コロナの影響から回復傾向にある今、さまざまな企業で新しいマーケティングのチャレンジが加速している。2024年12月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024冬 in 福岡」から、再春館製薬所の中島公平氏、Algoage(以下、アルゴエイジ)の成田穂高氏のセッションをクローズアップ。顧客から愛されるブランドとなるためのコミュニケーションにおけるデータ利活用や、離脱ユーザーを効果的にCVにつなげる手法について紹介する。
ドモホルンリンクルが目指す のは「ニッチなオンリーワン」
再春館製薬所のドモホルンリンクル事業部でデジタルチーム責任者を務める中島氏は、デジタル時代におけるコミュニケーションについて紹介した。
看板ブランドであるドモホルンリンクルは、漢方の製薬会社による、肌が本来持つ「根本力」に働きかける基礎化粧品として1974年に誕生。以後、50年間で20回ものリニューアルをおこない、医薬品と化粧品を掛け合わせた「ニッチなオンリーワン」を目指してブラッシュアップしてきた。その特徴の1つが、ビジネスモデルだ。テレビCMやラジオ、新聞・雑誌、イベント、ウェブなどのメディアで広告を展開し、まずは無料お試しセットの注文を電話やFAX、メールで受け付け、原則当日に再春館製薬所が持つ薬彩工園より発送される。こうして到着した無料お試しセットを使い、肌トラブルが無いかを事前確認した上で、安心して商品購入に進むことが可能となる。
デジタルに変わっても「心の通ったコミュニケーション」を大切に
2012年度は半数以上が電話での受注だったのが、2022年度は電話を超えて、インターネットが急伸長した。チャネルがデジタル中心へと変貌を遂げるなかでも、変わらず目指して いるのは「心の通ったコミュニケーション」だと中島氏。「初回購入のお客さまをいかに増やすか」「リピート購入のお客さまをいかに増やすか」、その両軸をポイントとし、自社スタッフには「化粧品会社の人」ではなく、「お客さまブリーザー」(=お客さまを喜ばせる人)として、人としての温かみある応対を 意識づけしていると語った。
お客さまを中心に据え、対応品質、商品価値、お付き合い価値の3つの軸でのお客さま満足度を高めるアプローチは、製造直販だから実現できる手法であり、実際にお客さまに寄り添った丁寧な対応には、これまで感謝の声がたくさん寄せられているという。
デジタル時代に注力する3つのポイント
中島氏は、デジタル時代の注力点について3つのポイントを挙げた。まず1つは、「お客さまを知る」ということ。購入データから課題を抽出して仮説を立てたとしても、仮説はあくまでも仮説 。先入観や思い込みを捨て、ファクト調査に基づいて判断することが大事だという。たとえば、リピート購入が途切れたため離反してしまったと想定した顧客が、実際には購入スパンが長くなっただけで使い続けていたことに変わりはなかったという事実もあったそうだ。購入をやめた理由、続けている理由、増やした理由など、「お客さまインタビュー」をもとに、事実に基づいて判断することが大切だと中島氏は語った。2つめのポイントは「再春館らしい“人感”を大切に」ということ。デジタルを介しての接点が多くなっているからこそ、再春館製薬所が元来大切にしてきた人の温かさが感じられるような接客が重要だと考えている。具体的には、電話応対スタッフが商品の魅力や使い方をオンラインで配信することで、メーカー担当者と直接やりとりしているかのような、コミュニケーションの温かさや、臨場感を味わえるよう工夫している。
最後となる3つめのポイントは「無人接点も抜かりなく」ということ。有人対応なしで購入可能なECサイトも、顧客にとってはブランド接点のひとつとなる。購入ボタンのクリックに至るまでストレスなく進められること、また、ポップアップでおすすめ商品を提案することにより、買い忘れ防止やついで買いを促すことも大事だ。デジタルでの購入 体験においても、対面接客に劣らないクオリティが求められるのだ。今後はさらにデジタル 接点を活用することで、ファンマーケティングの強化や、「ひとつ上のおもてなし」に活かしていけるようサービス応対面でのAI利活用にもチャレンジ していきたいと中島氏は締めくくった。
デジタル広告で無駄となっている99割こそ「宝の山」
DMMグループの子会社であるアルゴエイジの執行役員・成田穂高氏は、デジタル広告における9割の離脱ユーザーを効果的にCVにつなげる手法について紹介した。アルゴエイジでは成果報酬型のチャットボット「DMMチャットブーストCV」を運営している。LP離脱時にポップアップを表示してユーザーをLINEに誘導し、LINE上でコミュニケーションをとりながらインサイトなどを探り、ウェブページへ再誘導するというものだ。グーグルの調べ(2024年)によると、現在、デジタル広告の9割が無駄になっているという結果が出ており、そのうち動画広告が25.5%、ディスプレイ広告が28.7%、検索連動型広告が39.9%、成果報酬型広告が2.7%、その他3.2%。CVに至るのは、リスティングでは30人に1人、ディスプレイでは100人に1人という割合だそうだ。ちなみに、リスティングでの成功率はEC2.81%、教育3.39%、金融保険5.10%、不動産2.47%、ディスプレイではEC0.59%、教育0.50%、金融保険1.19%、不動産0.80%と、なんとも低い割合だ。また、ファーストビューの離脱率は70%以上ともいわれている。そのような状況下のなかでは、CVしていないクリックを不必要だとするか宝の山とみするかで、その後の成果が大きく変わることとなる。
