新年度を迎え、新たな環境や役割のもと、どうキャリアを築き上げるべきか、迷いが生じている人も多いはず。そこで『ブレーン』は、いま活躍している気鋭のクリエイターをゲストに迎え、「若手のうちに(最短距離ではなく)寄り道すべきこと」をテーマに、これまでのキャリアについて語るトークイベント「寄り道ブレーン」を開催した。
ゲストは市川晴華さん(CHOCOLATE プランナー/クリエイティブディレクター)、岩崎裕介さん(CMディレクター)、片岡良子さん(CHERRY コピーライター)、鈴木健太さん(Firstthing/CANTEEN クリエイティブディレクター/映像監督)、関谷“アネーロ”拓巳さん(ECD 地球中心デザイン研究所/TBWA HAKUHODO Activation Director)。
一見最短距離でクリエイターとして活躍しているように見える5人だが、その道筋をたどると、さまざまな寄り道がターニングポイントになっていることが判明。今回は会場で語られたそのユニークな経験をダイジェストで紹介する。ゲストから事前に集めたカード【アサイーボウル屋さん(転職)】【好きなものは好きと言おう】などを「寄り道ボックス」に入れて、カードを引いてトークが進んだ。
前編はこちら
社会人の寄り道「転職」
市川:引いたカードは【アサイーボウル屋さん】。今日のゲストの並びの中でわたしだけ転職経験があるので、その話題を紹介しようと思って入れました。
この【アサイーボウル屋さん】は、前編で話した新卒入社した広告会社で2年目に担当した仕事でのことです。とあるテレビ局の大規模なイベントで、担当していたクライアントが出店したブースがアサイーボウル屋さんだったんです。自前でアサイーボウルをつくり、番組に売り込んだり、朝の情報番組内でライブクッキングをしたり、とにかくなんでもやりました。まさに寄り道(笑)。でもこの経験が後々にすごく活きていて。
とある番組内でアナウンサーの方が紹介してくれたことで大人気になり、そこからパブリシティを学んだり、広告業界はアイデア勝負で、そこに会社の規模は関係ないことを実感しました。その後、転職してプランナー職としてキャリアを歩んできましたが、「広告業界にたどり着けさえすれば、続く道は無限にある」と本当に伝えたいです!
広告からの寄り道「映画/アニメ/建築…好きを更新させる」
岩崎:続いて……【オンライン演劇】は僕ですね。2020年、新型コロナウイルスで一斉に世界がとまったときに、時間ができたので、オンライン演劇「劇団ノーミーツ」を立ち上げました。あのときに同じ熱量の社会人の友人と出会えて、スズケン(鈴木健太さん)ともここで仲良くなったんだよね。コロナ禍で劇場に立つ道が絶たれた役者たちの発露の場でもありました。あの時間は寄り道だったけど、自分のキャリアのターニングポイントになったなと。
その後、劇団ノーミーツの主宰のひとりが新たに映画レーベル「NOTHING NEW」を立ち上げることになって、そこで僕に「ショートホラーの映画監督をやらないか」と声がかかって。広告はお題に応える仕事だけど、映画はお題を自分の中から捻り出す必要がある。「自分はこう思う」とひたすら内省する作業は広告にはない経験で、これもまた新たな寄り道でした。
鈴木:自分は逆に、昔から映画がつくりたくて。でも“人に伝える”ことに苦手意識があったので、人に伝える技術そのものである広告に感動して、自分から広告に“寄り道”してきた感覚があります。今も寄り道してる感じです。自分の伝えたいテーマが見つかったときに、これまでの寄り道を駆使して表現したいです。
岩崎:そういえば市川さんも最近短編アニメ「パンの赤ちゃん」をつくっていましたよね。
市川:そうなんです! 「パンの赤ちゃん」では、まさに自分の考えていたことを形にしました。
でも広告とも通じるところはあります。自分の中にあるものを、クライアントを通じて届けている感覚というか……。広告も自主制作も、そんなに遠くはないんじゃないかなと思いました。
鈴木:【好きなものは好きと言おう】カードは自分なんだけど……。KIRINJIが昔からすごい好きで。ずっと好きと言い続けて、でもそれだけでつながれるわけではないから、自分でKIRINJIのマネージャー宛にポートフォリオを添付してメールを送ってみました。2年くらい経って、それがきっかけで、豊洲PITの20th Anniversary Liveのライブ映像を作ることになったり、MVの監督に携わることができたりしたんです。無効力な寄り道と思われがちだけど、自分から来るのを待っているより、自分から行っちゃったほうが全然よかったりする。無駄なことはない。好きなことを好きと言い続けるといいよ、という話でした。
関谷:自分にとっては、建築がまさにそうです。SNSでもよく見にいった建築を投稿してるし、社内でも多くの人が知ってくれていると思います。だから「建築の仕事あるけどやる?」って相談をよくもらえるんですよ。たとえば「建築物を新たにつくるのでコンセプト設計を頼みたい」「建築家と伴走してほしい」といった仕事を担当しています。あと僕がいま所属している「地球中心デザイン研究所」のオフィスをつくる時も、好きな建築家をリストアップして、自ら打診して、内装などを手がけてもらいました。夢のような仕事でした。
岩崎:すごい良い話。「何が好きか」「何をやりたいか」を常に言える状態にしておくということですかね。
鈴木:うん。昔からの夢とか、この人に会いたいな、仕事したいな、という思いを声にすると、実現しやすい業界だと思います。
岩崎:憧れに向かって努力して、それが叶って仕事ができたときに、達成感ももちろんあるけど、次の憧れを見つけて、そこを目指していくことが必要な気がします。だから絶えず好きなもの気になるものを見つけて、ある意味寄り道していくことが大事ということで締めくくりましょう。

登壇者プロフィール