総合出版社である講談社でも2015年から「出版の再発明」を旗印に掲げ、“版をデータと置き換えてパブリッシュする”という出版社の営みは紙に限るものではないという方針のもと、広告事業においては2022年にはデジタル広告の売上げ比率が7割に達するなど、デジタルシフトを強化してきた。
しかし広告のデジタルシフトや純広告からタイアップコンテンツへのシフトだけでは、出版を取り巻く厳しい環境を打破するのは難しい。講談社では、コンテンツをつくる力で企業の課題を解決する、マーケティングソリューション提供企業への展望を目指し、新しい取り組みを模索しているという。講談社 ライツ・メディアビジネス本部 副本部長の佐藤栄氏に「出版の再発明」の先にある、「メディアビジネスの再発明」として2026年見据える、ビジョンを聞いた。
講談社 ライツ・メディアビジネス本部
副本部長 佐藤栄氏
出版社ならではの読者のファンダムを資源として活かした事業開発
――講談社ライツ・メディアビジネス本部のビジネス概況についてお聞かせください。
2026年2月に当社の2025年度の決算が発表になりました。全体としては減収増益で、メディア広告事業は、美容メディアの「VOCE」が好調だったが、他は横ばいという状況でした。こうした環境を踏まえ、昨年12月に編集長経験者などが集う「ラボ」を新たな事業開発組織として2部署組成しました。
『現代ビジネス』などのビジネス系メディアやジャーナリズム系週刊誌などを擁する第一事業本部の「イノベーションラボ」、女性系メディアを擁する第二事業本部の「エンパワーメントラボ」という組織で、読者ファンダムという出版社だからこその資源を活かした、「販売」「広告」にとどまらない新たなマネタイズ手段を開発することを目的にしています。
当社で言えば、コミックなどのIPは「販売」「広告」以外の多様かつ太いマネタイズ方法がすでに確立していますが、前述の第一事業本部、第二事業本部のメディアブランドにおいては、まだその開拓が十分には行われていなかった。このラボから新しいメディアが誕生することもあれば、クライアント向け、読者向け問わずプロダクトやサービスが生まれてくる可能性があります。
ただ、最終的にラボがゴールとするのは読者満足の追求であり、いかに読者の皆さんの満足を高めて、LTVを高められるか、です。また、ラボと私どもライツ・メディアビジネス本部のメンバーが連携して、ときにクライアント企業へご提案に行くことになります。
既存のビジネスとは別のアプローチを開拓する際に、ラボを立ち上げるのは効果的だと思います。編集部(事業本部)のラボのスタートは2025年の12月からですが、メディアビジネス部門には、2022年からスタートしている「講談社メディア・コミュニティ・ラボ(略称MCL)」があり、多くの成果を上げています。出版社は「広告掲載枠の提供」から、「マーケティングパートナー」へと変革を遂げるべきである、という考えのもと、自社メディアのゼロパーティデータである読者データを活用し、調査・分析から企画提案までをトータルサポートできる体制として整えたのが、MCLでした。
出版社ならではの資源を活かし、マーケティングはもとより商品開発など、企業活動を支援する多様なサービスを提供する「MCL」。
講談社発、ビジネス系動画メディアを3月にローンチ
実は、すでに事業本部のラボ発で新しいビジネス系動画メディアのローンチを計画しています。3月からソフトローンチして、チューニングしながら本格稼働は半年後くらいを予定しています。当社にとっては、2015年に創刊した「mi-mollet」、「FORZA STYLE」以来の久しぶりの新メディアになります。
ビジネスパーソン向けの骨太なビジネスコンテンツはもちろんのこと、講談社が得意とする教養コンテンツを重視。「クーリエ・ジャポン」などのメディア資産も活かして、知的好奇心の高いビジネスパーソンへ、中長期でのスキルアップ、キャリアアップを支援するようなメディアを目指します。
出版社ならではの読者のファンダムを資源として活かした事業開発
――昨今は、購買行動に与えるUGCの影響がますます強まっています。特にAIの浸透で誰もがクリエイターとなれる時代、UGCは爆発的に増えていますが、この環境でPGCの主体ともいうべき出版社発のコンテンツが果たせる役割をどう考えますか。
