イベントという仕事の醍醐味と達成感~『イベントの教科書』に寄せて(小林雄二)

少し長くイベント制作の業界の中で人生を過ごしてきているが、なかなか世の中での認知が難しい業界だなと思うことも多い。そして、いくつもの積み重ねで準備してきたイベントが、あっという間の成功の瞬間とともに、何事もなかったかのように即座に会場が片付けられるときの「はかなさ」と達成感を味わえる醍醐味を伝えることは、なかなか難しい。

いかにして若い人たちに、この仕事の醍醐味と達成感を伝えられるか。イベントが出来上がった時のダイナミックな面白さと、そのために制作準備の段階から緻密に考え整理していく面白さ、この両方の魅力を伝えるのには苦労することがあるが、そんな悩みを解決してくれる1冊が本書である。

その面白さは、表紙・カバー・袖に集約されている通りだ。「エクスペリエンスプロデューサーとは何か」を明確にした上で、仕事の中身や過程を非常にわかりやすく解説している。ダイナミックな「演出」と緻密な「マネジメント」という2つの相反しそうな要素を両立させる立場を、プロデュースワークから理解することができる内容になっている。

イベントプロデューサーとして活躍し、業界で広く知られる中島さんに、我々も数多くの場面でお世話になってきた。自身の豊富な経験をもって様々な場面(うれしい場面も、厳しい場面も)を乗り越えてきた中島さんだからこそ、本書は説得力の高い仕上がりになっているのだろう。

ぜひ読んで欲しいのは、イベント初心者というより、仕事を始めて1~2年くらい経た人たち。本書を読めばより納得感が高まるような気がするし、業界で働く若者には、すべての拠り所となる基礎編をまずはじっくり読んでほしい。

また、ある程度の経験を積んだ「中堅」ポジションの人たちには、改めて業務の内容が整理できる応用編や実践編をお薦めしたい。実践編での企画準備の「写経」から報告会の「予告編」まで、まさに制作者のための「イベントの教科書」にふさわしい内容だ。わかりやすい表現で、イベント業界にとどまらず、様々な業界や日常生活にも役立つ答えがいくつも用意されている。

中島さんとは、プロだからこその厳しい時間の中で接していただいたことが多く、ご本人の感情や心の中までうかがい知る場面は少なかったが、イベントの「現場」が分かる人だから理解しやすく共感できることも多い。特に各コラムには、同じ業界の人だからこそ共通して感じるところがある。「はかなさ」で表現されたイベント終了後の寂しさと楽しさ、そして感動から、また次に向かっていく経験者でしかわからない大切なものを再認識させられる。イベントという仕事に誇りを持つ方々には、一読を薦めたい一冊である。

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小林雄二(こばやし・ゆうじ)

ティー・ツー・クリエイティブ 取締役/演出家

1988年 TOW入社、常務取締役を経て、2006年 ティー・ツー・クリエイティブ代表取締役就任、2024年より現職。2025年7月より取締役会長就任予定。人を活かした演出や空間を立体的に使った演出を得意とする演出家。2002FIFAワールドカップTMでは決勝の折鶴が舞い降りるシーンは全世界に発信され、現在まで様々な大型イベント演出を担当している。

書影 イベントの教科書

定価:
2200円(税込み)

『エクスペリエンスプロデューサーが書いたイベントの教科書 「体験」の「カタチ」をつくる、超実践的思考法』
(中島康博 著)

「感動体験(心を動かす体験)」の「総合演出家」であり、「感動体験施策(感動体験を提供する活動)」の「プロジェクトマネージャー」でもあるエクスペリエンスプロデューサー。この2つの視点を兼ね備えることで、従来のイベントにとどまらない体験や経験を来場者に提供することが可能になります。
イベント制作の各プロセスにおいて、エクスペリエンスプロデューサーがどのように考え、どのような技術を使って制作、進行しているのか。基礎、応用、実践と3つのパートで具体的に紹介します。

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