生成AIは世界の秩序をどう変える? マーケティングのパラダイムシフトを考える

生成AIの台頭により、業務の効率化が実現するとともに、メディアの在り方や、企業と人の接点の作り方をも変えるような大きなインパクトが予測されます。マーケターは、これらの技術をどのように受け入れ、業務に活かしていけばいいのでしょうか。今回は、マーケティングパラダイムシフトについて、富士通の山根宏彰氏が解説します。

※本記事は月刊『宣伝会議』6月号の連載「AI×マーケティングで未来を拓く」に掲載されています。

山根宏彰氏


富士通
研究本部 人工知能研究所 研究員

デジタルネイチャー時代のマーケティングパラダイムシフト

2025年4月に実施されたトランプ政権による大規模関税措置は、世界経済に激震をもたらしている。「アメリカファースト政策」は、グローバルサプライチェーンを根底から揺るがした。株価は暴落と暴騰を繰り返し、先が見えない不透明感が漂ってきている。このように、経済は世界のあり方に重要な役割を果たし続けてきた。

そもそも歴史を振り返ると、これまで世界を秩序付けてきたのは、経済的権力、宗教的権威、そして軍事力という3つの支配構造だ。しかしIT化、さらにAIが普遍的に導入された世界の登場により、既存の秩序がどのように変化するのかを再考すべき時代を迎えている。

今回は、今までと見方を変えてマクロ的に、マーケティングとAIを考えてみたい。

権力構造のメカニズムと技術による変容

そもそも、これまでの権力構造はどのように成り立ってきたのか。宗教的権威は真実や倫理の独占、経済的権威は資源の希少性や貨幣価値、軍事力は暴力の独占によって人々を支配してきた。いずれも人間社会の本質的な制約(情報不足、資源不足、肉体的安全の脅威)に由来する。

しかし、これらの「制約」を根本から揺るがしかねないのが、ITとAIの浸透だ。情報の普及とAIの精緻な解析力は、真実や倫理の基盤を分散化・相対化する可能性があり、資源の制約に基づく経済的支配も、AI駆動の生産やエネルギー効率の最適化によって、希少性が希薄になる可能性がある。サイバー戦争や無人兵器は、伝統的な武力の影響力を相対的に低下させる。

これらを踏まえたうえで、従来のパラダイムが「崩れる」とするならば、何が新しい秩序の中核となるのか。AIが普遍的な存在になった時代に人類が直面するのは、「計算力」あるいは「データ」を権力の新たな中心に据えるパラダイムである可能性が高い。

大規模言語モデル(LLM)の登場により生まれた、いわゆるAIエージェントは、人間の代わりに一定の目標やタスクを遂行するために設計された自律的存在と考えられる。しかし、これはあくまでも現在の人間中心的パラダイムの延長線上にすぎない。真の変革は、これとはまったく異なる、人間すら主体ではないパラダイムに移行したときに起こりうる。

…この続きは5月1日発売の月刊『宣伝会議』6月号で読むことができます。

Amazonでの購入はこちら
楽天ブックスでの購入はこちら

advertimes_endmark

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