メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×

Z世代中心に来場者が43%増 ミツカン「凹メシプロジェクト」のPR戦略

share

2022年12月9日〜18日に実施した第一弾の「凹メシ食堂」

個々の商品よりも広く、企業ブランド自体への関与度や好意度を高められないか――ミツカンが開始した「凹メシ」プロジェクトが生活者との接点を広げつつある。2022年11月の第一弾ではイベントの累計来場者は1772人。23年7月の第二弾では2526人に増加した。コンテンツを変化させたり、認知経路をターゲットであるMZ世代に合わせて改善したりしたことも拡大を後押しした。企画制作はマテリアル。

「凹メシ」プロジェクトを担うのは「凹んでない課」。実はミツカン代表取締役社長兼CEOの吉永智征氏も所属する組織だが、発端は同社CRM本部によるミツカンの社内外向けブランディング施策だ。

CRM本部の田中保憲課長は、「これまで商品を基軸としてマス広告を打ったり、店頭でもPOPやチラシなどで訴求したりしてきましたが、ある側面では、商品に限られた、一過性の接点だったと言えます」と話す。

「しかし今後、人口、ひいては調理をする人の減少という環境を考えると、ミツカンブランド全体をずっとご活用いただくことが、次の230年、250年を築くのに不可欠です。そこで、ここ1、2年間は『ミツカン』のマークを探してくれるお客さま、すなわち、ブランド自体を選んでいただける方を増やそうという活動をしてきました」(田中氏)

写真 人物 ミツカン CRM本部 田中保憲課長
ミツカンCRM本部の田中保憲課長

とりわけ重要視したのが、ミレニアル世代(1980〜90年代前半生まれ)や、Z世代(90年代中盤から2000年代生まれ)だ。それ以上の世代は調理にかかわる機会が多く、一定以上のファンがいると判断した。言うなれば、「若者にミツカンを好きになってもらう施策」。まだ「凹メシ」というプロジェクト名や、こうしたターゲットにどうアプローチするか、といった段階から加わったのが、マテリアルだった。

マテリアル ストーリーテリンググループ PRプランナーの常谷友梨絵氏はこう話す。

写真 人物 マテリアル ストーリーテリンググループ PRプランナー 常谷友梨絵氏
マテリアル ストーリーテリンググループ PRプランナーの常谷友梨絵氏

「世の中で若者がどういうことを思っているか。さらにより広く、ミツカンブランドが消費者からどう思われているか。商品ごとの施策ではなく、ブランドとしてのアプローチとして何をすべきか。そうしたところから議論を始めていきました」(常谷氏)

着目したのは、心情的な価値だった。ミツカン側でプロジェクトを推進するCRM本部CRM推進部の川口莉奈氏は、「凹メシ」のコンセプトにたどりつくまでを、こう振り返る。

「当社の商品は、たとえばお酢なら、肥満気味の方の内臓脂肪の減少を助けるなど、身体への機能性を訴求することがあります。しかし、MZ世代は比較的、身体面では課題を感じている人が少ないはず。それよりも、仕事で壁にぶつかったり、プライベートでも気落ちするようなことがあったりすると思います。そうした心情的な健康に寄り添う取り組みができれば、ミツカンが近しい存在になれるのではないかと考えました」(川口氏)

一方で、ミツカンの譲れない価値といえば「食事」。食事から軸足をぶらさないことはもちろん、川口氏はこう続ける。

「ミツカンとしては、食事が、心の助けになると考えています。しかし、深刻な心の悩みを解決できるかのようにうたってしまうと、それはそれでウソになってしまうと思いました。そうなる前の手前の部分、長い目でみると大きくはないかもしれないけれど、文字通り、ちょっとした“凹む”出来事があったときに、元気づけてくれる存在であるのが、よいだろうと」(川口氏)

写真 人物 ミツカン CRM本部 CRM推進部 川口莉奈氏
ミツカンCRM本部CRM推進部の川口莉奈氏

2022年12月、東京・表参道で開催したイベントにて掲げたのは、「へこんだときには鍋だ鍋」。こうした言葉の運び方も、深刻すぎない形で、ターゲットの心情に寄り添っている。

「言うだけではなくて、徹底して企画に盛り込んでいたのは、本当にミツカンという企業まるごとの、本気の姿勢をどう伝えていくか、でした」と常谷氏は話す。メインコンテンツは、会場で“へこんだ”エピソードを提出すると、無料で鍋を食べることができるというものだ。鍋によるちょっとした癒やしを体験できるように。用意した鍋1286食すべてを提供しきり、来場者の98.3%が「ちょっと元気出た」と回答するなど、確かな手応えも得た。

第一弾「凹メシ食堂」で「凹んだエピソード」の記入と引き換えに提供した鍋
凹んだエピソードを貼り付けたボード
「くつ下洗うたび片方がなくなる」「残業つづきでヘトヘト」など多くのエピソードが集まった
(写真左)第一弾「凹メシ食堂」で「凹んだエピソード」の記入と引き換えに提供した鍋(写真右上)凹んだエピソードを貼り付けたボード/(同右下)「くつ下洗うたび片方がなくなる」「残業つづきでヘトヘト」など多くのエピソードが集まった

