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京セラの「LinkedIn」活用 企業哲学を発信して得た意外な反響

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課題だった認知度低迷への一手

京セラがグローバル広報活動に「LinkedIn」の活用を進めている。広報室の吉川英里室長は、「他のSNSと比べ、事業や技術に特化したコンテンツが響きやすい。当社のようなBtoB企業にとって、事業紹介を通じたブランド認知向上に貢献してくれるメディアという印象」と話す。2023年12月27日時点の京セラの「LinkedIn」フォロワーは、3万9983人に上る。

象徴的な事例となったのが、23年1月から始まった「We Love Engineers」キャンペーンだ。エンジニアに焦点を置き、京セラはエンジニアを応援し、サポートする企業であるとうたったコーポレートブランディング施策。60秒の動画を制作し、「LinkedIn」をはじめ、FacebookやX(旧Twitter)などのSNSにも配信している。「施策のターゲットである米国のエンジニアを中心に、とてもよいリアクションをいただいている。グループ社内からもさまざまな声が集まっており、社外、社内いずれにおいても認知度や好意度の向上に寄与できている」と吉川氏は話す。

吉川英里室長
京セラ広報室の吉川英里室長

「We Love Engineers」の企画制作は、当初から「LinkedIn」を主眼に置いて実施した。「LinkedIn」ではキャンペーンに付随して、「#MyFavoriteEngineer」という動画シリーズも投稿している。谷本秀夫社長をはじめ、世界各国のグループ企業社員50人以上に、お気に入りのエンジニアをインタビューした動画だ。

「『#MyFavoriteEngineer』についてもポジティブなコメントやご評価をいただいている。社内に対しても『We Love Engineers』キャンペーンを行っていることを周知でき、インナーブランディングという側面での効果もあったと考えている」(吉川氏)

画像 京セラ リンクトイン 企業ページ
画像 京セラ リンクトイン WeLoveEngineer
「LinkedIn」上の京セラの企業ページ(画像左)と、「WeLoveEngineer」の投稿(同右)

「We Love Engineers」企画の背景には、特に米国におけるブランド認知の課題があった。京セラでは毎年、主要マーケットである日本のほか、米国、ドイツ、中国でブランド調査をしているが、特に米国において、知名度、認知度が低迷していたという。社内の事業部や現地法人にもヒアリングを行い、まず認知度を高めるべきはエンジニアだとして、ターゲットを絞った。

「米国のエンジニアへの発信力を強化する上で、京セラの技術や製品についてありきたりな説明をしても、おそらく響かないだろうと考えた」と吉川氏は話す。そこで、エンジニアへ直接ヒアリングしたり、インサイト分析をしたりして、一緒に仕事をしたいと感じる企業がどのような企業かを探った。

「結論としては、京セラはサプライヤー企業であるだけではなく、また、エンジニアを単なる製品の納め先としてのみ考えるような企業ではないということ。翻せば、製品開発から寄り添える企業であることを伝えるのが最もよいと考えた」(吉川氏)

そして、それは「お客様第一主義を貫く」といった、創業者の稲盛和夫氏の思想にも沿うものだった。京セラにおける「お客様第一主義」は、顧客の言うなりではなく、むしろ「自主独立」が基本。自主独立は「お客さまが望む価値を持った製品を、次々に開発していくこと」だと説く。

「そのためには、お客さまより進んだ技術を持つ必要があり、そうであるからこそ、すべてにおいて、お客さまの満足を得ることができる。お客さまのニーズに対して、今までの概念を覆して、徹底的にチャレンジする姿勢」を重視したものだ。エンジニアを支えるというのは、こうした思想と根底を共にするものだった。

「意外だったのは、欧米圏の方々にも、こうした稲盛の企業哲学はとても反応がよかったということ。実は当初、アジア圏の方々には響くとは思っていたものの、欧米圏の方にはどうだろうと考えていた。しかし、フタを開けてみると好評で、ユニバーサルな考え方であったことに、改めて気付かされた」(吉川氏)

動画は通常投稿のほか、地域別、職業別でターゲットを選定し、広告配信も行った。吉川氏は、「『LinkedIn』はユーザープロファイルがしっかり可視化されるため、ターゲットオーディエンスを絞りやすかった」と話す。

堀母日花氏
リンクトイン・ジャパンの堀母日花(モニカ)氏

ビジネス層に精密にターゲティングできるのは、「LinkedIn」の特長の一つだ。リンクトイン・ジャパンの堀母日花氏によると、ターゲティング精度の高さを評価しているケースは他にもあるようだ。

「ブランド認知よりもさらに深い認知、事業認知を重要視し、将来取引先になる可能性のある業界を特定し、広告配信をしているケースがある。配信結果からもリーチ精度が高かったことがわかったほか、ブランドリフト調査を経て、実際に複数の事業で認知度のスコアが上がったことから、ご評価につながった」とリンクトイン・ジャパンの堀氏は話す。

「情報テクノロジー企業でも、業界ターゲティングでリード獲得を行い、営業チームへ送客しているケースがあるほか、政府機関の例として、政策や課題についてビジネス層、オピニオンリーダー層へのリーチ目的で活用いただいている」(堀氏)

 

効果的な投稿の4つのカテゴリー

京セラがSNSでの発信に取り組み始めたのは2013年ごろのことだ。最初に立ち上げたのはFacebookページで、国内のビジネス層に向けてのものだった。

「LinkedIn」のアカウントを設けたのは2018年6月。目的は海外でのブランド認知の向上。吉川氏は「より直接的にビジネス層へのアプローチができる点に注目し、本格的に海外向けにSNS発信をしようと立ち上げた」と話す。その後、2019年にX(当時=Twitter)、2021年にInstagramの公式アカウントを設置している。いずれも国内の新卒採用や若年ビジネス層向けのアピールがメインで、目的別の使い分けを明確にしている。

