━━順調だったにもかかわらずなぜ転職を考えたのですか。
出向してから1年後、若手クリエイターが競う「ヤングスパイクスコンペティション2017」に同期のデザイナーと出場しました。国内予選を勝ち抜き、アジア太平洋地域の各国代表が集まる本選出場の切符をつかみました。しかし本選のお題はスケールが大きく全然力が及ばず……。上流工程の経験を積んだつもりでしたが、井の中の蛙。もっと幅広い視点や知識がないと抜きん出ることは難しいと感じました。
その後、出向解除の打診が。戻るべきか転職か、広告業界で何をすべきか悩み、先輩に今の自分がどう見えるか尋ねました。すると、「広告業界のような受託事業では、何かに尖ったスペシャリストとして指名で仕事をもらわないといけない。君にはまだそれがない」と厳しい一言が。
自分は何に尖るべきか。ただ、選択肢はスペシャリストだけなのか?と疑問も湧いてきて。そつがないとよく言われる私なら「ゼネラリストとして尖る」、つまりゼネラリストを極めるのもありではと思い、アメリカで広まっていたプロダクトマネージャー(以下PdM)という職に目を付けました。技術やUXの知識をはじめ、経営の視点で製品を成長させる役割は、まさにゼネラルに尖っている。私もこうなりたいと思ったのが転職のきっかけです。
PdMはプロダクトの成功に責任を持つ役割
━━askenでゼネラリストとして活躍はできましたか。
入社時の職種はマーケターです。当時、取締役は「マーケターはフルスタックであるべき」との考えで、マーケティングの4P全域をカバーする人材を探していました。そこには多様なクライアントと相対してきた広告会社出身者が当てはまるのではと考えていて、まさに事業会社でゼネラリストのスキルを磨きたい私とマッチングしたわけです。
マスメディアン
取締役 国家資格キャリアコンサルタント
荒川直哉
マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名以上の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT 企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。
「あすけん」は、1日の食事メニューを登録すると、栄養素やカロリーの摂取量を計算し、栄養士キャラクターの「未来さん」がダイエットや健康維持のアドバイスをくれるアプリです。私は入社後、まず集客や市場調査から携わって、次第に領域も広がり、2年後に念願のPdMになりました。と言っても、勝手に名乗り始めたのですが(笑)。
マーケターが人を集める役割なら、PdMは顧客の維持と活性化を行い、プロダクトの成功に責任を持つ役割です。ユーザーの満足度を高めるため、登録メニューのデータベースを拡張したり、市販品はバーコードで簡単に登録できるようにしたりと、中長期的な企画開発やCSに注力してきました。
今後の目標は、「あすけん」のメイン機能のパーセプションチェンジ。何を食べたかの記録ではなく、何を食べるかの選択に使うアプリに変えたいんです。さらに、「あすけん」の広告事業と掛け合わせれば、食品メーカーなどのクライアントとユーザーを結びつけ、より大
きなシナジーも生めるはず。広告業界出身のプライドにかけて実現させたいです。
かつての私のように、ゼネラリスト的な役割を担うWebディレクターは「個性がない」と言われがちです。でも事業会社へ飛び込んでみると、その没個性こそスペシャリティだと気づくでしょう。アーリーフェーズの事業会社ならなおさらです。もし広告業界でゼネラリストの自分に悩んでいる人がいたら、そのままでいいよと言いたいです。そのまま、もっともっと尖ってください。