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広報の転職に必要なのは“Growth Mindset” HP、MSを経てNECへ、コンフォートゾーンから脱却する勇気で職を重ねてキャリア育む 岡部一志(NEC)

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広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。人事異動も多い日本企業の場合、専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、企業のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のキャリアプランを考えてきたのでしょうか。

横のつながりも多い広報の世界。本コラムではリレー形式で、「広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。神田健太郎さんからの紹介で今回、登場するのは岡部一志さんです。

日本電気(NEC)
シニアディレクター コーポレートコミュニケーション統括 
岡部一志氏

1991年に大学卒業後、ヒューレット・パッカード(HP)の日本法人(当時の横河・ヒューレット・パッカード:YHP)に入社、広報室に配属、8年半報道担当。1999年末にマイクロソフトの日本法人(現在の日本マイクロソフト)に入社し、広報グループ長、広報室長、コーポレートコミュニケーション本部長、業務執行役員など、マイクロソフトの日本のコミュニケーションリードとして責任者を20年半務めました。2020年6月に、NECに入社、カルチャー変革本部長代理、2021年1月にコーポレートコミュニケーション本部長に就任、2022年4月からシニアディレクター コーポレートコミュニケーション統括。現在に至る。

 
Q1:現在の仕事内容は?

NECでコーポレートコミュニケーションに関する統括責任者をしています。約3年前、COVID-19の真っただ中に、入社をしました。NECは数年前から全社的な企業変革を推進し、その中の要素に「カルチャー変革」や「コミュニケーション変革」も掲げています。

この3年間で、コーポレートコミュニケーション機能も変革が進み始めており、年々責任領域が拡大、それに伴い組織の人数規模も2.5倍ほどになりました。現在は、大きく5つの機能カテゴリがあります。

  • ① CEO/エグゼクティブコミュニケーション
  • ② 事業の加速を推進するコミュニケーション
  • ③ カルチャー変革・社員エンゲージメント向上を推進するコミュニケーション
  • ④ Citizenshipやスポーツ/パラスポーツの支援施策とコミュニケーション
  • ⑤ コミュニケーションチャネル(SNSのNEC公式アカウント、コーポレートブログ、社内イントラネットなど)の運用

私がNECに入社して、コーポレートコミュニケーションを担当した際には、いわゆるメディアリレーションを中心とした広報機能、イントラネットを活用した社内広報、社会貢献活動などに責任を持つ組織でした。3年間で、組織内の変革も進め、CEO/エグゼクティブコミュニケーションやストーリーテリングの新機能を立ち上げたり、社内の他組織にあった機能を統合するなどし、上記の幅広い機能を各オーディエンスに最適な形に組み合わせて、統合したコミュニケーションを行うアプローチを強化しています。

また、これまで日本ファーストでやってきた活動を「日本含むグローバル」という考え方で進められるようなマインドセットの醸成にもチャレンジしています。これらの改革により、コミュニケーション活動から生まれるインパクトの最大化を目指しています。

 
Q2:これまでの職歴は?

現在、会社は3社目ですが、社会人人生33年間、広報・コミュニケーション業務一筋というキャリアです。就活をしている頃は、メディアで記者の仕事に就きたいという思いがありました。そのためHPに入社後も「マスコミと仕事をしたい」=「広報の仕事がしたい」と言い続けました。結果、希望した通り、広報室に配属され、報道担当としてまさに記者の皆さんと仕事をすることになり、とてもエキサイティングで充実した8年半を過ごしました。当時はパソコンもインターネットもスマホもない時代で、ワープロでリリースを作り、印刷物をもって記者クラブや新聞・雑誌社周りをして広報担当として仕事をしていました。

大きな経験になったのは、当時、HPが多くの日本企業と提携拡大を進めていたので、若手ながらに様々な企業の広報担当の皆さんと交流させていただく機会を持てたことです。その中で、最も印象に残っていたのが現在、勤務しているNECとの提携でした。日本市場での有効な広報活動を展開するには、日本企業から学ぶという素晴らしい経験になりました。

当時のHPは、米国においてもMost Admired Companyに選ばれたり、日本でも「社員にやさしい会社」に選ばれたりと、単純に言えば、無茶苦茶「いい会社」で、それは「HP Way」という企業理念が経営の隅々にまでいきわたり、社員教育も徹底されており、広報活動においても「HP Way」に沿った活動という意識がとても高かったです。今でも私自身のビジネスパーソンとしての基礎は、「HP Way」と言い切れると思います。

その後、マイクロソフトの日本法人に転職しました。2020年5月末に退職するまで20年半ほど、日本でのコミュニケーションリードというロールを担当しました。

当時は、Windows、Office、Windows Serverなどマイクロソフトの製品が日々の社会生活やビジネスの中で、どんどん活用が進んでいる時期で、企業責任を問われる会社にその位置づけも変わっていました。

同時に、競争法の観点からリーガルイッシュ―が起きたり、ICTの普及とともにサイバーセキュリティ―の問題が世界中で発生し始めた頃で、民間企業としては世界でも類を見ないくらいに社会的に注目され、毎日世界中のメディアで取り上げられるようになりました。

責任ある企業としての経営の考え、姿勢を社会に対して明確に示し、社会から「信頼される企業」として認知されるためのコミュニケーション活動の徹底が大きな責任でした。メディア対応を核としていた活動に加えて、渉外部門と連携した政府や自治体向けのコミュニケーション、NPOとの連携、お客様やパートナーと連携したPRの徹底、それとトップを活用した企業姿勢を示すPRなどの活動にどんどんシフトしていきました。