京セラにSNSの専任部門が置かれたのは2020年。それまではWEB推進課が兼任でSNS運用を担っていた。デジタルメディア課に改称後、現在のSNS推進係員は3名。さらに宣伝担当やブランド推進担当からもメンバーを加えたプロジェクトチームを組成し、企画などを進めている。

「これからの時代、SNS発信が国内外、そして社内外問わず重要になってくると考えた」と吉川氏は振り返る。

「大きな流れとしてはここ10年、特にコロナ禍に見舞われたここ数年では、社内でのSNS活用も非常に盛んになってきていると感じる。かつて広報では、新聞5大紙を中心に、雑誌なども含めたメディアリレーションが重要だったが、現在はWebやSNSといった自社が持つチャネルで、直接的に情報を発信できるようになった。メディア側も、SNSの情報発信に注目されていて、そこから知った情報に対してお問い合わせをいただくことも一般的になってきている」(吉川氏)

SNS推進係は、広報室の中でも広報や宣伝、社内報などさまざまな部署と関わり、情報発信を担う。自社Webサイトへの誘導やオンラインイベントへの誘致なども図る、重要なメディアの一つだ。

「いまや、情報発信も、社内、社外に分けることにあまり意味がないとも思われる。社外向けであっても社内を意識するし、社内向けでも、社外向けのようなブランディング強化が求められることは珍しくなく、また、社外のステークホルダーの視線を念頭に置かないことはない」(吉川氏)

「LinkedIn」は、京セラが公式アカウントを開設した中では比較的古株だが、当初は運用の仕方にとまどう側面もあったという。運用サポートをしたリンクトイン・ジャパンのアドバイスは、「発信するコンテンツを複数のカテゴリーに整理・分類し、定期的に投稿する」ということだった。

「それはフィロソフィ、企業・社員紹介、製品・技術、そしてややライトに扱える話題。月にどのような内容の投稿をどれくらい制作するかを決め、さらにそのうち、どの投稿を広告として配信するかといった計画をしている。結果、おかげさまで、右肩上がりにフォロワー数も伸びてきた」(吉川氏)

リンクトイン・ジャパンの堀氏は「京セラさまはとても研究熱心でおられる印象が強い」と話す。

「自社の体制や強みに合わせてグローバルのベストプラクティスを自社の運営体制に取り込むということに加え、情報が足りない部分については、同じように海外のブランドコミュニケーションに取り組んでいる企業と情報交換を重ねて、ブラッシュアップをしていらっしゃる。結果、ステークホルダーへのブランド構築を進めることができている」(堀氏)

企業哲学、会社情報、事業情報といった内容は、コーポレートサイトに掲載している、という企業は少なくないだろう。しかし、「LinkedIn」とコーポレートサイトの大きな違いは、後者が主にアクセスを“待つ”の姿勢になりがちなのに対し、前者は能動的に発信できる、という点だ。

「Webサイトは、基本的には来訪いただくのがメインというのは確か。一方、SNSは主体的に発信していけるので、オンラインでの情報発信の中でも、特に注目いただきたい内容を、計画的に投稿していくのが非常に重要だと、約5年間、『LinkedIn』の運用などを通じて実感している」(吉川氏)

 

BtoB取引を支援する新機能

リンクトイン・ジャパンの堀氏は「LinkedIn」について、「日経平均株価に含まれる企業の約半数が何らかの形で、企業のグローバルのコミュニケーション・ツールとして活用している」という。業種に目を向けても、製造業はもちろん、小売業界や金融、人材、教育機関など、幅広い業界に浸透しつつある。

「多くの日本企業が海外での売り上げ比率を上げるという事業目標を掲げており、経産省の2022年7月の調査でも、日本企業の海外現地法人の売上高が前年比25.9%増となっている。それをいま以上に伸ばすためにコミュニケーションは不可欠であり、『LinkedIn』の活用を進める日本企業は、今後さらに増えていくと考えている」(堀氏)

「LinkedIn」自体の機能拡充も進める。堀氏によると、「『LinkedIn』は、バイサイド向けには、よりソリューションを探しやすく、意思決定に必要な情報を集めやすいプラットフォームへ進化していく。また、セルサイドにとっては、『LinkedIn』に集まるデータと、機械学習によって、より売り上げにつながる見込み客の発見や、効果的なメッセージ、コンテンツを制作できるようになる」という。

例を挙げると、前者に対しては、候補となるソリューションをまとめた記事や、ほかの企業によるレビューを確認できる機能が追加される。他方、後者には、プロダクトのWebサイトを入力すると、広告のターゲットセグメントやコンテンツを自動で生成できるようになる。

「『LinkedIn』として最も重要なのは、グローバルにおけるプロフェッショナルのネットワークであるということ。たとえば2023年にリリースした新しい広告タイプでは、『ソートリーダー広告』への反響が大きかった。経営幹部の投稿を広告として配信できる機能で、エグゼクティブだけでなく、研究者やエンジニア、先駆的な従業員による投稿は信頼を得やすく、特定領域をけん引する企業であるというポジションを構築するのに適している。通常の企業ページからの静止画広告に比べ、約1.7倍クリック率が高い結果もある」(堀氏)

リンクトイン・ジャパンは、「『LinkedIn』は、日本企業が海外の事業拡大をする上で欠かせないプラットフォームと考えている。今後も事業成長を支えるパートナーとして、多くの企業さまとの価値共創の実現を目指す」としている。

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