“誰にでもできる仕事”じゃない──4度の転職で見えてきた「広報」というキャリアの選択(電通デジタル・長田真理子氏)

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。人事異動も多い日本企業の場合、専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、企業のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のキャリアプランを考えていたのでしょうか。横のつながりも多い広報の世界。本コラムではリレー形式で、「広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。メルカリの宮本祐一さんからの紹介で今回登場するのは、電通デジタルの長田真理子さんです。

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長田真理子氏

電通デジタル
コーポレート・コミュニケーション部部長

大手通信会社で広報としてキャリアを開始。日系・外資、B2C・B2Bなど多様な環境で広報業務を経験し、現在は電通デジタルのコーポレート・コミュニケーション部 部長として、企業価値向上に向けた戦略的広報を推進中。

Q1.現在の仕事の内容とは?

現在、電通デジタルのコーポレート・コミュニケーション部にて部長を務めています。2つのグループを統括し、コミュニケーション戦略策定、社内外広報、コンテンツ作成、露出戦略、危機管理、SNS運用、ウェブサイトの管理・運用など、広報領域全般を統括しています。

Q2.これまでの職歴は?

大手通信会社にて、新卒で広報としてのキャリアをスタートしました。常にメディアを賑わせる話題の多い会社でしたので、毎日刺激的で学びの多い約8年を過ごしました。いま思い出しても、大変だった記憶が多く呼び起こされますが、私の広報キャリアの基礎はここでできたと思っており、当時の先輩や上司には今も感謝の思いでいっぱいです。

その後は4度の転職を経て国内外の企業で広報業務を経験しました。初めての転職では国内大手IT企業で多国籍な社員との協働や英語での業務を通じてグローバルな視野を広げ、その後はいつかは挑戦してみたいと考えていた外資系企業へ転職しました。それまで「社外広報」一筋でキャリアを形成していましたが「広報」という広義で、もっとできることを増やしたいという思いから、そこではソーシャルメディア運用や社内広報に従事しました。その後は米国大手IT企業へ転職。初めて経験するB2B広報に、難しさを感じながらも「自ら企画する」という仕事の進め方の面白さを見出しました。それぞれの環境で広報の定義や役割の違いを体感しながら自分のスキルセットを広げ、2023年からは引き続きB2Bの電通デジタルに転職し、現在は主にマネジメント業務に従事しています。

自分のキャリア形成を考えるうえで、ある経営者の方がおっしゃっていた「戦場を変えることも戦術の一つ」という言葉がすごく印象に残っています。「『置かれた場所で咲く』より『咲く場所を選ぶ』」という表現もありますが、要は、「自分の得意や実現したいことができる場所を自分で選んでいく」ことだと考えています。得意を生かし、求められたことに着実に寄り添い、応えること。過去の私の決断は、そんな軸で考えられています。

Q3.転職や社内異動などに際して、強く意識したこととは?

初めての転職の際に、尊敬している先輩から「経験者採用は、その道のプロだと思われる。言われたことの倍以上のアウトプットを出すつもりで」とアドバイスをもらいました。何となく初めての転職に無駄にテンションが高くなっていた私でしたが、一気に怖くなり、気を引き締め、緊張感を持つきっかけになりました。(気づくのが遅いですが笑)この時に初めて「言われたことをする」仕事の進め方ではなく、「仕事は自ら作り、成果を出していく」という自分主導の仕事の進め方に方向転換できるようになりました。

私は年齢の割に転職回数が多いほうかもしれませんが、社外であっても社内であっても、新しい環境に行く度に、この言葉は必ず思い出します。広報という職種は、受け身では成立しません。戦略を描き、関係者を巻き込み、結果を出す。まずは考え、何ができるかを具体にして、とにかく動くことが、成果につながると実感しています。

Q4.国内において広報としてのキャリア形成で悩みとなることは何?

実は3回目の転職を迎えるくらいまで、私は自分の「広報キャリア」に自信がありませんでした。「広報って、特別何か資格や特別なスキルがいる仕事ではないし、これまでの10年間で私は何ができるようになったのだろう…」「これって実は誰にでもできる仕事なんじゃないか、私は市場で通用するのか」と。しかし、経験を重ねる中で気づいたのは、広報には確かに“広報ならでは”のスキルがあるということ。 広報という視点を持っているからこそ培われた客観的視点。外的ファクトを鑑みた判断力。瞬時に様々なシナリオを想定する想像力。社会的視点を持ち合わせたうえでの危機管理対応。短時間で重要な議論を収めるための会話力・コミュニケーション能力。これらのスキルは、もしかしたら誰もが持っているスキルではないのかも、過去の経験があったからこそ、今の自分ができることにつながっているのかも、とここ数年でようやく考えられるようになりました。

「広報は専門職」とおっしゃっている同業の方がいらっしゃいますが、ようやく自分もそう思えるようになり、それなりに自分のキャリアを語れるようになってきました。が、そこまでは迷いや悩みもずっとありましたので、似た思いをされる広報担当の方は多いのではないかなと思います。ただ、今悩んでいる方も、続けることで見えてくる景色も絶対にあると思うので、ぜひ諦めずに頑張ってほしいです。

Q5.広報職の経験を活かして、今後チャレンジしたいことは?

私がこの仕事で最も大切にしているのは、「自ら、考え、動く」、そしてもう一つ、「コミュニケーションをデザインする」という視点です。単に独りよがりな情報を発信するのではなく、誰に、どのように、どんなタイミングで、どのように届けるかを設計する。受け取る側の想いにも寄り添い、想像力を働かせる。コミュニケーションが立体的になり、「より伝わる」にはどうすればよいかを常に考える。これが、広報の仕事でとても大切なことだと考えています。

これからは、よく言われる「広報の定常業務」の枠を超えて、社内外により大きな影響力を作れるコミュニケーション業務のエキスパートになりたいと考えています。例えば、社会課題に対する企業の姿勢を可視化し、共感を生むストーリーを発信すること。あるいは、社内外の声を経営に届ける“広聴”の仕組みを強化し、経営にも積極的に関わる広報活動をしていくこと。そんなことを考えています。

また、どこかのタイミングで、グローバル業務にも再度チャレンジしたいです。今は二人の幼い娘を育てており、なかなか時差対応や出張も思い通りに対応できない自分にもどかしい思いもありますが、ゆくゆくは日本発信のグローバル業務にも積極的に関わっていきたいです。

広報は、企業の未来をつくる仕事。そして、正解もない。だからこそ、変化を恐れず、「自ら、考え、動く」ことを信念に、「コミュニケーションをデザインする」力で、これからも前に進んでいきたいと思います。

【次の担当者は?】

アドビで執行役員・広報本部長を務めていらっしゃる鈴木正義さんをご紹介します。広報関連の書籍を執筆されたり、ウェブでコラムを連載されたりと、業界では有名人(!)なので、ご存じの方も多いかもしれません。

鈴木さんは、日本企業と外資系企業の両方で活躍されてきた、ちょっと珍しいキャリアの持ち主。広報の現場で培われた経験も豊富で、まさに百戦錬磨という印象です。

私自身、数年前にある会合でご一緒して以来、何度か学びの機会をいただいていますが、毎回とても刺激的で、気づきの多い時間を過ごさせてもらっています。今回は、皆さんにも何かヒントや参考になることがあればと思い、ご紹介させていただきました。

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