前回は、心を動かすコピーの「書き方」をお話ししました。けれど、コピーを学ぶ意味は、賞をとるためだけではありません。今日は、「言葉を持つことは、生きることにどう効くのか」という話をさせてください。
AIが、なんでも書いてくれる時代に
文章を書くのが、ずいぶん楽になりました。お願いすれば、AIが平均的に上手な言葉を、一瞬で並べてくれます。とても便利です。けれど、AIにできないことがあります。それは「あなたが、何を感じたか」を決めること。
「AIは、私の志望校を笑わない。」(第62回・グランプリ/ベネッセコーポレーション)を書いたのは、AIではなく、ひとりの中学生でした。AIという題材すら、自分の心の機微を起点にしてはじめて、あんな一行になる。
何を問いに選ぶか、どこに光を当てるか。それを決めるのは、最後まで人間の仕事です。だからこそ、自分で考え、自分の言葉にする力が、これからいよいよ価値を持つのだと思います。
自分の言葉は、自分の輪郭
コピーを書くとは、突きつめると「自分が何を大事にしているか」を決める作業です。
中高生部門には、協賛企業の課題とは別に、「特別課題」というものがあります。商品ではなく、事務局が出す「テーマ」に答える課題です。
たとえば第60回の特別課題Aのお題は、「悩みを抱えたとき、身近な人に相談したくなるキャッチフレーズ」でした。そこへ寄せられた一行が、「下じゃなくて、横を見て」(第60回・ゴールド/特別課題A)。
つらいとき、落ち込んでしまう自分もいるけれど、すぐ隣にいる人を見てごらん、と。どこを見て、誰と比べ、何を励みにするのか。それを自分で選んだ瞬間、言葉は、生き方の軸になります。世間の正解をなぞるのをやめて「私はこう思う」と一行にする。その積み重ねが、ほかの誰でもない自分の輪郭を、すこしずつ描いていくのです。
言葉は、勇気であり、お守り
私は、誰かを言い負かすためではなく、誰かに手を伸ばすために、言葉はあると思っています。言葉には、二つの顔があります。一歩を踏み出させてくれる「勇気」と、自分を内側から支える「お守り」。
「座りたい席が、どんどん前になる。」(第54回・シルバー/河合塾)。
前のめりになっていく自分を、こんなふうに肯定できたら、きっと強い。うまくいかない日、落ち込んだ夜に、自分でつくった一行が、自分をもう一度立たせてくれることがあります。自信とは文字どおり、自分を信じること。書いたコピーは、静かに支えてくれます。
書く力は、コピーライターだけのものじゃない
最後に伝えたいのは、この力は仕事を選ばない、ということです。
「私を変えたあの記事は、今でも壁に貼ってある。」(第55回・ブロンズ/読売中高生新聞)。たった一行が、誰かの人生を変え、壁に貼られ、何年も支えになる。あなたが本気で書いた言葉も、いつか誰かの壁に貼られるかもしれません。
コピーライターになるかどうかは関係ありません。自分の感じたことを、自分の言葉にできる人は、どんな時代の荒波も、自分の足で渡っていけます。
書くことは、光を当てること。変化のスピードが上がるほど、暗く見える場所も増えていく。そんな時代に、どこを照らすかを自分で選べる人は、強い。怖くても、本音のほうへ手を伸ばしてみてください。その一行は、これからの時代を生きていくあなた自身を、きっと支えてくれます。