「良いマーケターほど、CVしていないクリックを宝の山だと理解し、CVしていないクリックから示唆を抽出して、マーケティングのPDCAを回すビジネスに生かしている」と成田氏は語る。つまり、それまで不必要だとゴミ箱に行っていたものが、日々の活動に光を照らしてくれる存在になりうるのだ。
LINEを活用したゼロパーティデータが有効
アルゴエイジのDMMチャットブーストCVは、2つの目的を掲げている。1つは、離脱している9割のユーザーをCVにつなげること。2つめは、CVしていないユーザーを深く理解することで、新たな示唆につなげることだ。1つめの離脱している9割のユーザーに対しては、DMMチャットブーストCVの導入により5~10%程度のCV数増が見込まれているという。また2つめのユーザー理解については、「N=1理解がすべて」だと成田氏は考えるが、それには通常、1対1の対話でインタビューする「デプスインタビュー」や、アクセス解析ツールなどを使った「ログ分析」が必要となる。ただし、デプスインタビュー、ログ分析はそれぞれ、長所もあるが短所もあり、その差が極端なことが懸念される。
具体的には、デプスインタビューはユーザーのインサイトを深く探ることができるが、数を集めるのが難しかったり時間がかかったりする。ログ分析は、数を集めるのに強いためく回帰分析などがしやすく、重要アクションを把握することができる一方で、深いインサイトは掴みづらい。そこでこれらに対し、LINEを活用したゼロパーティデータであれば、量も質も担保できるうえ、LINEに対しての回答なのでインサイトが掴みやすく、「デプスインタビューとログ分析のいいとこ取りができる」と成田氏は提言する。
インサイトをもとに効果的なナリオを作成
たとえば、オンラインピル処方サービスにおいて、ユーザーのピルの服用に関するインサイトを探るとする。LP離脱ユーザーをLINEに誘導し、LINEでコミュニケーションをとるなかで、ピルの服用未経験者に対しては、服用の目的を「避妊」「生理トラブル改善」の2軸にわけてニーズを探り、さらにはコミュニケーションのなかで「ピルが自分の体に合っているか不安」「安心できるサービスで安く処方してほしい」などの気持ちが浮かび上がってきた。また、服用経験者に対しては、重視する軸を「効率面」「金銭面」にわけてコミュニケーションをとる中で、効率重視派においては「手軽にピルを続けたい」という要望から、「今後もピルは継続的に飲んでいきたいが、病院に行くことがとにかく面倒。オンラインサービスなら毎月の待ち時間や予約も不要だから、手軽に続けていけそう」という ニーズインサイトを、価格重視派においては「より安い価格で処方してほしい」という要望の奥に から、「ピル切れのため、即日処方希望。隙間時間に受診信でき、最短翌日発送のオンライン診療なら自分にピッタリ」 というインサイトニーズをくみ取っていくことができた。導入した当初は、服用未経験者より服用経験者のほうが多いと想定し、服用経験者に向けたシナリオを作成する予定だったそうだが、インサイトを導き出したところ、服用未経験が6割、服用継続中が2割、過去に服用経験ありが2割という結果となり、服用未経験者が意外と多いことが判明した。このことからそれにより、服用経験者と未経験者の両者を考慮したシナリオを、それぞれのニーズをもとに作成する予定だという。
離脱ユーザーにさらに踏み込んだ施策を
今後について「離脱ユーザーにもう少し踏み込みたい」と話す成田氏。
現在はインサイトの掛け算でしかクライアントにデータを提供できていないため、WHO(ターゲット)については、年齢や居住地、いつの回答結果か、流入経路など、そしてそれに顕在的なニーズと潜在的なインサイトを掛け合わせたWHAT(何が必要か)を導き出し、DMMチャットブーストCVが離脱ユーザーにより光を照らす存在になれればと抱負について語り、登壇を締めくくった。現在はインサイトの掛け算でクライアントへのデータ提供を行っているが、WHO(ターゲット)とWHAT(何が必要か)をより詳細に掛け合わせた形でデータ提供ができるようにしようとしている。WHO(ターゲット)については、年齢や居住地、いつの回答結果か、流入経路などで、WHAT(何が必要か)となるのが顕在的なニーズと潜在的なインサイトだ。今後はそれぞれの掛け合わせで可視化されていく離脱ユーザーのデータを、より解像度高くクライアントに還元していくことで、DMMチャットブーストCVが日々のマーケティング活動に光を照らす存在になれればと抱負について語り、登壇を締めくくった。
