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「サイバーパンク桃太郎」作者が考える、生成AIとクリエイターの未来とは

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2022年8月、X(Twitter)に投稿され、生成AIで制作した漫画として話題を集めた「サイバーパンク桃太郎」。作者のRootport(ルートポート)さんは今年9月、米・TIME誌「世界のAI分野で最も影響力のある100人」に選出されている。AIの現状と今後をどのように捉えているのだろうか。

実データ 「サイバーパンク桃太郎」

実験的作品がSNSで話題に

 

「サイバーパンク桃太郎」は、おとぎ話の桃太郎をベースとした作品で、サイバーパンクな世界を舞台に主人公の「桃太郎(ピーチ・ジョン)」がお供を連れて巨大な敵に立ち向かうという物語だ。作画は画像生成AIのMidjourney で生成され、2023年3月には新潮社から加筆修正した単行本が発売されている。

著者のRootportさんはマンガの原作者や小説家として働く傍ら、AIの性能を知るため、実験的にこの作品をつくってX に投稿していた。

「生成AI には10年以上の歴史がありますが、私は2018年頃から関心を寄せていました。精度は低いものの画像生成が可能だったので、『10年後くらいにはAIでマンガをつくれるんじゃないかな?』と考えていました」。

そうした思いもあり、Midjourney が登場した2022年には、プロトタイプとしてマンガ制作を開始。そこから生まれたのが「サイバーパンク桃太郎」だ。


パース・イメージ マンガの制作前に生成したテスト画像
マンガの制作前に生成したテスト画像。プロンプトに「cyberpunk midnight tokyo」といった文言を入力して生成している。

当時のMidjourneyはバージョン3.0。ある程度の作画は可能なものの、人間の手や銃を構える姿などを細かく描くことができなかった。そのため、加筆が必要な場合はマンガ家やイラストレーターがよく使う多機能アプリ「CLIP STUDIO PAINT」を使って補正するか、シナリオや演出を変更することによって対応した。

「『サイバーパンク桃太郎』は複雑なカットをあまり多用せず、バストアップの画像が中心。漫画家の世界では『顔マンガ』と呼ばれ良くないものとされますが、当時のAIの性能も勘案して、極力作画に違和感のあるカットを減らしています」。

一週間でまるで別物、日々進歩するAI

最初の投稿から1年以上が経過した現在も、RootportさんはAIを活用している。メインはStable Diffusion を使用しているが、当時のMidjourney3.0と比較すると精度が著しく向上したと実感している。

「AIは一週間で世界が一変するレベルで進化しています。今のAIが決定的に違うのは、構図を絵で指示できるようになったことです」。これまでは文字ベースの指示のみで生成を行っていたが、現在は棒人間などでアウトプットの構図を指示できる「ControlNet」というStable Diffusionの拡張機能が登場。これにより、構図のイメージを読み込ませることで、イメージ通りの画像を生成できるようになった。

また、モデルデータの精度も日々向上している。「以前は『○○をしている××』というプロンプトが苦手でしたが、今は思った通りの画像を生成しやすくなりました。より細かな指示が可能になったというイメージですね」。時には自分の絵を読み込ませ、色付けの参考にするといった使用例もある。

マンガ制作における作業効率の底上げもAIの登場による変化だ。アプリの使用方法や関数などで不明点があった場合には、Microsoftの「Bing AI」で使い方を聞くことも増えた。Webで検索するよりも、自身が解決したい問題に合った解決方法を提示してくれるからだ。

こうした個人に特化した解決策の提示は、「CLIP STUDIO PAINT」のような多機能アプリを活用する際のヘルプや、作業効率を上げるアプリの導入の手助けになる。「さらに、今まで人間が試したことのない表現がAIから生まれる可能性もあります。実際、イラストを生成するAIに、味付けとして実写を生成するAIをわずかに混ぜたものが注目を集めたこともありました」。


パース・イメージ 「サイバーパンク桃太郎」のコンセプトアート
「サイバーパンク桃太郎」のコンセプトアート。

AIの登場で仕事が増える可能性も

早くからAIに注目していたRootportさんだが、AIがクリエイターに与える影響について、どのように考えているのだろうか。

「技術革新は人々の仕事を奪うどころかむしろ人を忙しくする、というのが私の見立てです。私は会計の歴史についての本も書いているのですが、たとえば産業革命の時代、紡績機ができて仕事がなくなったかといえばそんなことはなく、工場で長時間労働をさせられることもありました。AIの誕生ではそこまでにはならないにせよ、5 ~10年という長いスパンで見ると、むしろ人間のやることは増えていくのでは?と思っています」。産業を問わず、ビジネスモデルが大きく変わっていくことになると日々感じている。

「レコードとラジオが登場した時も、これまで酒場で音楽を演奏していた人たちは失業したかといえば、そんなことはありません。むしろ音楽に触れる機会が増えたことで、より多くの場所で音楽の需要が増えていきました。これは音楽家のビジネスモデルが、演奏しておひねりをもらうというモデルから、レコードを売るモデルに変化したということ。このように、AIの登場によってビジネス構造の変化は起こり得るのではないでしょうか。たとえば、菓子などに記載されているイメージキャラクターは、AIが発達すれば、瞬時に生成できるようになります。一方、こだわりを持った企業などはAIによる生成に頼らず、イラストレーターに依頼するでしょう。さらにイラストレーターが、そのキャラクターを生成するAIを制作し、企業に月額いくらで使用許可を出すといったようなビジネスが生まれる可能性もある。このようなビジネスモデルの変化が起こってくると思います」。

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