プロダクト開発という王道マーケティング
日本マーケティング協会は6月12日、第17回「日本マーケティング大賞」の表彰式を都内で開催した。受賞事例の代表者が壇上に立ち、記念の盾を受け取った。
「日本マーケティング大賞」のファイナリストと関係者
グランプリに選ばれた「世界初・本物のレモンスライス入りチューハイ『未来のレモンサワー』の挑戦」(アサヒビール)は、2024年6月に発売された独自のフルオープン缶を使用した世界初のレモンスライス入りチューハイ。開栓すると缶の底からレモンが浮かび上がる特性が、味覚や嗅覚だけでなく五感をフルに使って楽しめる新しい価値を提供した。原材料の調達や品質保証、装入設備開発などで多くのイノベーションのうえで「本物レモンスライス入り」が実現して、商品化された点が評価された。
アサヒビールのマーケティング本部副本部長 執行役員の清水二郎氏は「レモンのスライスが浮かび上がってくる。このアイデアが出てきたとき自分たちもワクワクした。ただ開発を進めていくとワクワクどころではなくハラハラドキドキの連続だった。発売6カ月前でレモンスライス装入システムの成功率が60%だった。改善・改良を重ねてなんとか販売にこぎつけた」と発売前の苦労話で授賞式の会場を驚かせた。今後の意気込みとして「生産体制が弱くエリア限定での販売だったが、今年9月に全国販売する。さらに日本だけではなくグローバルブランドとして世界にワクワクを届けていきたい」と強調した。
日本マーケティング大賞実行委員会委員長の藤重貞慶・日本マーケティング協会会長は、第17回は自薦・他薦含めて合計96件のノミネートがあったなかで「社会との共生共存、持続可能な社会システムづくりなど社会解決型のマーケティングが近年増えてきた」と述べた。そのうえで「未来のレモンサワー」は商品化、量産化、トータルマーケティングの展開という王道を行くプロジェクトとして評価されてグランプリに輝いたと総括した。
左から日本マーケティング大賞 実行委員会委員長 藤重貞慶氏、アサヒビール マーケティング本部副本部長 執行役員 清水二郎氏
メディアも気づかなかった視点
準グランプリには「座ってイイッスPROJECT」(マイナビ)が選ばれた。アルバイトの立ちっぱなし問題を解決するために「マイナビバイトチェア」を開発したプロジェクトだ。レジの立ち仕事が当たり前になっているなかで、この暗黙の慣習に着目し、働く人へ寛容な社会へと転換するために、世の中へ提言した点が評価された。
日本マーケティング大賞の選考委員会委員長の坂本裕寿氏(読売新聞東京本社 取締役ビジネス局長)は「新聞記者だったからこそ“やられた!”と感じた施策。メディアこそが世に問うべき問題だった」と好評した。
日本マーケティング大賞 選考委員会委員長 坂本裕寿氏
大学、シンクタンク、広告主、メディア、広告会社などで様々な立場でマーケティングに携わる第一人者が審査に加わった。アカデミックな視点、事業者としての業務プロセスの苦労、表現や企画アイデア、時代性などそれぞれの視点から選考した。「まるで教皇選挙(コンクラーベ)のように白熱した議論や投票を繰り返したうえで選ばれている。受賞作品は厳しい審査過程を通過したものだ」と坂本氏。また2024年1月に日本マーケティング協会が改訂・発表したマーケティングの定義に立脚して選考されたと日本マーケティング大賞 実行委員会 副委員長の恩蔵直人氏(日本マーケティング協会理事長)は紹介した。
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グランプリ・準グランプリのほか、奨励賞には「『彩る美容液』という新提案。資生堂『ファンデ美容液』」(資生堂ジャパン)「『職場のロリエ』『学校のロリエ』」(花王)、「エレキソルト スプーン」(キリンホールディングス)など5事例、地域賞に「日本の放置竹林を、資産に変える。ご当地クラフトメンマ『延岡メンマ』」(LOCAL BAMBOO)など3事例が受賞した。
日本マーケティング大賞は、「社会に新しく需要を喚起、あるいは市場を再活性した優れたマーケティング活動」を対象に、優れた取り組みを顕彰する目的で2009年から実施している。

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