『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。今回は、ウィルズの伊藤博人さんが『デザインをつくる イメージをつくる ブランドをつくる』(工藤青石著)を紹介します。
『デザインをつくる イメージをつくる ブランドをつくる』は、デザイナーとして日々の仕事の中で感じながらも、うまく言葉にできなかった「もやもや」を言語化してくれる一冊である。私は企業の統合報告書の制作に20年以上携わってきたグラフィックデザイナーであるが、本書を読み、「本当のデザイン」とは何かを改めて問い直すことになった。
『デザインをつくる イメージをつくる ブランドをつくる』(工藤青石著)定価:2,200円+税
著者・工藤青石氏のデザイン観は、資生堂での長い経験を通じて培われたものである。社会人として最初期に出会った、資生堂初代社長・福原信三氏の「商品をしてすべてを語らしめよ」という言葉を、著者は常に仕事の中心に置いてきたという。外側から説明や装飾を加えるのではなく、商品そのものに思想や機能、美しさを宿らせる。この考え方が、本書を貫く厳しいデザイン観の原点にあるように思う。
特に心に残ったのは、既存のものを模倣したり、アレンジしたりする行為は、デザインではなく「スタイリング」であるという指摘だ。現代では膨大な量の物事がつくり出され、その多くは短い開発期間や合理的な予算を優先する。そこで求められるのは、時間をかけて新しい価値を生み出す「本当のデザイン」ではなく、条件に応える「スタイリング」である。その基準で自分の仕事を振り返ると、私も「スタイリング」によって多くの仕事をこなしてきたのではないかと感じざるを得ない。求められた品質と期限に応える一方で、対象の本質を捉え、新しい価値や意味をつくれていたのだろうか。本書は、そのことを否応なしに問いただす。
ただし、著者は「スタイリング」を全面的に否定してはいない。その源には「本当のデザイン」があり、その価値を受け継ぐ限り、「スタイリング」も人に一定の豊かさをもたらす。大切なのは両者を単純な善悪で分けることではなく、つくる側と受け取る側が、物事との関係に何を求めるかである。問われているのは、「スタイリング」をしてきたこと自体ではなく、その仕事で何を目指し、何を届けようとしていたのかである。
本書は、「デザインをつくる」に始まり、イメージ、言葉、商品、ビジュアル、空間、環境、そしてブランドへと展開される。これは単に対象を並べたものではない。デザインの思想がさまざまな表現として具体化され、それらを生み続ける環境が整えられ、イメージの積み重ねによってブランドが造られていく。著者は、デザインとイメージには、0から1を生み出す「創る」が、ブランドには、イメージを一つひとつ積み重ね、時間をかけて世界観を形成する「造る」という漢字が当てはまるという。
「本当のデザイン」がもたらす豊かさは、金銭的・物質的なものに限らない。一日の長さを変えることはできなくても、デザインによって時間の質を高めることはできる。自分は何をつくり、受け取る人にどのような豊かさを届けたいのか。本書は、自分の仕事にその問いを投げかけるとともに、「デザイン」という概念の奥深さと広さを改めて思い知らせてくれる一冊である。

『デザインをつくる イメージをつくる ブランドをつくる』
(工藤青石著/定価:2,200円+税)
「SHISEIDO MEN」「オイデルミン」など資生堂で化粧品ブランドを数多く手がけ、現在人気化粧品ブランド「イプサ」のクリエイティブディレクターを務める著者・工藤青石が、初めて書き下ろした書籍。これまで手がけてきた数々の仕事におけるにおけるデザインやクリエイティブのディレクションの考え方、そして制作のプロセスを公開。実例を見せながら、自身の経験と知見、そして美に対する独自の視点からひもときます。
