宣伝会議が主催する、100社を超える企業のマーケティング責任者が集うコミュニティである「CMO X」では、特定の課題をテーマにCMO Xのメンバーの集合知をクロスさせるトークイベントを2023年からウェビナー形式で配信していた。2025年からは、CMO Xメンバーに向けてスペシャルゲストを招いて、CMO X TALK(クロストーク)と題した特別セミナーにリニューアルしている。
2025年3月には、P&Gやユニリーバ、資生堂などで長くマーケティング組織を率いてきた音部大輔氏(クー・マーケティング・カンパニー代表取締役)が登壇。近著『君は戦略を立てることができるか』を題材に、戦略の考え方から組織単位で戦略構築力を高めるためのポイントについて解説した。
クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役 音部大輔 氏
戦略は「目的」と「資源」で説明できる
『君は戦略を立てることができるか』は2024年12月に発売された。発売前に重版が決定し、発売後は都内主要書店でビジネス書のベストセラーに軒並みランクイン。ネット書店ではしばらく品切れが続くなど、当初から大きな反響を得ている。
本書は7年前に刊行された『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(音部大輔著、宣伝会議)の続編ともいえるものだ。本書は発刊当初からマーケターを中心に支持されてきたが、一方で「読みこなすのが難しいとの声がある」「戦略づくりの実践について詳しく解説してほしい」といった声が寄せられたという。
こうした声を受けて、『君は戦略を立てることができるか』では講義録風の平易な文体を心がけたほか、戦略立案のプロセスを6つのステップで詳しく解説した。なお、今回のCMO X TALK参加者の多くはすでに読了済み。より詳しい話を聞きたいという動機で参加する人が多かった。
本書では、戦略の構成要素を「目的」と「資源」のみで説明しているのが特徴のひとつ。この仮説はすでに25年ほど前からあったが、これまでずっと、実践を通じて検証を繰り返してきたという。音部氏は、「その間に例外は見つからなったので、実務実践上は、戦略を目的と資源のみで説明できると結論するに至った」と述べた。なお、米軍で語られる「戦略の3本柱」がObjective(目的)、Resources(資源)、Concept(コンセプト)であることも紹介した。
戦略立案の6ステップは、1.目的を明示する、2.目的を再解釈する、3.資源を探索する、4.資源優勢を確立する、5.文章に書く、6.組織に展開する、で構成されている。
目的を明示や再解釈のプロセスで用いる推論の方法をめぐっては、「演繹法」「帰納法」が一般的だが、第3のアプローチとして「アブダクション」を紹介した。仮説推論ともいわれるもので、冥王星の発見に寄与したとされる。売り上げなどの「目的」に対し、様々な推論方法を駆使して目的を再解釈していくプロセスについて、音部氏は「本書でとてもユニークな部分のひとつで、こここそが戦略でクリエイティビティが発揮されるべきところ」と強調した。