採用にも「プ譜」が効く 全員兼業×全国分散型の採用チームが成功した理由

新卒採用は企業の未来を形作る重要な活動ですが、限られたリソースの中で多職種の採用を進めるのは容易ではありません。また、採用プロジェクトに関わるメンバーが多く、多拠点に分散すれば、情報共有やプロジェクト管理の難易度は格段に上がります。福岡市博多区に本社を置き、パソコンや周辺機器、デジタル関連商品の販売や、海外輸出支援などを行うアプライドグループでは「プ譜」を活用し、この難題を乗り越えました。プロジェクトリーダーである総務部係長のMさんに、プ譜考案者の一人である前田考歩氏が話を聞きました。

プ譜(プロジェクト譜)とは:

プロジェクトの全体像、因果関係、構造を表現するためのフレームワーク。プロジェクトの成功の定義である勝利条件から逆算して中間目標を設定し、必要な施策を考えるのが特徴。
「プ譜」の解説動画はこちら

取材に応じてくれた、アプライドグループ総務部係長のMさん。

採用選任部署がない!?アプライドグループの採用プロジェクトとは?

━━アプライドグループ内での採用プロジェクトの目的や目標、体制、メンバー属性について教えてください。

当社の採用プロジェクトは、主に新卒採用を目的としています。会社の未来を担う人材を発掘することが第一の目的ですが、もう一つ、通常業務とは異なる採用活動に携わることで、社員の成長機会としたいという目的もあります。

実は、弊社には採用専任の部署がありません。総務部が主担当という形で私がプロジェクト管理を行っていますが、採用活動は毎年社内で好成績をおさめている社員がプロジェクトメンバーとして選ばれて、チームをつくって行っています。

メンバーは全国各地から集まっていて、今年のメンバー約15名は、各店舗の営業部署社員が多く、ほか貿易事業部の管理職の方など多様な部署の社員が参加しています。年齢層も広く、40代のベテランから入社1年目の若手まで幅広く構成されています。

新卒採用・合同企業セミナーに出展した際の様子。

━━非常に珍しい採用チーム体制ですが、このような体制で採用プロジェクトに取り組むうえで、どのような課題がありましたか?

大きな課題は、リソースの制約と情報共有の難しさです。メンバーは本業を持ちながらの兼務のため、採用活動だけに時間を割けるわけではありません。また、メンバーが毎年入れ替わるので、採用に関する知識や情報をゼロからインプットしなければなりません。そうしたノウハウの共有や研修に時間がかかり、毎年スタートが遅れがちでした。

また、メンバーが全国に分散しているため、情報共有がオンライン中心になります。プロジェクトの進捗や各自の役割を明確にしないと、連携がうまくいかなくなるという課題がありました。

━━そうした課題に対して、「プ譜」を本プロジェクトで活用することにした経緯、背景を教えていただけますか?

採用プロジェクトの進め方を整理し、スムーズな情報共有を実現するために「プ譜」を導入しました。もともと私自身、プロジェクト管理の専門知識を持っていたわけではなく、視野が狭くなりがちな点が課題でした。また、メンバーが兼業であり使える時間も少ないため、短い時間で採用活動の全体像を示し、進め方を説明して、理解してもらう必要がありました。

そこで、採用プロジェクトの全体像を可視化し、タスクの関係性を整理できるツールを検索で探していたところ、「プ譜」がぴったりだと感じました。

━━採用プロジェクトでの「プ譜」の具体的な活用、運用方法について教えてください。

前期(25年卒採用)のときに試験的に導入し、今期から本格的に活用を始めました。最初に前期の「プ譜」を土台にして、今年度の採用プロジェクトの目標とタスクの関係を整理することで、採用活動全体の流れを明確にしました。その後、月例ミーティングごとに必要に応じてプ譜の内容を更新しています。

アプライドグループの採用活動の「プ譜」全体図。

「プ譜」が起こした変化—メンバー間で自主的な情報交換や意見交換、トークの練習も

━━「プ譜」を書くこと、使用することで、どんな成果や変化がありましたか?

メンバーの結束、連携が強まり、採用活動を自分ごととして捉えて自律的に動けるようになっています。情報が的確に伝わることで、プロジェクトメンバーに当事者意識を持ってもらったり、採用業務の動機付けになっているようです。

例えば、今までは私が情報を自ら発信し、メンバー間のハブにならなければいけなかったのですが、個々のメンバーの採用活動がプロジェクト全体にどう関係しているのかということをプ譜で示すことで、私を介さず、メンバー間で情報共有や意見交換が行われるようになりました。

また、これまで各地で行われる説明会は、その地域のメンバーだけで情報が閉じていましたが、ほかの地域のメンバーにもその情報が共有されたり、ほかの地域からも情報を自ら取りにくるように。自分が今度担当する説明会で学生さんに話す際の参考にしたり、トークの練習をしたりするようになりました。

ほかにも、採用サイトやSNSでの情報発信する業務は媒体ごとに担当者が異なるのですが、担当が分かれることで発信するメッセージにバラツキが出るリスクがあります。一方で、媒体別にトンマナを変えることも大事だと考えていました。

会社としてのメッセージや方向性は統一しつつ、トンマナは変えるという難しいタスクも、中間目的に設定した「ギャップの無い会社のブランディング」のためなんだ、ということをプ譜で説明することによってその意識がメンバーに浸透しました。

それによって、今までは媒体別の変化をつけず通り一辺倒の内容だったのが、なぜトンマナを変えることが必要なのかを理解したうえで、情報発信してくれるようになりました。

公式サイトでの採用情報発信

SNSでの情報発信

━━自分の作業を何のために行うのか、どんな目的に結びついているのか?を確認するのに、プ譜の施策と中間目的はうってつけですね。

はい、SNSの更新が期日より遅れていれば、私がリマインドしなくても、関係するほかのメンバーからリマインドされるようになってきました。

━━素晴らしい変化ですね。採用プロジェクトチームが自律的に行動できるようになっているなか、今後の採用活動は成功しそうですか?

