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ついに可視化されつつあるOOHメディアの価値 知っておきたい「メディア・カレンシー」とは何か?

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広告への予算投資が厳しくなり、ROIを重視する機運がより一層高まっています。効果測定や価値の可視化が難しいと捉えられるOOHメディアをプランニングから外すケースも珍しくないようです。しかし、ついにOOHメディアの価値が可視化されつつあることをご存知でしょうか。世界では評価指標の明確化が進んでいますが、日本はまだ後れを取っている状況です。そこで知っておきたいのが「メディア・カレンシー」の存在。本記事ではメディア・カレンシーが広告プランニングにおいてどのような役割を果たすのか、Hivestack Japan 神内一郎氏が解説します。

OOH広告(以下、OOH)とは、「Out of Home」の略称です。その名の通り、デジタルやアナログを問わず、家の外で接触するすべてのメディアを指します。世界最古のメディアかつ、現在も広く活用されている強力なメディアでありながら、そのパワーを客観的に捉えることは非常に難しく、OOHをキャンペーンに組み込む必然性について説得力のある根拠が乏しい状況でした。

そのため、OOHには、他のメディアも含めた横断的なキャンペーンKPIを適用することができず、メディア選定から外される、または個別に取り扱われることも多くありました。

しかし、昨今の技術進化、そしてコロナ禍を経て、日本でもOOHのメディア価値を示す共通指標への関心が高まりを見せています。

最も基本となるメディア価値指標は、広告の到達度です。つまり、広告に接触したオーディエンスの人数や広告接触回数を示す指標になります。広告に接触したオーディエンスの延べ人数「インプレッション(あるいはGRP:延べ視聴率)」を分解し、ユニーク到達者数(あるいは到達率)を指す「リーチ」と、広告接触回数を指す「フリーケンシー」などが「広告到達指標」となります。

この「広告到達指標」を、メディア取引の基本単位としたものが「メディア・カレンシー」です。しかし、日本のOOH業界においては、統一されたメディア・カレンシーは存在していません。そのため、他のメディアとの比較はもちろんのこと、OOH同士での価値比較も客観的にできない状況が続いています。

広告主にとっても、そしてOOHの媒体主にとっても、何を測定してよいかがわからない限り、キャンペーンや媒体自体の改良はできない状況にあるのです。

海外の事例から紐解くOOH業界を発展に導く存在

一方、海外に目を向けてみると、既に多くの先進諸国でOOHのメディア・カレンシーが導入されています。

例えば、英国では「Route」、米国では「Geopath」、オーストラリアでは「MOVE」といった第三者団体がOOHのメディア・カレンシーを提供。実際、これらのメディア・カレンシーが導入されている国々と、日本のOOH市場成長率をコロナ禍前(2011年~2019年)とコロナ禍後(2020年~2022年)で比較※1してみたところ、次のような結果がでています。

※1 出典: Outsmart, OAAA, OMA, Dentsu

コロナ禍前の年率OOH市場成長率では、英国4.6%、米国3.7%、オーストラリア10.1%と順調に成長傾向であったのに対して、日本は1.2%とほぼ横ばいです。また、コロナ禍後の回復を比較しても、英国30.0%、米国18.7%、オーストラリア25.9%と急速な回復を果たしているのに対して、日本は-1.2%と市場の回復には至っていない状況です。この結果を見ても、OOHのメディア価値を客観的に裏づけできるメディア・カレンシーの存在が、OOH業界全体の発展にも寄与しているのは明らかと言えそうです。

グローバルガイドラインの存在について

実は2022年、OOH業界の国際団体、The World Out of Home Orga nization(以下、WOO)からOOHのメディア・カレンシーを策定するためのガイドライン、「Global OOH Audience Measurement Guide lines」が発表 ※2 されています。

※2 日本語版発表:Digital Signage Consortium

このガイドラインは2009年に、WOOの前身団体である「FEPE International」が発表した旧ガイドラインの改定版という位置づけで発表されたもので、計測手法やその内容、運営団体のガバナンスやデータの取扱い方などが幅広く網羅されました。特に①デジタル化への対応②最新データの活用③クロスメディア対応など、OOH業界が直面している課題に対応しています。

ガイドラインでも強調されているのが、網羅性と汎用性、そしてデータの透明性と信頼性です。つまり、特定のOOH設置環境にのみ適用されるルールではなく、屋外・屋内問わずにすべての設置環境を網羅し、それらの媒体を計測する手法も汎用性がなければならないのです。

また、データ活用においてもブラックボックスであってはならず、透明性と信頼性を担保することの重要性が述べられています。メディア・カレンシーとは、広告取引における「通貨」であり、通貨とは信用に基づくもの。広告主、広告会社、そして媒体主といったステークホルダーすべてが納得し、信頼して初めて“通貨”として安心して流通させることができるのです。

クロスメジャメントへの対応 VACを推奨する理由

グローバル・ガイドラインの中でメディア・カレンシーは、OOHの広告到達度合いの粒度に基づいて4段階で定義されています。その中でも推奨されているのは、VAC(Visibi lity Adjusted Contact)と呼ばれる、広告を「見た」と想定できる人数を示す最も細かな粒度の指標です。

OOHの多くは、人が受動的に接するメディアであるため、過去には「人はOOH広告を見ていないのでは?」という疑問が多く寄せられました。この主張に反論するため、科学的研究をベースに「OOH広告を見ている」ことについて業界をあげて証明してきた歴史があるのです。

実際、先進諸国の多くはVAC(視認レベル)を基準にしています。また、広告主の国際団体であるWorld Federation of Advertisers(WFA)からも、単独メディアのみに通用するメディア・カレンシーではなく、クロスメディア環境で活用できる指標の構築が求められています。

VACを推奨する理由のひとつとして、すべてのメディアの共通となる指標を「広告を『見た』と想定できる」レベルに統一しようとする動きがあるのです。

日本のOOH業界の現状どの粒度を用いているか注意

前述の通り、日本では業界全体が合意したメディア・カレンシーはまだ存在しません。しかし、昨今の指標に対するニーズの高まりから、様々な団体や会社から指標が提供されるようになってきました(図)。指標への関心の高まり自体は評価すべきことですが、同じ用語を使っていても、実は異なる粒度の場合もあり、注意が必要です。

こうした市場の混乱を回避するためにも、日本でもOOH業界全体として標準化されたメディア・カレンシー導入プロジェクトが発足しています。日本のOOH市場の信頼回復も、間もなくではないでしょうか。

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Hivestack Japan
社長
神内一郎氏

1992年 電通に入社。デジタル領域を中心に国内外において新規事業・新規サービスの立ち上げに従事。2019年2月にはドコモと電通との合弁による日本初のインプレッションベースのデジタルOOH事業会社、LIVE BOARDを立ち上げ、社長に就任。2021年8月からデジタルOOHのプログラマティック化を実現するプラットフォーム会社Hivestackの日本法人社長を務める。国際基督教大学卒業。