お詫びのメッセージを発信することに迷いはなかった
━━人のうわさも七十五日ではないですが、ネット上でなにか炎上的な盛り上がりを見せる場合でも75時間程度経てば自然と鎮静化する、という話を聞いたことがあります。今回も、「様子を見る」という選択肢もあったのかなと思ったのですが。
原田:オレンジページは創刊当初から、ずっと読者と誠実に向き合い続けてきたメディアです。読者の声に耳を傾けるという姿勢が、編集部全体に深く根付いており、ネットであっても同じ。ですから、お詫びのメッセージを発信することに迷いはありませんでした。
━━結果的に、貴社の謝罪コメントの投稿はユーザーからの高評価につながりました。そのような反応は想定されていましたか。
原田:正直、そこまでの反響は、想定はしていませんでした。まずは、編集部としての広告に対する姿勢と、読者に対する誠意を伝えることを第一に考えていました。結果的に評価をいただいたことはありがたいと思っています。
━━お詫びメッセージには、「各広告ネットワーク側の審査やフィルタリングにより、不適切な広告は自動的に排除される設定となっておりますが」とあります。これは、業種とか表現の内容などで設定されているということですか。
原田:簡潔に言えば「アダルト広告は表示させない」など、ジャンルごとに配信設定が可能です。一般的な広告であっても、表現によっては不適切な印象を与えることがあり、むずかしさを感じております。
━━ちなみに、「オレンジページnet」は、広告収入で運営されているのでしょうか。
原田:はい、広告モデルで運営しています。ただ、アドネットワーク経由の広告よりも、予約型のタイアップが収益のメインになっています。
━━アドネットワーク経由の広告マネタイズについては、どのような方針で運用されていますか。
原田:まず、第一として公序良俗に反しないことを基準にしています。「オレンジページnet」を見に来る方は、料理をつくろうと思って訪れているため、性的・暴力的な広告が表示されること自体が読者にとって不快であると考えています。
紙媒体で培ってきた読者との信頼関係
━━ここでちょっと違う質問をします。情報学環教育部では、メディアの変化について学んでいることもあり、紙媒体のオレンジページが40年、オレンジページnetが20年の歴史があるということですが、オンライン化などのテクノロジーに対応される中でどのようなむずかしさがありましたか。
原田:私の立場は統括編集長ですが、雑誌には雑誌の、ネットにはネットの、媒体編集長がいて、それぞれが個別のKPI(販売部数やPV)を持っています。そのうえで、メディア全体の方向性や、収益最大化を私が管轄しています。紙では実現が難しいことでも、ネットでは実行してみる、というような柔軟な判断を行っています。
オレンジページには「読者に正面から向き合う」という文化が根付いており、これは一朝一夕には持つことが出来ない強みだと思っています。読者との信頼関係やブランドへの共感は、私たちの大きな資産です。この信頼関係やブランド力を、ネットでも継承・活用していくことが、今後の競争優位性の源泉になると考えています。
たとえば、オレンジページのレシピは、全部編集部で試作しています。現代、レシピメディアは数多く、IT系だとユーザー投稿や、社内開発でレシピ数を増やしている。雑誌系メディアだと、料理家の先生にレシピ開発をしていただくのが主流です。
一方、オレンジページは料理家の先生開発のレシピを編集部で全部試作して、再現性やおいしさを確認し、時にはやり直すということを昔からやってきています。ですから、エゴサーチしてみると「オレンジページのレシピは外さないよね」という認識がユーザーの間に浸透しています。テクノロジーが進化する今だからこそ、オレンジページが紙媒体で培ってきたものが強みになり得ると思っています。
━━紙媒体のときから培ってきた読者に向き合う姿勢が今回の迅速な対応につながったことがよくわかりました。オレンジページでは読者の声をどのように集め、誌面に反映されてきたのでしょうか。
原田:読者アンケートやヒアリングは常に行っており、創るものの指針になっています。一例を挙げると、一般的に雑誌の付録は「表紙映え」が重視される傾向がありますが、オレンジページでは「開けたときにがっかりさせない」ことを重要視しています。
表紙に写らない部分にもきちんとコストをかけて付録を作るという編集部のこだわりがあり、私も着任当初にその姿勢に感銘を受けました。
広告ネットワークによる広告の理想的な運用の在り方とは
━━読者との信頼関係を大事にしてきた紙媒体の文化とネットメディアの運営のどちらにも精通していたからこそできた対応だったのだとわかりました。そのうえであらためて、広告ネットワークで配信されてくる広告に対する貴社のお悩みや課題などがあればお聞かせください。
原田:広告のクリエイティブチェックを強化し、「不適切」と判断されたものはブラックリスト化するなどの対応を進めていますが、相手も表現を変えながら配信を試みてくるため、終わりのない対応になりがちな難しさがあります。少しずつ改善はされていますが、抜本的な解決には至っていません。
━━ウェブメディアのお立場から、ウェブメディアの広告枠にネットワーク経由で配信される広告の理想的な在り方とはどのようなものだと思われますか。
原田:ユーザーが広告を目にするまでには、媒体社、広告主、アドネットワークの運営者などいくつかのステークホルダーが関与していますが、それぞれの立場で果たすべき責任があるのではないかと思っています。
私たち媒体社は、広告の健全性を保つために、知識をつけすべき対策をする。本来は不要であることが望ましいのですが、一定の対策は必要だと考えています。
広告ネットワーク事業者については、媒体社からすると配信されてくる広告の審査を強化していただくとすごくありがたい。とはいえ、実際に広告ネットワーク事業者からは「件数が多すぎてAIでのチェックでも限界がある」という声も聞きました
また広告主には、適切なカテゴリで商品登録を行い、不適切な広告が配信されるリスクを未然に防ぐ責任があると考えています。
━━それぞれの立場でやるべきことをやる。本当にその通りだと思いました。本日はどうもありがとうございました。
■取材対象者
