カラー化AIを開発・活用するNHK アーカイブス部の考える展望とリスクとは?

現在、NHKでは知財センターアーカイブス部が中心となり、AIを用いた白黒映像のカラー化システムを開発し活用を推進している。

近年、AIの使用とリスクについては様々な見識が飛び交っているが、アーカイブス部の考える「カラー化AI」の有用性とリスクとは何なのだろうか。同局で長年デジタルリマスターなどの映像修復業務に携わってきた霜山文雄氏に聞いた。

写真 人物 霜山文雄氏。NHKアーカイブス(埼玉・川口)にて。

霜山文雄氏。NHKアーカイブス(埼玉・川口)にて。

NHK独自で開発したカラー化AI「FUGA」

現在NHKでは、放送技術研究所が開発したカラー化AI「FUGA(フーガ)」を導入し、所有する大量の白黒映像のカラー化を推進している。

「FUGA」の操作手順は至ってシンプル。まず、白黒映像のデータを読み込ませると1フレームごとの静止画に変換され、お試しとして自動で色付けを行ってくれる。

その後、人の手で修正指示を出していくが、特徴的なのは、1フレーム分の修正作業が完了すれば、残りのフレームはそれを参考に自動で色付けを行ってくれる点だ。これにより、作業時間の大幅な短縮が可能になった。NHKが所有する番組や映像を学習素材として使用しているため時間軸の把握能力が高く、ズームイン・アウトのようなカメラワークにも対応できるという。

イメージ カラー化作業の様子。AIが自動で色付けをしたフレーム(画面左)を見ながら、白黒映像(画面右)に服や人間の肌など、色指定をしたポイントを打ち込んで修正を加える。

カラー化作業の様子。AIが自動で色付けをしたフレーム(画面左)を見ながら、白黒映像(画面右)に服や人間の肌など、色指定をしたポイントを打ち込んで修正を加える。

便利な一方で、色付け後の人間による作業が重要となる。「下絵をAIに塗ってもらい、その後は人間が簡単に修正・管理できるシステムにしています。というのも、わずか1色でも間違いがあると、映像を使用した番組全体の信憑性を下げてしまう恐れがあるからです」(霜山氏)。

それゆえ、AIによる色付け後の「色考証」は、専門家に依頼して入念に行う。例えば、大河ドラマをカラー化する際は、着物の着色に誤りがないかどうか、時代劇衣装の第一人者に実際にカラー化編集室に来てもらって映像を確認してもらい、色の微妙なニュアンスの指示を受けて人間が手動で修正を重ねた。

写真 色考証用に届く大量の資料。建物の色合いなどは、当時販売された絵葉書などを参照する。

色考証用に届く大量の資料。建物の色合いなどは、当時販売された絵葉書などを参照する。

また、現在「ORIGIN」や「FUGA」などのカラー化用のAIは21の放送局に導入されているが、どの放送局も一般的なスペックのPCで作業できる環境にしている点も大きなポイントだ。

「放送局の規模に関係なく効率的にカラー化を進めていくには、機材の値段も低価格にする必要があると考えました。共通のクラウドなども存在しないので、各PCがスタンドアローンで稼働できるようになっています」(霜山氏)。

写真 「FUGA」を導入しているPC。一般的なPCで作業できるようにシステムを整えた。

「FUGA」を導入しているPC。一般的なPCで作業できるようにシステムを整えた。

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