編集者もライターも、忘れてはいけないスタンス

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出版プロデューサーの西浦孝次氏による連続コラム、いよいよ最終回です。紙媒体が不況といわれて減っている中、ライターの数自体は増えていると言われています。そのような中、ものづくりに大切なことを、出版という観点から語っていただきます。

こんにちは。出版プロデューサーの西浦孝次です。この連載では、クリエイティブな才能に恵まれなかった僕ら凡人の最後の武器──企画力について、出版プロデューサーの仕事、キャリアを通じてお伝えしていきます。

前回「ベストセラーが、涙で始まった理由」の記事で、出版プロデューサーがどうやって著者と出逢い、企画をつくっていくかお伝えしました。今回は最後に「プロである編集者との本づくり」について書いていきます。

実はこの「編集者へのスタンス」が僕と、同業者さんとの違いだなと考えています。

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西浦孝次 氏

かぎろい出版マーケティング 代表理事 出版プロデューサー

編集・ライター養成講座大阪1期を卒業後、出版社で書籍のマーケティングに従事。2010年、出版プロデューサーとして独立。著者の発掘から販促までを行う。平均制作期間2年前後という、他社の数倍に及ぶ時間をかけて、売れるテーマと著者の持つ専門性を掛け合わせた企画をじっくり作るのが特徴。大学での講師業や出版業界の就活支援ボランティア活動も行う。

効率より効果、効果より気持ちを重視

著者と契約し、企画書が完成すればいよいよ編集さんに提案です。具体的な企画の提案方法ですが、他のプロデューサーや出版塾は、企画書を複数の編集者へメールで一斉送信することが多いそうです。

しかし僕は、一人の編集者さんだけに提案するスタイルをとっています。

一斉送信して、興味を持ってくれた人とだけやり取りするほうが、効率は良いと思います。しかし編集者にとっては「出版さえできれば担当編集は誰でもいい」と言われているような、このやり方が好みではないので、僕はやりません。

僕は仕事において「効率」よりも「効果」を重視していますし、相手の「気持ち」に極力配慮したいと心がけています。(100%出来ている!と言えるかは難しいところですが)

そのため、「大多数の中の一人」という接し方ではなく、特別なパートナーとして相手と接したいと考えています。すると企画書を作っている段階から「この本は〇〇さんに編集をお願いしたい」と、相手の顔を想像しながら企画を練るようになり、出来上がったらやはり真っ先にその方に提案することになります。

こういったスタンスだからでしょうか、最初から編集さんも「いいですね!」と乗り気でいてくれることがほとんどです。

編集者と本を作る

編集さんと企画についてのやり取りを済ませ、企画会議を通してもらったらいよいよ正式に本づくり開始です。

その際に重要視していることがあります。それは、自分の企画書を否定して、修正してもらうことです。

この話をすると「自分たちの要望通りに作ってもらった方が良いのでは?」と言われる方が多いです。僕は全く逆で、むしろ変えて欲しいタイプなんですね。

そもそもですが、編集者こそが本づくりのプロで、プロデューサーである自分より一枚も二枚も上手です。自分は自分のできるレベルで100点の企画書を作ったという自負はありますし、手は抜いていませんが、そこはやはりどうあがいても届かない部分が出てくると思っています。そこでその編集さんにタイトルや、切り口などをブラッシュアップしていただき、120点の企画にしてもらうのです。こうして100点を超えた企画は不思議と売れていきます。

ここが重版率90%、平均実績4.2万部を10年以上維持できている理由だと考えています。自分の作ったものに執着していては、この120点は出せません。

ですが、多くの出版プロデューサーや著者は自分の企画を変えられることを嫌がります。どうしても「我」が出てしまうんですね。

それはきっと編集者を外部の人だと考えているからではないでしょうか。企画は自分のものであり、編集者は企画を本にするのに必要な他人だと考えているのかもしれません。これは言い換えると、相手の立場(編集部所属)を利用したいだけなんですね。利用されるのは誰しも気分の悪いものです。

似たような話で、講座の卒業生に一度、厳しく注意したことがあります。それは、編集者を、「仕事」として扱わないこと。人として扱うこと。駆け出しのフリーライターだと、どうしても「売り込まないと!」「仕事を取らないと!」と焦ってしまい、編集者を仕事の発注者として見てしまいがちです。

でも当たり前ですが、編集者は人です。発注者として扱われているのと、人として扱ってくれるのと、どちらが嬉しいかは考えるまでもありません。相手を利用しようとする関係は破綻すると思うので、人として互いに敬意をもって接することを常に大切にしています。

話を戻します。書籍づくりにおいても、編集者を「出版という目的を叶える手段」と思うのではなく「一緒に本を作る仲間・パートナー」だと考えてみてください。自分の企画は、その編集者の色や視点が加わって、初めて完成するのです。画竜点睛の「点」を入れてもらうイメージですね。

その関係であれば、一部を変更修正されることは「喜ぶべきこと」になります。こう書くとなんだか大げさな話に聞こえますが、プロデューサーとしては「この編集さんの本作りが好きだな」「この人の考え方や視点がするどくて、憧れる」など、ワクワクしながら「一緒に仕事したいです」とラブコールを送るだけなんですけどね。

自分で選んだ相手なのだから、相手のことも、自分の「人を見る目」も信頼して、思い切ってゆだねた方が良い結果になるというものでしょう。

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