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広告モデルへとシフトする米国のストリーミングビデオ市場

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世界中でストリーミング ビデオが放送 に取って代わりつつある。世界のなかでも、特に広告モデルへのシフトが顕著なのが米国。進化しつづける米国のストリーミングビデオ市場を理解することは、今後グローバル、もしくは日本でどのような変化が訪れるのかを予測することにもつながる。グローバルメディアエージェンシーIPG Mediabrands のニューヨーク本社でメディア戦略を担当する副島奈美氏が、同エージェンシーの調査機関MAGNAのブライアン・ヒューズとカラ・マナットのレポートを基に、激変を続ける米国のストリーミングビデオ市場の動向を説明する。

 

成長し続けるストリーミングビデオ業界

ストリーミングとは、インターネット経由でサーバーからデバイス(コンピューター、スマートフォン、スマート TV など)にコンテンツを転送する方法を指す。コンテンツがデバイスに完全に保存されるまで待つ必要があるダウンロードとは異なり、ストリーミングでは、ユーザーは送信中にコンテンツの表示を開始でき、デバイス上のストレージ容量を占有しない。また、ケーブル テレビや地上波テレビとは異なり、コンテンツを視聴するために特定のケーブルやアンテナを必要としない。そのため、インターネット アクセスとコンテンツを視聴するための接続デバイスがあれば、誰でもすぐにビデオを楽しむことができるのが特徴だ。

ユーザーにとってストリーミングのメリットは明らかだ。(ライブ イベントでない限り) 放送局のスケジュールに縛られる必要がなく、外出先でも、自宅でも好きなコンテンツを楽しむことができる。言い換えれば、ストリーミングビデオは、自分が好きなコンテンツを楽しみたいユーザーにとって、パーソナライズされたエンタテインメントを即座に提供してくれる非常に便利なプラットフォームだ。

そして、インターネットやデバイスの普及により、消費者のビデオ視聴は地上波からストリーミングに大きく移行している。結果、従来のテレビの視聴率は下降し、特に若い世代の間では地上波テレビにアクセスする人が年々減ってきている。このトレンドは米国で顕著だが、全世界で見受けられる傾向だ。

 

出典: Magna, 2023年Q2 Video Update – Resetting the Landscape

 

出典: Magna, 2023年Q2 Time Spent with Media

 

広告収入モデルへの移行

このようなユーザー動向を踏まえ、ストリーミング ビデオを提供する会社は増える一方だ。YouTube、Netflix、Huluなど、ストリーミング ビデオ コンテンツを提供する専門会社も存在するが、いままでテレビへコンテンツを提供していたDisney、Paramount、HBOといったコンテンツ制作会社も続々と自社のストリーミングプラットフォームを提供している。

これらのサービスにアクセスするには、有料サブスクリプションに加入する必要があるものも複数あるが、すべてのサービスがコンテンツの閲覧に料金を必要とするわけではなく、代わりに広告によって収入を得るものも存在する。YouTubeに代表されるような、広告サポート型サービスは現在米国のストリーミングビデオサービスの大半を占めており、複数のストリーミングサービスに料金を支払うことを拒む消費者からのプレッシャーを受けて、今後も増えると予測されている。

尚、無料で視聴できるサービスは FAST (Free Ad-Supported Streaming TV) と呼ばれ、その他のサービスは AVOD (Ad-supported Video on Demand) または SVOD (Subscription Video on Demand) と呼ばれるが、多くの有料サブスクリプション サービスが無料または低価格の広告付きサービスを提供し始めており、FASTとAVOD/SVODの違いは徐々になくなりつつある。

顕著な例を挙げると、有料サービスのリーダーであるNetflixは2022年に広告モデルの導入を発表し、米国、カナダ、オーストラリア、ブラジル、フランス、イタリア、ドイツ、日本、韓国、メキシコ、スペイン、英国で利用できる低価格プランを提供し始めた。そしてDisney+、Paramount+、HBO Maxなどの有料ストリーミングビデオサービスも、広告付きモデルに移行している。

 

出典: Magna, 2023年Q2 Video Update – Resetting the Landscape

 

出典: Magna, 2023年Q2 Video Update – Resetting the Landscape

 

マルチ・プラットフォームのビデオ広告プランニング

ストリーミング ビデオが通常のテレビ 視聴に取って代わるにつれて、いままでテレビ広告と呼ばれていたビデオ広告が、様々なプラットフォームで流れるようになっている。そのような状況に対応するため、広告プランニングを担うIPG Mediabrandsでは、マルチ・プラットフォームの視聴者データとメディアツールを活用し、ユーザーのビデオ視聴動向に合わせた、クロス・デバイス広告プランニングを実施している。また、どのデバイスやプラットフォームがもっとも有効か、といったテストを様々なビデオストリーミングパートナーと実施している。