また、2000年代後半からはテクノロジーのイノベーションが進み、現在では当たり前の検索、スマホ、SNS、クラウド、AIなど新しい技術が、様々な企業から生まれ、ビジネスの在り方も変わり、事業の競争が激化するとともに、将来の継続的な成長に向けて、「企業の変革」が問われるようになりました。

マイクロソフトがどういう企業ミッションの会社で、社内カルチャーの変革をどう進めるか、そこにコミュニケーションとして軸を置いた戦略をとりました。コミュニケーション機能の責任は、「ミッションを推進すること」というのがCEOからも明確にメッセージされていたので、私自身も社長やリーダーシップチームと連携して、その責務に邁進しました。

現在のNECでは、2020年にNECグループが共通で持つ価値観であり行動の原点として「NEC Way」が定義されました。その中でパーパス(存在意義)が設定され、現在の中期経営計画においてもパーパス経営が徹底されています。このパーパスの実現に向けて、企業変革を加速し、カルチャー変革やコミュニケーション活動の変革を推進していくという方針が、NECで働く大きな決め手になりました。

 
Q3:転職や社内異動などにおいて、強く意識したことは?

私自身は2回転職を経験していますが、一番意識していることはGrowth Mindsetです。新卒からやりたいと思った広報・コミュニケーションの仕事に30年以上携われているので、ノウハウやスキル的なものは実務経験を通してずいぶん身についてきたかなと思います。

そして、コミュニケーションの「プロフェッショナル」でありたいという思いや自負が強くなってもいます。最初の転職では、新卒から続けてきた広報としての経験をよりスケールさせていくようなチャレンジをしてみたいと思いました。

前職では20年以上も日本でのコミュニケーションリードのポジションを任されたことから、グローバルオペレーションの中での学びが多く、責任感もそれなりに備わってきたし、自分のリーダーシップで社内外への影響力を発揮できる機会も得られることも多くなっていました。

正直言えば、長くやっているから安泰なものではなく、年々さらなる成長や高い目標の達成を求められ、責任がどんどん大きくなるという環境でしたので、その期待に応え、目標を達成していくには、常に前向きな姿勢でGrowth Mindsetであることが重要です。

一方で、だいぶ自分にとっては「コンフォートゾーン」に身を置いているなと感じることも多くなりました。その際に、まさにGrowth Mindsetで、「コンフォートゾーンからの脱却」を強く意識することが大事だと思っています。人間あまりにも快適な状況に身を置きすぎると自然と慣れが生じてしまい、自分で気づかないうちに向上心が止まり、自分の成長も鈍化してしまうということに陥りやすいと思います。

現在も、自分自身で意識することに加えて、毎月部署のメンバーにメッセージを送る、対話する機会を持っているのですが、その際必ず最後に、このGrowth Mindsetを持って、「コンフォートゾーンからの脱却」を意識してほしい、ということを言い続けています。

 
Q4:国内において広報としてのキャリア形成で悩みとなることは何でしょうか?

広報・コミュニケーション業務の効果や価値を何で示すのか?ということです。つまり、インパクトを何で測るのか。これは日常業務にとっても大きな課題なのですが、キャリア形成にとっても大事だなと思います。

つまり自分が経験してきたことを、どういう「インパクト」として表現できるか。自分もかつてはそうでしたが、業務のKPIは例えば、プレスリリースを年間XX件発信、記者会見をXX回実施、記事をXX件獲得みたいなものをセットしている時期もありました。これだとアクティビティーベースの目標になりがちで、ただ残念ながらその数字からは価値がなかなか見えないので、会社や組織の目指していることに自分の業務がどう貢献できているのかはわからないままです。

「広報・コミュニケーション」の業務をどういうインパクトで見ていくか、この視点がグローバルカンパニーと比べると遅れているのでは?と感じています。キャリアを考えたときに、自分のこれまでの経験が、たくさん実施した活動の数ではなくて、会社や組織の中でどういう価値を提供できて、インパクトを醸成できたか、を表現できる、そういう環境が作れると、「広報・コミュニケーション」のロールが一層重要なものになるし、人材としても成長するのではと感じています。

 
Q5:広報職の経験を生かして、今後チャレンジしたいことは?

元々は、「マスコミと仕事がしたい」という思いから始めた広報の仕事が、在籍した3社において各社の企業経営の根幹であるHP Way、Microsoft Mission、NEC Wayに基づいたコミュニケーションロールに長く携わることができています。経営戦略にアラインしたコミュニケーション活動を徹底することで、会社の目指すことの達成に「コミュニケーションのチカラで貢献する」という思いが強くなっています。

企業のパーパス/ミッションの実現、企業価値の向上、企業変革の推進を目指していくうえで、コミュニケーションという仕事は「欠かせない」ということをもっと証明し、広めていきたい、という思いがあります。そして、コミュニケーション職を軸にして活躍する人材を育成するようなことにチャレンジしたいなと思います。

 
【次回のコラムの担当は?】

SAPジャパンのバイスプレジデント グローバルコミュニケーションズ 日本担当の緒方麻弓子さんです。緒方さんは、これまでもグローバルカンパニー数社でキャリアを築いていらして、様々な経験をお持ちです。私自身も一時期数年間、同じ会社で仲間として働いていました。いわゆる王道な広報のみならず、Citizenship活動、政府や自治体との渉外的な活動、NPOとの連携などパブリックアフェアーズ的な経験、グローバルカンパニーが日本に根付くための様々な豊富なコミュニケーション経験をお持ちです。

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