従来のメディアPRにとらわれず

イベントでは、思わぬ副次的な効果もあった。田中氏は「ご来場された皆さまと、直接コミュニケーションできたことです」と話す。会期中は田中氏か川口氏、どちらかが必ず会場にいるようにしていた。

「私たちが自ら発信することで、ややもすればタレントさんに代弁いただくよりも、ブランドが持つ人間性や姿勢は伝わりやすいのではないか、そう思い、なるべく皆勤賞を狙って通いました」(田中氏)

「イベント会場では鍋をお召し上がりいただく際、こたつに入っていただく仕掛けでした。しかし、次第に会場外でお並びいただかざるを得なくなってしまい、このままでは寒い中で並ばされたこと自体が、“凹んだ”体験になってしまって本末転倒です。気を紛らわせていただくためにも、待機列の皆さんとはできるだけおしゃべりをさせていただきました」(川口氏)

イベントや「凹んでない課」自体のメディア露出もあり、常谷氏も「認知はかなり高められたと思います」と話す。初日にはテレビなどメディア向けに発表会を実施し、情報番組などでもイベントを紹介。

「しかし、反省点もあります。というのは、ターゲットとしていたMZ世代に、十分届いていたか、という点です。ターゲットと重なる社内の若手にもヒアリングして、こうしたイベントを知ったり、行きたいと思ったりする認知経路を確認しました。すると、やはりTikTokやInstagramで友人が紹介していたり、インフルエンサーの投稿で知って、自分も写真や動画を撮りたくなるか、楽しめるかなどを基準に行くかどうかを決めるという声がありました。よりターゲットに届けるために、第二弾では従来的なメディアPRにこだわらず、SNSを中心としたアプローチに切り替えました」(常谷氏)

第二弾として実施したのは、「あそべる凹メシ食堂」。今回のメニューは「そうめん」で、「元気だそうめん」と名付けた。“凹んだ”エピソードを集めるのは同様だが、そこから先にゲーム性を持たせた。ゲームセンターのようにエピソードと交換でメダルを渡し、来場者が会場内のクレーンゲームやガチャガチャ(カプセルトイ)など3つのゲームで遊ぶと、そうめんのトッピングが手に入る仕掛けだ。

「ゲームセンターの要素を加えたのは、イベントに来る若者が、一体何を体験できたら、ミツカンのことを好きになってもらえるか、ということを考えた結果です。TikTokで都内のイベントを見たり、本当に行ってみたりもしました。食事ができるだけでなく、ゲームセンター自体も“凹んだ”気持ちを回復させる効果がある、というつながりもあります」(常谷氏)

イベント初日にはSNSインフルエンサーを中心に招待。会期中に自発的に来場するインフルエンサーも少なくなく、生田衣梨奈さんなど著名人のほか、海外向けに日本のイベントを紹介するインフルエンサーも訪れ、国境を超えて話題が広まった。結果、来場者は2526人。第一弾に続き、用意した分のそうめんはすべて提供しきった。

第二弾の課題だったターゲットについては、アンケート結果から、10歳代以下が約16%、20歳代が約40%と、半数超に。来場のきっかけを見ても、TikTokが28%で最多だった。以下、Instagramが20%、X(Twitter)が14%という結果となった。口コミで、という回答も27.5%となった(認知経路は複数回答)。

「アンケートには実は、『通りすがり』というのも選択肢にあったのです。こうしたイベントは通りすがりで見てふらっと入る方も少なくないと思っていたのですが、フタを開けてみると7%程度。話題化して、目的地として来てくださっているというのも印象的でした」(田中氏)

第二弾の「あそべる凹メシ食堂」にはゲームセンターの要素を加えた
第二弾の「あそべる凹メシ食堂」にはゲームセンターの要素を加えた

今後の目標は「凹メシ」を生活に根付いた言葉や行動に昇華させていくことだ。「一過性のイベントやキャンペーンだけでなく、少し落ち込んだときにはごはんを食べるといい、という理解、ミツカンがそれをお手伝いしているところの理解、消費者に身近で、寄り添っているブランドであるということを浸透させていきたい」と常谷氏は話す。

実は今秋・今冬に向けて第三弾となる企画を目下仕込み中だ。企画内容の詳細は未公開だが、アプローチ方法としては、イベント単体で完結させるのではなく、「凹メシ」という取り組みそのものについての、消費者からの投稿や言及を集めることを念頭に置いた。

「常谷さんが話したことは、私たちとしてもかねてからの思い。さらに話を広げれば、『凹メシ』は、実はミツカンだけの武器ではないとも思います。食事を通じて温かい気持ちになってもらって、みんなを元気にしたいというのは、他社でも同じ思いを持っているはずです。社内においても私たちCRM本部だけではなく、営業担当のほか、人事などバックオフィスすらも共感してくれているんです。一企業のPR施策にとどまらず、他社や団体などを巻き込んで参加してもらえる機会を増やしていければと思います」(川口氏)

advertimes_endmark
お問い合わせ
マテリアル
株式会社マテリアルMAIL:marketing@materialpr.jpURL:https://materialprmenu.jp