たとえば、米ケーブル会社のSpectrumと実施した最新のメディア トライアルでは、地上波、Connected TV(CTV)、モバイルを組み合わせたフル メディア ミックスが、購入意向を促進するのに最も効果的であることがわかった。また、その中でも特にCTVが、購入意向を上げるために非常に重要な役割を果たしていることもわかってきている。

 

調査手法:サンプル数n=1,684、広告接触回数 n=33,368,カジュアルダイニング及び保険会社の広告を基に測定。
出典: MAGNA Media Trials, Spectrum, “Ad Mix Synergy: Myth or Reality?” 2022年

 

クロス・プラットフォーム測定

そして、そのようなクロス・デバイスのプランニングを行うためには、プラットフォームを横断した効果測定が重要になってくる。しかし、デバイスやプラットフォームが増え続ける中、クロス・プラットフォーム測定は思ったより簡単ではない。

オーディエンス測定会社 Nielsen がクロス・デバイス測定ソリューション Nielsen One を打ち出している一方で、VideoAmp、iSpot、comScore などの新しい測定会社がNielsenのギャップを埋めるために市場に参入している。しかし、これらのソリューションはいずれも、Google、Meta、Amazon などの大手プレーヤーが情報共有を拒んだり、プラットフォーム間のビデオ視聴データの共有の遅れにより、全体像を把握することができない。今年の5月に行われた、最新のテレビ番組やビデオ広告の在庫を広告主に紹介し、テレビCM枠の売買を取引するビデオ・アップフロントと呼ばれるメディアイベントでも、測定に関する議論が欠如していることが問題視されていた。

 

適切なクリエイティブの必要性

また、ストリーミングビデオの急増と消費者行動の変化により、広告クリエイティブにも変化が求められている。特に、ストリーミングビデオのオンデマンドの性質により、視聴者は邪魔な広告を煩わしく感じ、広告をスキップしたり避けたりする傾向が高くなってきている。一方、ストリーミングによりターゲットを絞ったインタラクティブ広告エクスペリエンスが可能になり、ブランドが新たなコネクションを提供することもできるようになっている。

 

出典: Magna, 2023年Q2 Video Update – Resetting the Landscape

 

将来どのようなクリエイティブが必要になるか、を理解するためMagna では、多数のストリーミングビデオパートナーと新しい広告フォーマットを試している。これらの実験では、従来の 15秒や 30秒といった広告ではなく、オーバーレイやインタラクティブといった新しい広告フォーマットを使用することにより、消費者が広告をスキップする可能性を減らすだけでなく、ブランドの想起と嗜好も高めることができることを示している。

 

画像説明文
出典:  Magna Media Trials, Roku, “Beyond the :30 on Streaming TV” 2022年

 

そして、ビデオ・アップフロントの前に開催されたデジタルメディア企業が主催しているニューフロントというデジタル広告の在庫紹介および事前交渉と取引を行うことを目的としたメディアイベントでは、多くの企業が、ストリーミング広告のインタラクティブ性、記憶性、関連性を高めることを目的として、独自の広告フォーマットを複数発表した。

 

変化し続けるストリーミングビデオ市場

ストリーミング ビデオの普及はこれからますます加速するだろう。このような変化に対応するため、ブランドはメディア プランをマルチ・プラットフォームに適応させると同時に、消費者のニーズに合わせてクリエイティブを調整する必要がある。ストリーミング ビデオ市場はまだ成長過程にあるため、IPG Mediabrandsでは継続的にトレンドを視るとともに、メディアテストを実施し、時代の先を行きたいブランドに情報を提供し続けている。

“As viewers exert more control than ever over when and where they watch video content, our approach to brand-building will have to change. The good news is that streaming video offers deeper targeting and interactive ad options that can captures consumers’ attention in new ways.” – Brian Hughes, Media Intelligence, Marketplace Strategy, MAGNA

「視聴者がいつ、どこでビデオコンテンツを視聴するかをこれまで以上にコントロールできるようになるにつれ、ブランド構築に対するマーケターのアプローチも変わる必要があります。ブランドにとっての利点は、ストリーミングビデオがより深いターゲティングとインタラクティブな広告オプションを提供し、新しい方法で消費者の注目を集めることができるということです。」 – Brian Hughes 氏、メディア インテリジェンス、マーケットプレイス戦略、MAGNA

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副島奈美氏

IPG Mediabrands
副島奈美氏

米イェール大学で政治経済を専攻。その後東京のソニーに就職し、本社スタッフとして東京・NYオフィスで働く。2003年に米コロンビアビジネススクールに進み、MBAを取得。卒業後は戦略コンサルティング会社、デジタル・エージェンシ―を経て、グローバルの大手広告代理店ユニバーサル・マッキャンにてグローバルメディア戦略を担当。