき、イヤなビジネス用語たち」。つい使いがちな「させていただく」や「お戻し」などの「卑屈語」、見直してみませんか?

写真 人物 電通 クリエイティブディレクター/コピーライター 橋口幸生(はしぐち・ゆきお)

橋口幸生(はしぐち・ゆきお)

ソーシャルメディアで支持されるコピー、企画を得意とする。代表作はニデック「世界を動かす。未来を変える」、伊藤忠商事「キミのなりたいものっ展?」、アデカ「地味だけど、すごい」、鬼平犯科帳25周年ポスター、「世界ダウン症の日」新聞広告、貞子3D「世界でいちばん、3Dが似合う女」など。『言葉ダイエット』『100案思考』著者。TCC会員。Twitterフォロワー2万人超。趣味は映画観賞。

なぜ、誰もがイラつきながら「させていただく」を使っているのか?

人生のあらゆる場面には、ドレスコードがある。結婚式に作業着で行くやつはいないし、部屋でダラダラする時にタキシードは着ない。ビジネスの場では、やはりビジネスにふさわしい服装が求められる。だいぶカジュアルになってきたとはいえ、役員面接にTシャツ短パンで臨む人は少ないだろう。人はまずカタチから入る生き物なのだ。

服装だけではなく、「言葉」も同じだ。ビジネスで友達と気軽に話すような言葉を使うことはない。スーツやネクタイを着るように、ビジネス専用の言葉を身にまとう。新社会人の頃は、そんなビジネス用語を覚えるだけであっぷあっぷになるものだ。「お世話になります」「お疲れさまです」「ソリューション」などなど…。

ビジネス用語の目的は、ビジネスを円滑に進めることであるはずだ。手段であって目的ではない。しかし、最近はビジネス用語というカタチを重視するあまり、ビジネスの進行が妨げられている場面をしばしば見かける。

そんな思いが、僕が『言葉ダイエット』という本を書くきっかけになった。私たちが日々、使っている「イヤなビジネス用語」を見直して、短く、端的な文章を書くことを提唱する内容だ。幸いなことに、共感してくれる読者の方が大勢いて、今回5刷を出版できることになった。

写真 表紙 『言葉ダイエット メール、企画書、就職活動が変わる最強の文章術』橋口幸生著

言葉ダイエット メール、企画書、就職活動が変わる最強の文章術』橋口幸生著

そこで5刷記念コラムとして、あらためて「今すぐダイエットすべき、イヤなビジネス用語たち」を紹介していきたいと思う。この言葉、つい使っちゃうな〜と共感していただけたら、本を手にとっていただければ幸いだ。

 

こんなビジネス用語はイヤだ!その1 「させていただく」

「言葉ダイエット」でもっとも反響が大きかったのが、これだ。イラつきながらも誰が使っている言葉であり、現代のビジネスパーソンの生きづらさを象徴していると言っても過言ではない。

なぜ、「させていただく」はイラつくのか?それは、「甘え」の言葉だからだ。

「させていただく」は、嫌われる言動へのクッションとして使われる。「休日勤務して、休み明け朝イチに納品してください」とは言いづらいから、「休み明け朝イチの納品をご相談させていただけないでしょうか」と言う。「カンヌを受賞した!俺、才能あるでしょ?」とは言いづらいから、「担当させていただいた商品で、カンヌを受賞させていただきました!」と言う。休日勤務を強いたり、自慢をしたりしているのに嫌われたくないというのは甘えであり、成熟した大人の言動ではない。この幼稚さが、私たちをイラつかせるのだ。

仕事であれば、相手が嫌がるお願いをしなくてはいけない時はある。キャリアアップのために、実績をアピールしなくてはいけない時もある。いちいち気にすることはないのだ。「嫌われないこと」のプライオリティを下げるだけで、人生はずっと気楽になる。

それでも、どうしても「させていただく」を使いたくなったら、ぜひ「言葉ダイエット」を読んでほしい。誰でも使える簡単な言い換え方を紹介している。

 

こんなビジネス用語はイヤだ!その2 「お戻し」

最近、僕が働いている広告業界では、だれもかれもがウンザリになるくらい「お戻し」と言うようになった。要は「フィードバック」のことで、広告会社がクライアントに対して「先日の提案へのお戻しを頂戴できないでしょうか?」という風に使う。

