Q1:現在の仕事内容について教えてください。
はじめまして、北斗市で広報を担当している佐藤亜矢子と申します。
広報を担当して3年目になります。
北斗市の紹介をさせてください。人口約4万3千人。北海道南西部に位置する北斗市は、北海道新幹線の始発・終着駅となる新函館北斗駅があります。
市内のきじひき高原からは、函館山、大沼、駒ケ岳などの絶景を一望することができます。また、日本で最初に創設された男子修道院のトラピスト修道院では、敷地内工場で作られる酪農製品が有名です。中でも現地の売店でしか味わうことのできないソフトクリームは濃厚で人気商品となっています。
私は、毎月1回発行する広報誌「広報ほくと」の企画・取材・編集、報道機関へ向けたプレスリリースの作成、定例市議会の開催に合わせて、年4回実施している市長記者会見の担当をしています。
Q2:貴組織における広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。
私の所属する広報広聴係は、広報誌作成業務の他、市長の秘書業務や市役所の問い合わせフォームの対応など広聴係の名称のとおり、市民の声を聴くことが重要な役割となっています。
Q3:ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。
広報誌編集の中で、『何回読んでもわからないものや読みづらいものは、そのまま掲載しない』—これが私の信条です。
行政で当たり前のように使っている言葉は、市民にとって理解しづらいものが多いです。「この記事を読んでわかってもらえるか、どんな印象を受け取るか、他に掲載すべき情報はないだろうか?」と常に考えながら編集しています。
広報担当になりたての頃は、文章に手を加えず、タイトルを派手に装飾したり、無駄にイラストを配置したりしていました。当時は満足していましたが、今思えばそれはごちゃごちゃした誌面でした。しかし、他の自治体広報誌や雑誌を読むうちに気づいたのです。読みやすさとは『読者が違和感なく自然にページを読み進められること』なのだと。
広報は黒子の役割を担い、良い意味で目立たないことが大切です。心に響いた言葉や印象的な写真をテンポよく配置することで、読者は自然に導かれ、読み終えた時、言葉では表現できない心地よさが残ります。そんな時、人は誰かにその気持ちを伝えたくなり、行動したくなるのだと思います。
読者の行動変容につながるような誌面をつくっていけたら、嬉しいですね。
広報ほくと。
Q4:自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。
苦労している点は2つあります。一つ目は、人員の少なさです。
3年前の組織再編により、それまでホームページ担当部署と共に複数人体制で運営していた広報業務が、独立した広報広聴係として別課に設置されました。以来、ほぼ1人で全ての業務をこなしており、量的には対応できているものの、専門的な意見交換や相談ができる相手がいないことが最大の課題となっています。
二つ目は、写真撮影やレイアウト、文章作成といった専門知識が必要なことです。これらの専門性を活かしてわかりやすい広報を目指すと、その意図や手法が庁内では理解されずに悔しい思いをすることも多々ありました。見過ごせばどれだけ楽だろうと思うこともあります(笑)。そんな時、全国の広報担当者が集う自治体広報LABで『広報担当者は職人である』という言葉に出会いました。この言葉に深く共感し、腑に落ちたのです。同じ思いを持つ全国の広報担当者たちには、いつも支えられています。
苦労ばかり書いていますが、やりがいもたくさんありますよ。
着任当時から、「顔が見える広報誌」を目指し、なるべく現場に足を運び、市民の写真を多く掲載するよう心がけています。何よりもやりがいを感じるのは、市民からの反響があった時です。
以前、地域の拠点を取材した際に、「ボランティア活動に反対していた夫が広報誌の記事を読んで、ボランティアの意義や地域拠点の重要性を理解してくれ、快く送り出してくれるようになった」という感想をいただきました。
その他にも、「一番伝えたかったことをわかりやすく言語化してくれた」「広報誌に載っていた母の笑顔が、今まで見たことがないほど素敵だったので、その写真が欲しい」などの感想をいただきました。インタビューや撮影では、少しでも信頼関係を築くために十分な時間をかけているので、取材相手の魅力や真意が伝わる記事に反響があると、本当に嬉しいですね。
取材した地域拠点の皆さん。顔を覚えてもらうため、料理や盆踊りの活動にも一緒に参加しました。
自治体広報の可能性は、ただ情報を伝えるだけでなく、地域を少しずつ変えていくきっかけになれることだと思っています。私たちが選ぶ言葉や切り取る写真の一つひとつが、市民の行動や気持ちに影響して地域のつながりを深めます。広報誌やSNSといった形を超えて、市民と役所の距離を近づけ、お互いに信頼し合える関係づくりの土台になっていく。
近年は生成AIなどデジタル技術の発展により、誰でも文章が作れる時代です。そんな中でも「相手に伝わる情報」は、やはり人間が手を入れなければならないと思っています。人間らしい温かい目線で情報をお届けすることで、市民の皆さんの「わかる!」「そうだよね!」という共感を呼び、地域の課題を一緒に解決していく参加の輪を広げられるのではないでしょうか。
広報は役所と市民をつなぐ橋渡し役。
未来の地域づくりを一緒に考える、おしゃべりの場を作り出せる—それが自治体広報の一番の可能性だと私は思っています。
【次回のコラムの担当は?】
岩手県二戸市役所総務部情報企画課広報係の小森夢大さんです。
