マーケティングのおかげで仕事の見え方が変わった
━━クレジット会社のどこに魅力を感じたのですか?
私の大学時代は就職氷河期真っただ中の1990年代。周りは就職活動に励んでいましたが、私は型通りに社会に出て働くことが受け入れがたくて。唯一興味を持ったのがクレジットカード業界でした。
クレジットカードはサイズが国際規格で統一されていますが、会員向けの付帯サービスには多様性があります。画一性の中に各社の個性がひしめき合う点に魅力を感じたのと、これから伸びる業界だと考え、マイカルカード(現在のポケットカード)に就職しました。
しかし、入社後の道のりは決して順調ではありませんでした。最初の仕事は、親会社が運営するスーパーマーケットでの会員獲得です。来る日も来る日も店頭で「カードつくりませんか?」と勧誘。つい、しつこく勧めてしまい、お客さまに激怒されたこともありました。
PayPayカード
マーケティング本部 ユーザーエンゲージメント部 部長
佐々木仁(ささき・ひとし)氏
1999年、マイカルカード(現在のポケットカード)入社。3年間の利用者獲得業務ののち、法人営業、与信管理、経営企画など多岐にわたる職種を経験。2007年から産業能率大学大学院で経営管理を学ぶ。2013年、京都移住を機に、ニッセン・ジー・イー・クレジット(現在のニッセン・クレジットサービス)にマーケティング部門のトップとして入社。2023年より現職。
━━それでも続けた理由は?
マーケティングとの出会いがあったからです。あるとき、ふと「クレジットカードって、使ってもらってなんぼだよな」と思ったんです。いくら会員が増えても、使われなければ1円のもうけにもなりません。
そこで勧誘業務の傍ら、利用促進の企画を考えることに。目を付けたのは当時、広く流通し始めた無洗米です。手づくりのクーポン券を配り、無洗米をカードで購入した場合に割引価格を適用する作戦でした。親会社のスーパーマーケットに交渉し、新聞折込チラシにも載せてもらいました。その結果、私のいたスーパーが無洗米の販売で全店舗1位を獲得。この経験を境に、次第に仕事が面白くなっていきました。
お客さまに「無洗米はおいしくないんでしょ?」と言われて、私が「ぬか臭さがなくておいしいですよ」と返すと、「じゃあ買ってみようかしら」とその場で行動が変わる。このリアルなやりとりに、マーケティングの本質が凝縮されていました。
私の長いマーケター人生で成功体験はいくつかあります。今はデジタルマーケティングが主流になり、クリック率など成果を数字で出すこともたやすくなりました。でも、あの「これぞマーケティング」という手触り感は、いまだにデジタルでは超えられていない気がします。