戦略系部門は5年連続で応募数増加
6月16日(現地時間)、フランス・カンヌにて世界最大級の広告賞「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル2025」が開幕した。16日には、Audio & Radio、Health & Wellness、Outdoor、Pharma、Print & Publishingの5部門のほか、特別賞のLions Health & UN Grand Prix for Goodの結果が発表された。
今年の応募総数は2万6900点。前年の2万6753から微増しており、特にデザイン部門で前年比17%増、Creative B2B部門で13%増、またEntertainment for Sport部門でも15%増という結果になった。Creative Strategy 部門や Creative Effectiveness部門といった戦略系部門も前年比10%増となっており、5年連続で成長をみせている。
初日には、クリエイティブマーケターオブザイヤーを受賞したAppleによるセッションや、味の素による「日本食のクリエイティビティの秘密」と題したセッションなどが開催された。
「日本食のクリエイティビティの秘密」には、(左から)PRストラテジストの本田哲也氏、KEISUKE MATSUSHIMA オーナーシェフ松嶋啓介氏、味の素 欧州アフリカ本部長 森妹子氏が登壇。photo/Getty UK
ここでは初日に発表されたグランプリ受賞作品を紹介する。
※広告主/商品名「作品名」(企画制作会社)の順に記載。
■Pharma部門(応募数:305点)
Viatris/バイアグラ「Make Love Last – Bedroom」
(Ogilvy, Shanghai)
バイアグラは「勃起不全(ED)の治療薬」として広く知られている一方で、その印象は効能面に偏っている。そこで「パートナーとの関係性の改善」という本質的な価値を伝えるべく、情緒的なクリエイティブでアプローチすることに。バイアグラの「4時間の持続力」という機能面での訴求点を、「パートナーとの親密な4時間」と再解釈。4時間の様子を長時間露光で撮影し、1枚の写真に記録した。プロジェクトがバレンタインデーにローンチされると、3億5000万回のインプレッションを得て、多くの議論を巻き起こす結果に。審査員らからは「静かで力強いストーリーテリング」と評価された。
■Health & Wellness部門(応募数:1169点)
ユニリーバ/ヴァセリン「Vaseline Verified」
(Ogilvy, Singapore)
SNS上で拡散されるスキンケアの“美容ハック”には誤情報を含むことも多い。特にヴァセリンに関するものは、6000件以上の投稿がされていた。誤った情報は否定しつつも、多くの若年層にヴァセリンを使ってもらいたいーーそこでユーザーがヴァセリンの“ハック術”をSNSで共有すると、研究者たちが実際にラボで検証し、正しい情報には「Vaseline Verified」の認証を与えるキャンペーンを実施した。認証された人には、オリジナルデザインのトロフィーを贈呈。信頼性の高いブランドイメージの確立と、若年層との関係強化に成功した。
■Print & Publishing部門(応募数:769点)
PENNY「Price Packs」
(Serviceplan, Munich)
安さが売りのスーパーマーケットチェーン「PENNY」が展開した、値段を全面にプリントしたプライベートブランドの大胆なパッケージデザインが受賞。PENNYが抱えていた課題は、低価格を売りとするブランドが多数ある中で、いかにPENNYの“安さ”を差別化し、消費者の記憶に残る形で伝えるかだった。そこでパッケージから商品名や説明を排除し、価格だけを前面に打ち出したグラフィックに刷新。低価格戦略を明快に示すだけでなく、デザインの力で価格訴求を企業のメッセージへと昇華させた。
■Outdoor部門(応募数:2001点)
※2作品がグランプリを受賞。
キットカット「Phone Break」
(VML, Prague)
現代人のスマホ依存という社会的課題に着目し、キットカットのブランドメッセージ「Have a break, have a KitKat」を新たな文脈で再提示した取り組み。街中や公共交通機関などで、スマホを見つめる人々の日常風景を捉えた写真から、スマホだけをキットカットに置き換えたビジュアルを制作。セリフやロゴなしでも「今こそ休憩を」というメッセージを力強く伝えた。またチェコ共和国としては初のグランプリ受賞に。
Paris 2024/五輪開会式「Olympic Games Opening Ceremony Paris 2024」
(Paname 24 ほか)
パリ五輪の開会セレモニーが受賞。課題は、限られた観客しか体験できない式典を、より多くの市民と共有できる形に変えることだった。そこで選手団を川上から川下へと船で移動させ、パリの象徴的な風景とともに多様な文化表現を展開。観客はカフェや路上から自由に観覧でき、市民が一体となる開かれたセレモニーを実現した。結果として3000万人が視聴するなど、大規模な市民参加をかなえた。
■Audio & Radio部門(応募数:714点)
Budweiser「One Second Ads」
(Africa Creative DDB, São Paulo)
バドワイザーは音楽ファンとの接点を強化することを目的に、世界的な楽曲の冒頭1秒のみを使った超短尺広告をTikTokで展開。「この曲は何?」と問いかけ、正解したユーザーには商品のクーポンを配布する仕組みとした。スキップされやすいSNS広告の課題に対し、あえて1秒という制限がユーザーの興味を引き、自然なエンゲージメントを創出。結果、6800万回以上のインプレッションと高い再生率を記録した。
■Lions Health Grand Prix for Good(特別賞)
New Zealand Herpes Foundation「The Best Place In The World To Have Herpes」(FINCH, Sydney 他)
ニュージーランド・ヘルペス財団による、「ヘルペスを恥じることなく語れる国」をテーマにした啓発キャンペーン。「ヘルペスは治療可能で比較的無害なのに、社会的烙印に苦しむ人が多い」という課題に着目。「ヘルペス非スティグマコース」と題した6回連続のオンライン教育講座と、国民の対応度を示すランキングを導入。笑いとユーモアを交えながら教育コンテンツを配信し、市民の理解や参加を促進した。結果、SNSやメディアで1270万インプレッションを記録した。
2日目はIndustry Craft、Digital Craft、Film Craft、Design、Entertainment、Entertainment for Gaming、Entertainment for Music、Entertainment for Sportといった部門の発表を予定している。
