新方針を発表した、メルカリの迫俊亮 執⾏役員 CEO Marketplace
ひとつ目は、AIを活用した不正の兆候スコアリングだ。従来は、違反が発生した後に対応するスタンスだったが、今後は行動履歴に基づいて予兆段階で不正を検知し、必要に応じてアカウントの凍結や刑事・民事での対応も行う。そうした“未然防止”への転換が打ち出された形だ。
ふたつ目は、「メルカリ鑑定センター」の設立。ブランド品などの真贋(しんがん)を自社で鑑定できる体制を整え、鑑定に不備があった場合には購入者に対して全額補償を行う。2025年9月の開設を予定しており、鑑定対象商品の拡大や、今後の一部義務化も検討されている。
そして3つ目が「全額補償サポートプログラム」の導入である。eKYC(本人確認)を完了した正規ユーザーが、不正取引に巻き込まれた場合、購入代金や販売利益などを上限なく補償する制度で、7月の導入が予定されている。補償条件や申請要件は、ガイドラインとして今後公開される。
こうした方針の背景には、“万が一の発生を前提に、構造で信頼を支える”という考え方がある。従来のメルカリは、CtoC取引の場を提供する“中立的なプラットフォーム”として、ユーザー間の取引に限定的に関与する姿勢を取っていた。だが、すり替え詐欺やフィッシング、悪質な返品など不正行為の巧妙化が進む中で、トラブル発生後のサポート対応だけでは限界があるという認識が広がっていた。
今回の新方針は、そうした課題への応答として、「信頼を預かる以上、プラットフォームには構造的責任がある」という立場を明確に打ち出したものといえる。
なお、5月27日には任天堂が、6月5日発売予定の「Nintendo Switch 2」の不正出品を防ぐため、メルカリ、LINEヤフー、楽天グループの3社と協力体制を構築することを発表。構造で信頼を築く流れは、玩具やキャラクター商材に限らず、業界全体に広がりつつある。
SNSでは、「誰かが得をし、誰かが泣いた」という構図が、すぐに可視化される時代だ。今回の“ちいかわ問題”が示したのは、体験の不平等が単なる不満にとどまらず、「企業側の設計そのものに問題があったのではないか」と捉えられるようになっていることだ。
「最初から、その状況が起きることを想定して設計していたのか?」──今、企業にはそんな視線が向けられている。そして、その視線に耐えうる設計をどこまで備えているか。それが、ブランドに対する信頼を左右する要因となりつつある。
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