話題の拡大を受け、対応に迫られる広告主
「不倫報道を受けて、CMを即停止」――。近年、芸能人や著名人のスキャンダル報道が出た際に、企業が即座に広告の差し替えや契約解除に踏み切る事例が定着してきた。
女優・永野芽郁と俳優・田中圭に関する一部報道が出た直後も、複数の企業が対応に動いた(5月23日時点の対応は下記参照)。テレビCMの放映停止、Web広告の削除、YouTube動画の非公開など、判断は一様ではないものの、素早い反応が相次いだ。
対応が一律でないことからも、各企業が異なる判断軸で動いていることがうかがえる。では、企業は何をもってこの判断を下しているのか。
AdverTimes.編集部では、広告出演契約の実務に詳しいレイ法律事務所の佐藤大和代表弁護士に、スキャンダル時代の“判断設計”の勘所について意見を求めた。
違約金条項が明記されていない契約は多い
広告出演契約におけるスキャンダル対応の中心となるのが「モラル条項」だ。佐藤弁護士は、これまでの条文が「社会的信用や品位を毀損する行為」など曖昧な表現にとどまっていたことで、タレントにとって予測不能となり、企業との間で、その解釈が争いになりやすかったと指摘する。
「近年では、『不倫行為を含む』『報道の有無を問わず』『スキャンダル記事が掲載される状況を惹起(じゃっき)する行為(スキャンダル記事を生み出す“きっかけ”となるような言動を取ること)』といった具体性をもたせた契約が増えています。つまり、報道段階の対応まで視野に入れたリスク管理が進んでいるのです」。
また、広告主の立場を強化するため、「報道された事実の真偽にかかわらず対応可能」といった広範な裁量を契約に盛り込むケースもある。ただし、広告主にどれだけ広い裁量を定めていても、それだけで契約解除や賠償責任が問題なく認められるわけではない。
「損害の立証や契約違反の立証は別問題です。違約金条項が明記されていない契約も多く、仮にCMを差し替えたとしても、タレント側への請求が認められないケースも十分にあります。また、広い裁量を定めていたとしても、具体的な状況に照らせば、その行使が適切ではないと判断される可能性もあります」。
契約時の条項が肝心
拙速な「CM即停止」は企業にとってリスク
「報道された=即座に停止」は、社会的批判の回避を目的とする“防衛反応”だが、契約上・法的にはかえって不安定な立場に立たされる可能性がある。
「事実確認をせずにCMを止めた場合、後にその報道が虚偽と分かれば、タレント側からの請求により、何らかの法的責任を負う可能性があります。広告代理店や制作会社との契約においても、説明責任を果たさないままの停止は信頼関係の毀損につながります」。
また、CM放映停止等のタイミングを誤ることで、企業が株主や消費者からの“過剰反応”として非難されるケースもある。拙速な対応は二次炎上の火種にもなりかねない。