佐藤雅彦氏が語る「佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)」、40年にわたる創作活動を展示

横浜・みなとみらいにある横浜美術館にて、6月28日に「佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)」が始まった。

本展は、「ピタゴラスイッチ」「バザールでござーる」「だんご3兄弟」「スコーン」「モルツ」「ポリンキー」「I.Q Intelligent Qube」「0655/2355」など、テレビCMをはじめ、教育番組、書籍、ゲームなど、さまざまなメディアでコンテンツを発信してきた佐藤雅彦氏の集大成とも言える個展だ。40年にわたる創作活動の軌跡をたどりながら、表現者/教育者として世に送り出してきたコンテンツを一堂に紹介。「作り方を作る」という思想に裏打ちされた独創的なコミュニケーションデザインの方法論を、0章から4章までの構成で明らかにする。

「これがわかる」という喜びを多くの人に知ってもらいたい

開催に先立ち、6月27日に横浜美術館で蔵屋美香館長と担当の学芸員 松永真太郎氏、そして佐藤氏が本展について会見を行った。内覧会が行われたその日の朝まで、佐藤氏とスタッフは展示内容の修正、調整を続けていたという。
「実は私、極力メディアに出ないようにしてるんです。メディアに出ると秒数の関係もあり、‟だんご3兄弟作った人”‟ピタゴラスイッチ作っている人“、ときに‟その仕掛け人”というレッテルを貼られることが多くお断りしているんです。そのためにあまり自分のことは知られていないかもしれません。でも、それよりも自分が作ったものが表に出るのが一番だと思っています」

佐藤氏の会見は、こんな話から始まった。そして、これまでに自身が続けてきた2つのことを掲げた。

「実はこれは最初からわかっていたわけではなくて、これまでにCMをそれこそ400本ぐらい作ったり、ゲームを作ったり、そういうプロセスの中でわかってきたことなんです。しかも40歳ぐらいになってからのこと。CMについては作ることが好きで、どんどん作っていたのですが、心の奥では『お前、CMプランナーじゃないだろう』っていうのがずっとありました。そして何百本と作ってから、自分が本当に好きなこと、やりたいことがわかったんです」

CMを作りながら考え続けていたのは、先に掲げた「どうすれば、あることが伝わるのか」「どうすれば、あることが分かるのか」、という2つのことだった。

「ピタゴラスイッチとか、だんご三兄弟とか、バザールでござーるなどを作っているのでよく誤解されるのですが、実はキャラクターが苦手なんです。例えばだんご三兄弟やポリンキーでは『小さな世界もの』という表現に必要で、その結果としてキャラクターを作っているのです」

本展の前半で紹介されているのは、佐藤氏が手掛けたCMにおける表現方法だ。会場では湖池屋、NEC、JR東日本、サントリーなどの69本のCMをTheater1で上映、隣のTheater2ではその方法論を解説する。そして、表現方法が「ルール」から「トーン」へと移行していく様子を図解し、モニターでは実際のCMを用いて具体的に解説している。

佐藤雅彦展 展示風景

電通退社後、プレイステーションソフト「I.Q」や「だんご3兄弟」でヒットコンテンツを生み出した佐藤氏は、1999年に慶応義塾大学SFCで教鞭を取ることになる。そして、これまで広告の世界で追求してきた「どうすれば、あることが伝わるのか」(表現方法論)、「どうすれば、あることがわかるのか」(教育方法論)という授業を立ち上げる。以降、この2つのことに邁進してきたという。本展の第4章では「佐藤雅彦と佐藤雅彦研究室」というテーマで、SFCから現在教鞭を執る東京藝術大学までの授業を通して続けてきた活動がプロジェクト別に展示されている。

佐藤雅彦展 展示風景

「大学でこの2つのことを中心に考えるようになって、自分の中ですごくすっきりしました。僕はCMでも書籍でも『どうしたら読者や視聴者が新しいわかり方をするのか』を考えていて、すごくおせっかいなことですが『これがわかる』という喜びを皆さんに知ってもらえたらと思っているんです」

佐藤氏のその気持ちを感じることができる作品の一つが「指紋の池」だ。これは指紋認証装置に自分の指を入れると、指紋がスキャンされ、デジタルの池にまるで小さな魚のようになって現れる。その指紋はしばらくすると泳いでいき、指紋の群れに紛れてしまう。しかし再び指紋認証装置に指を入れると、自分のところへ戻ってくるのだ。

「指紋の池」を中心とした展示風景

「自分の指紋が魚のように動き出す。そのときの気持ちって、皆さんがこれまで感じたことがないものだと思います。皆さんの指紋は銀行や警察などは知っているかもしれません。実はそこについては、自分が無頓着で一番知らない。ところが『指紋の池』を体験すると、自分の指紋が初めて愛おしいと思えるんです。この装置に再び指を置くと、学校から帰った時に犬や猫が駆け寄ってくるかのように、自分が放した指紋が戻ってくる。そういう新しい表象、分かり方をみんなに伝えたいと思っています」

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