プロジェクト終了時に目標に掲げた採用人数に達しているかはまだわかりません。ただ、採用活動がうまくいっていないときは、ある時期に選考中の学生がいないということがありましたが、現在は通年で選考中の学生がいる状態を維持できるようになっています。そのため、以前よりも安定した採用活動ができています。内定者の方とは1対1の面談を行っているのですが、入社意欲が高い方が多い実感があります。

━━ちなみに、採用後の新入社員研修のプログラムでも、プ譜で整理しているとうかがいました。

はい、新入社員研修の計画にも活用しているほか、一般総合職の研修でも「プ譜」を取り入れています。プロジェクトの成功の定義である勝利条件から逆算して、その要素分解をして必要な施策を考えるというプ譜の思考方法とフォーマットが役に立つと考えて、始めることになりました。実はそれを見た役員からの提案で、今後は管理職研修にも導入予定なんです。

━━採用活動に従事する方々に、「プ譜」を活用するうえでのアドバイスがあればお願いします。

採用市場の動きは毎年変化するため、柔軟に対応できる計画が必要です。「プ譜」を活用すれば、採用プロセスの見直しや施策の追加がしやすくなります。

また、タスク管理だけでなく、プロジェクトの全体像を共有するツールとしても有効です。採用チームのメンバーが主体的に動ける環境を作るためにも、ぜひ「プ譜」を活用してみてください。

取材を終えて

今回、アプライドグループの採用プロジェクトにおける「プ譜」の活用についてお話を伺い、改めて「可視化」の力を実感しました。

採用活動は、目に見えにくいプロセスが多く、関係者がそれぞれ異なる役割を持つため、認識のズレが生じやすいものです。しかし、「プ譜」を活用することで、目標と施策の関係性を整理し、チーム全員が同じ方向を向いて動くことができるようになったのは、大きな成果だと感じました。

「採用活動を可視化する」ことは、採用チームだけでなく、社内の関係者すべてにとって重要な意味を持ちます。これまで暗黙知だった採用のノウハウを整理し、次年度の採用計画やチーム運営に活かすことで、より効果的な採用が実現できるはずです。

「プ譜」は、採用だけでなく、人材育成やプロジェクト管理など、さまざまな場面で活用できる可能性を秘めています。今回のインタビューを通じて、「採用の見える化」が、企業の成長を支える大きな一歩になる」と確信しました。

写真 商品 『予定通り進まないプロジェクトの進め方』

『予定通り進まないプロジェクトの進め方』
前田考歩・後藤洋平著/定価1,980円(税込)

ルーティンではない仕事はすべて「プロジェクト」である――独自のフレームワーク「プ譜」を使って、プロジェクトの状況や諸要素の関係性を構造化し、成功に導くための方法を解説。プロジェクトの全体像を俯瞰し、進行の技術を身につけるための実践書。

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前田考歩(プロジェクトエディター)
前田考歩(プロジェクトエディター)

1978年三重県生まれ。平日8:00〜10:00のみ開業の、問いかけと構造化でプロジェクト進行を支援する『プロジェクト・クリニック』を運営。
自動車メーカーの販売店支援・CSR事業、映画会社のeチケッティング事業、自治体の防災アプリ、保育園検索システム、夫婦の育児情報共有アプリ事業、魚の離乳食的通販事業、テレビCM制作会社の動画制作アプリ事業など、様々な業界と製品のプロジェクトマネジメントに携わる。
プロジェクトに「編集」的方法を活かした、プロジェクト・エディティングを提唱、実践中。
著書に『紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本』(翔泳社)、『予定通り進まないプロジェクトの進め方』『見通し不安なプロジェクトの切り拓き方』(宣伝会議)、『ゼロから身につくプロジェクトを成功させる本〜はじめてのプロジェクトマネジメント〜』(ソーテック社)など。

前田考歩(プロジェクトエディター)

1978年三重県生まれ。平日8:00〜10:00のみ開業の、問いかけと構造化でプロジェクト進行を支援する『プロジェクト・クリニック』を運営。
自動車メーカーの販売店支援・CSR事業、映画会社のeチケッティング事業、自治体の防災アプリ、保育園検索システム、夫婦の育児情報共有アプリ事業、魚の離乳食的通販事業、テレビCM制作会社の動画制作アプリ事業など、様々な業界と製品のプロジェクトマネジメントに携わる。
プロジェクトに「編集」的方法を活かした、プロジェクト・エディティングを提唱、実践中。
著書に『紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本』(翔泳社)、『予定通り進まないプロジェクトの進め方』『見通し不安なプロジェクトの切り拓き方』(宣伝会議)、『ゼロから身につくプロジェクトを成功させる本〜はじめてのプロジェクトマネジメント〜』(ソーテック社)など。

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