相手に響かない「AI資料作成」の罠。プレゼンのプロが教えるAIに代替できない3つの営業力

あらゆる業務がAIに代替される中、AIで効率化を図ったつもりが反対に非効率に陥っている企業も少なくない。プレゼン資料作成の第一線で活躍する株式会社固の前田鎌利氏は「AIだろうと人力だろうと、相手が動かない資料では意味がない」と本質を語る。

AI活用が当たり前になりつつある2026年、資料作成や営業活動の現場では何が変わり、何が変わっていないのか。実際に複数の企業のプレゼン支援をしてきた前田氏の経験から、AI活用における資料作成の課題と、どのようにAIと向き合うべきかを探った。

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前田鎌利

株式会社 固 代表取締役
プレゼンテーションクリエイター/書家/アーティスト

1973年福井県生まれ。東京学芸大学卒業後、阪神・淡路の震災を機に通信業界において17年にわたり従事。2010年に孫正義社長(現会長)の後継者育成機関であるソフトバンクアカデミア第1期生に選考され孫社長のプレゼン資料企画・作成・演出などを手掛ける。ソフトバンクグループ会社社外取締役や、社内認定講師として活躍後、2013年に独立。年間200を超える企業にて講演・研修・コンサルティング等を行う。著書は累計45万部を超える。

「AI慣れ」がアウトプットの価値を下げる

AIの普及がもたらす課題の1つとして、前田氏は「慣れ」による感動の鈍化を指摘する。

「AIが出たばかりの頃は、“こんなに簡単にアウトプットが完成する”、“かっこいい” と感動していたかと思います。しかし次第に、ああAIで作ったのね、という感想に変わっていく。感情が動きづらくなってきているんです」

これは決してAI特有の現象ではない。前田氏は、手書きの手紙とパソコンで打ち、印刷した手紙を例に挙げ、手書きに感動するのは「そこにかけた手間暇が透けて見えるから」と説明する。この手間暇が伝わる表現こそが人の心を動かす。AIが量産するアウトプットが平準化するほど、逆に手間暇の見えるものが際立つ時代が来るという逆説的な構造だ。

前田氏が強調するのは、AI登場の前後で資料作成の本質的な基準はまったく変わっていないという点だ。結論、「相手を動かすことができるかどうかに尽きる」のだ。手で作ろうとAIが作ろうと、相手の行動を引き出せなければ「いい資料」とは言えない。この基準はシンプルだが、だからこそ難しい。

AIはあくまで「ツールとして使う」という姿勢が前田氏の根本にある。AIが作るものは「参考」であり、そのまま使うことは想定していない。特に社外向けのプレゼンでは、クライアントが多岐にわたり変数が多いため、フォーマット一本では対応しきれない。しかし一方で、社内向けの資料については、決裁通過が目的でフォーマットが固定されている場合が多いため、AIでの資料作成が比較的有効だとも指摘する。

一次情報なしのAI活用は「ポスティング」と同じ

前田氏が特に強く警鐘を鳴らすのが、ターゲットを不明確なまま行う営業活動の危険性だ。具体的には、コミュニケーションを取らずAIだけで営業メールや資料を作ることを指す。

「例えば、何のコミュニケーションも取っていないのに、御社のホームページを見ましたという内容が来られても刺さらない。もっとひどいと、先月自社サイトを更新したばかりなのに、しばらく更新されていませんがどうですか?という営業が来ることも」。

これを前田氏は「ポスティング現象」と呼ぶ。会社のポストに投函されたチラシがなかなか見られないのと同じ構造で、AIで作ったメールや資料を一次情報なしに送り付けることは、ジャンクなアプローチに過ぎないという。このようなジャンクを作って送っているだけでは、相手には何も届かない。

AIが資料を簡単に量産できるようになったことで、カスタマイズの手間を省こうとする傾向が生まれている。それは相手に「刺さらない」資料を大量生産することにしかならない。効率化と言いつつ、AIで作成した資料をA社にもB社にも持っていきがちになる。しかしターゲットを明確にして、A社にはこれ、B社にはこれというのを作り分ける必要がある。相手の困っていること、ニーズ、シーズを見極めた上で初めて、AIを活用するステップに移るという順番であるべきだ。

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