ある大手化粧会社の方が、ヒットした商品のマーケティングプラン(パーセプションフロー)を公開されていたのですが、それを見ると、従来はマーケティングファネルの入り口にあたる、口コミ醸成の役割も担っていた美容系メディアが、購買の直前の推奨の役割に配置されていました。主にSNS上のUGCが商品認知においては重要な役割を担うかもしれませんが、それだけで購買には至らず、出版社発のコンテンツのようなPGCが後押しをしているのではないか、と考えます。
2023年から不定期で美容メディアの「VOCE」が読者を中心とした大規模な調査を実施。調査から見えてきた”美容好きさん”の実態を解説した「VOCE美容白書」を発表しています。まもなく、この白書の最新版を発表する予定です。今回の調査テーマは「コスメ購買行動」で、このレポートを見ると、購買直前だけでなくコスメの購買に至る各ファネルのプロセスで、認知獲得に加えて「信頼性の担保」という雑誌メディアのアドバンテージが見えてきました。
2023年に発表された「VOCE美容白書」。第2弾が2026年春に発表の予定だ。
私たちが今期掲げるスローガンは「メディア会社から、コンテンツマーケティングのパートナーへ」です。そのためには「広告枠」の提供にとどまらず、コンテンツをつくる力を活かして、フルファネルでのコンテンツマーケティングの総合的な支援を目指しています。コスメに限らず、MCLのゼロパーティデータ、デジタル広告配信プラットフォーム「OTAKAD」の1stパーティデータなどを活用しながら、多様な趣味嗜好やライフスタイルに対応できるコンテンツマーケティングのソリューションを提案していきたいと考えています。
また、ここで言うコンテンツマーケティングとは、私たちがすでにファンを抱えているSNSの公式アカウントへ積極的に発信していくことも含まれます。2025年10月にソーシャルメディアマーケティング事業を展開するサイバー・バズと講談社ViVi事業部が共同で、ViVi公式SNSの妹メディア「MYPE」(マイプ)を立ちあげました。
「NET ViVi」編集長 の平本哲也は、ViViのSNSフォロワーを828万(2025年9月現在)にまで増やしてきましたが「バズのその先」に行くことが必要と話しています。具体的には、「コンテンツを作ってただバズを起こせればいいわけではなく、若者との深い共感や信頼性、メッセージ性を持つブランドにならないとメディアとして厳しくなる」という考えをもって、「MYPE」という新しい挑戦を始めています。ある意味で原点回帰というか、出版社らしい発想だと思います。
出版広告のベストプラクティスを発信していきたい
――講談社では例年、10月に「講談社メディアカンファレンス」を開催し、その中で優れた広告企画を顕彰する「講談社メディアアワード」の贈賞式を行います。今年もまた10月に2026年度のメディアアワードの受賞企画が発表になります。
アワードの受賞企画を通じて、出版社が持つ資源をどんな場面で活用できるのか、より多くの企業の方たちに知っていただければと考えています。メディアアワードを介して、ベストプラクティスを発信することで、出版業界自体の活性化に貢献できればと考えています。
出版社が提供するコンテンツマーケティングには、ユーザーへ認知のアクセルをかけるというよりも、スローな認知を促す制動力があると思います。
最近の受賞企画を見ると、短期的な売上貢献を目指すものだけでなく、中長期かつゆるやかに生活者とブランドの関係づくりを目指す、コーポレート・コミュニケーション的な企画も増えています。これからもマーケティングだけにとどまらない、出版広告の活用可能性を提示できるようなアワードにしていきたいと考えています。

講談社「メディアカンファレンス」の2025年の受賞企画。セールス寄りのマーケティング施策から中長期のブランド構築を目的としたコーポレート・コミュニケーション施策まで多岐にわたる企画が受賞をした。
2025年の講談社メディアカンファレンスの贈賞式の様子。
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