グループ会社の社名変更を機に、国産養殖サーモン事業のブランド再編を進めるニッスイ。産地名が持っていた情緒的価値をどう引き継ぎ、ナショナルブランドへと育てるのか。そのマーケティング戦略について話を聞いた。
「弓ヶ浜水産」から「ニッスイサーモン」へ——ブランド再編の背景
ニッスイは2026年4月1日付で、グループ会社の「弓ヶ浜水産株式会社」の商号を「株式会社ニッスイサーモン」に変更した。同社は国内サーモン養殖の中核会社で、鳥取県境港市の「境港サーモン」での養殖を皮切りに、新潟県佐渡市の「佐渡サクラマス」、岩手県大槌町の「岩手大槌サーモン」など、生産拠点とブランドの多角化を進めてきた。
この商号変更は、ニッスイグループの長期ビジョン「GOOD FOODS 2030」における養殖事業強化の一環。2030年に国内で年間1万トンの生産体制の実現を目標とし、現在の約4000トン(2025年度水揚げ実績)から大幅な規模拡大を見据えている。
あわせて、同社が生産する国産養殖サーモンを統一ブランド「ニッスイサーモン」として展開を開始。5月27日には東京・青山グランドホールで、イメージキャラクターの俳優・のんさんや料理人の笠原将弘氏を招いた事業説明会兼試食会を開催した。
「希少性のプレミアム」から「日常の信頼」への転換
これまで産地ブランドで展開してきたサーモンをひとつのブランドへ統合するにあたり、ニッスイはどのような戦略を設計したのか。
一般的に産地ブランドは土地固有の風景・文化・希少性との結びつきで価値を形成する。「日本各地の海で育てられることへの国産ならではの安心感や、豊かな自然に育まれたおいしさへの期待感、こうした情緒的価値は産地ブランドが持つ大切な資産です」と担当者は説明する。
しかし、2030年の1万トン体制という巨大な供給規模を目指す中では、特定地域だけの限定性や希少性を前面に出すことは、かえって事業拡大の制約になりかねない。産地を複数拠点に拡大する中で、その強みをそのまま維持することは難しいのが実情だ。
そこで同社が強調するのは、「地域性をなくすのではない」という点である。日本各地の自然環境と共生しながら育てるという姿勢そのものを、ニッスイサーモンのブランド価値として再定義していくという。