「段階的な判断」は契約にもとづく正攻法
では、どのような判断がリスクを最小化できるのか。佐藤弁護士は「段階的な対応」を推奨する。
「まずは所属事務所を通じて事実経緯の報告を求めた上で、報道内容が真実かどうかを精査し、契約違反の有無を検討する。その上でCMの放映継続・停止・差し替えといった判断を取ることが、実務上も法的にも妥当です」。
つまり、「削除するか否か」の二元論ではなく、「どのような情報に基づき、どのような手順で決断したか」の構造が問われているのだ。
モラル条項の具体化で有事に備える
こうした状況に備え、広告主が契約段階から準備すべきポイントは多い。
「モラル条項はできる限り具体化し、不祥事の種類やメディア報道時の対応も明記します。また、賠償の対象となる損害の項目は事前に定めておくべきです。『広告主が事実・経緯報告書の提出を求めた日から〇日以内に書式に則って(のっとって)報告書を提出する』といった条文も有効です」。
さらに、契約相手が広告代理店である場合、代理店に有利な責任限定条項が含まれているケースも多く、こうした内容に対するチェック体制も欠かせない。
「広告主が一方的に不利益を被らないためにも、芸能業界の契約実務に通じた弁護士によるレビューが必要不可欠です」。
広報体制の整備も並行して求められる。研修などを通じた炎上リスクの共有、社内フローの明文化、そして有事の初動における“誰が判断を下すか”の明確化が、ブランドの信頼性を左右する。
“反応”から“設計”へ。判断力が問われる時代に
生活者の視線は、対応の有無以上に「なぜそう判断したか」に向かっている。削除の速さではなく、その根拠と整合性こそが、企業のレピュテーションを左右する時代だ。
いま、広告主に求められているのは、炎上に対する“素早い反応”ではなく、“判断を支える設計”であるといえるだろう。
