企業に対し、温室効果ガス(GHG)排出量などのサステナビリティ情報開示を求める動きが強まっている。対象となるのは主に大規模な上場企業だが、影響は取引先にも及ぶ。企業がサプライチェーン全体の排出量を把握しようとすれば、イベントや展示会、販促活動を委託する会社にも、案件ごとのCO2排出量や算定根拠を求める場面が出てくる。
CO2排出量の開示が求められるようになるイベント(イメージ)
そこで現場を悩ませるのが、「イベントのCO2排出量をどう測るのか」という問題だ。イベントは、会場施工、電力使用、資材調達、輸送、廃棄など、排出量に関わる要素が多い。算定方法が各社で異なれば、同じようなイベントでも結果に差が出てしまう。その課題を解決するために開発されているのが「カーボンカリキュレーター」だ。
日本イベント産業振興協会(JACE)は5月28日、イベント活動プロセスにおける業界標準カーボンカリキュレーター「EVENT CARBON SIMULATOR」の主要機能開発を完了したと発表した。イベントで発生するCO2排出量を算定するためのデジタルツールで、会場施工、電力使用、資材、輸送、廃棄などに関するデータを入力し、業界共通のルールに基づいて排出量を算出する。
JACEは、展示会や見本市、会議、文化・スポーツイベント、販促イベントなど、幅広いイベント産業の振興を目的とする業界団体。同ツールは、JACEと加盟する開発パートナー企業が2025年6月から開発を進めてきた。
JACE加盟15社による運用ワーキンググループを設立し、将来的な一般公開に向けた試験運用を4月から開始している。
企画、制作、本番、終了後までのイベント活動プロセスを横断的に捉え、GHG排出量を算定する。サステナビリティ開示への対応が企業の経営課題となる中、イベント業界として共通の算定ルールを整備する狙いがある。
サステナビリティ開示、取引先にも波及
今回の試験運用の背景にあるのは、サステナビリティ情報開示をめぐる制度整備の進展だ。GHG排出量は、気候変動が企業の将来の収益やコスト、資金調達、レピュテーション、規制対応に影響することから、投資家などが企業を評価するうえで重要な情報となっている。
GHG排出量の把握・報告は、これまでも一定規模以上の事業者に対して、地球温暖化対策推進法に基づき求められてきた。ただし、これは主に国への報告制度であり、投資家が企業価値を判断するためのサステナビリティ情報開示とは性質が異なる。
サステナビリティ情報開示をめぐっては、国内でも制度整備が進んでおり、日本の資本市場で用いられるサステナビリティ開示基準を開発するサステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、2025年3月、日本で適用されるサステナビリティ開示基準を公表した。
金融庁の金融審議会では、このSSBJ基準を有価証券報告書での開示に適用するための議論が進んでいる。プライム市場上場企業を対象に、株式時価総額の規模に応じて段階的に義務付ける方向のロードマップが示されており、時価総額3兆円以上の企業は2027年3月期、3兆円未満1兆円以上の企業は2028年3月期からの適用開始を基本とする。1兆円未満5000億円以上の企業については、2029年3月期からの適用開始を基本としつつ、国内外の動向を踏まえて引き続き検討するとされている。
SSBJ基準に基づく開示では、自社が直接排出する「スコープ1」、購入電力などに伴う「スコープ2」に加え、取引先や委託先を含むサプライチェーン上の排出である「スコープ3」もGHG排出量の重要な開示項目となる。そのため、開示対象となる企業は、自社内の排出量だけでなく、イベントや展示会、販促活動などを委託する先に関わる排出量も把握する必要が出てくる。
義務化後は、有価証券報告書に必要な情報を記載しない、または重要な情報を誤って記載した場合、金融商品取引法上の開示規制違反となる可能性がある。企業にとっては、罰則対応にとどまらず、投資家や取引先に対して気候変動リスクへの対応を説明する意味合いも大きい。
JACEの運用ワーキンググループは、今後スコープ3の義務化がどのように進むかは分からないとしつつ、外資系クライアントを中心に、イベントにおけるCO2排出量の計測やカーボンオフセットを希望するクライアントが年々増えていると説明する。今後、イベント業界でもGHG排出量計測の実施が一般化する可能性が高いとみている。