僕はこういう言葉は敬語ではなく、「卑屈語」だと思っている。相手をリスペクトするのではなく、ただただ自分を下げることでその場をやり過ごそうという卑屈な態度が現れた言葉だ。

ビジネスにとって何より重要なのは、フラットでオープンな関係性だ。「あっちが上で、こっちが下」という関係性が出来てしまうと、ファクトやロジックではなく関係性で意思決定がなされるようになる。こうなると、どんなに間違ったことでも修正や撤退ができず、日本にありがちな負けパターンに陥っていく。

相手をリスペクトしているからこそ、耳に痛いことも言わなくてはいけない時がある。そして、そんな態度の人や会社にこそ、お金が集まる。「お戻しを頂戴いたしました!」と言って喜んでいる人が、調達対象の業者以上の扱いを受けることは無いだろう。

「お戻し」だけではなく、「おまとめ」「お打ち合わせ」など、何でも「お」をつけないと気が済まない人が急増している。たかが言葉使いに神経質だな…思うかもしれない。しかし、卑屈な言葉は、あなたを卑屈な人間にする。確実に。ふだん何気なく使っている敬語が卑屈語になっていないか、注意してほしい。

 

こんなビジネス用語はイヤだ!その3 「ありたき姿」

これはキャリアアップや自己啓発系のワークショップなどでよく使われる言葉だ。英語の「as is」「to be」を直訳したのだろうけど、どうにも胡散臭い。「理想像」や「目標」など、もっと自然な日本語があるのに、なんでこんな妙な言い回しをするんだろう?と思わずにはいられない。

ワークショップのような非日常的な学びの場で、それに相応しい言葉選びが必要なのは理解できる。将来の自分をイメージすることが重要なのも、まったくもってその通りだ。しかし、「ありたき姿」なんていうもったいぶった言葉で、本当に現実的な将来像を描くことができるのだろうか?ワークショップ向けにカッコつけた、本来の自分とはかけ離れたイメージを抱いてしまうのではないだろうか?

プランナーの明円卓氏はYouTube番組『広告ウヒョー!』のインタビューで、「“課題”を持ち寄ると、課題が見つかりづらい。“やだなーという感情”を持ち寄ると、課題が見つかりやすい」と言っていた。これはビジネス用語の課題をわかりやすく指摘している。もちろん、プレゼンの場で「御社のやだなーは…」等と言うわけにはいかないだろう。しかし、ビジネス用語というカタチを優先するあまり、人間らしさを見失っては本末転倒だ。カタチはカタチとして適度に守りつつ、自分の人間としての実感を忘れないようにしたい。

 

ビジネス用語にうんざりしたら「言葉ダイエット」。

当たり前に使っているけど、よく考えたらちょっとイヤだな…ビジネス用語にそんな思いを抱いたら、ぜひ「言葉ダイエット」を読んで欲しい(長々書いてきたけど、このコラムで一番伝えたい内容はこれです!!!)。「させていただきます禁止」「ムダな敬語禁止」「抽象論禁止」など、行き過ぎたビジネス用語のカタチから自由になって、伝わる短い文章を、短い時間で書くノウハウを紹介している。文才もセンスも不要で、誰でもすぐに実践できる内容だ。

今のビジネス用語は、ジャケットやネクタイを何枚も重ね着してカチンコチンになっている状態にたとえられると思う。清潔なTシャツに薄手のジャケットを羽織るような感覚で、少しカジュアルになってみよう。何も全裸になる必要はない。勇気を出して、ふだんの自分を少しだけ文章に出すようにすればいい。

いつもの毎日を軽やかに、自分らしく過ごせるようになるはずだ。

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『言葉ダイエット メール、企画書、就職活動が変わる最強の文章術』 橋口幸生著/定価1,650円(本体1,500円+税)

なぜあなたの文章は読みづらいのか。理由は、ただひとつ。「書きすぎ」です。伝えたい内容をあれもこれも詰め込むのではなく、無駄な要素を削ぎ落とす、「言葉のダイエット」をはじめよう。すぐマネできる「文例」も多数収録。