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コラム

「経営のとなりにあるデザイン」〜デザイナーに何をさせるべきか〜

「一番搾りフローズン<生>」制作秘話――(2)「体験開発」編

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さて前回から3回にわたり、2011年にスタートした「一番搾りフローズン<生>」のブランディングから「一番搾りフローズンガーデン」開店までのお話を書いています。

今回はその2回目です。全国6都市で展開し、37万人を動員した「一番搾りフローズンガーデン」ですが、この店舗で目指したのは、単なる「一番搾りフローズン<生>」の試飲会場ではなく、これまでになかった「ビール体験の創造」です。そこで重要となったのが、実際に空間デザインを始める前段階、「どのような体験を作るか」、その設計でした。

「一番搾りフローズン<生>」が目指した新しいビール文脈の創造とは、スタバが創った新しいコーヒー文脈のような概念です。「一番搾りフローズンガーデン」には、今までにないビールとビール体験があり、若者層に「ここは、自分たちに向けたビアガーデンだ」と感じてもらい、彼らの“お気に入り”にブックマークしてもらう必要があります。

では、通常のビアガーデンはどのような体験になっているでしょうか。例えば3人で飲みに行ったとします。お店に入店し、スタッフに「3人です」と言って、席に通されます。続いてスタッフを呼び、「ビールを3つください」と注文し、ジョッキに入ったビールが出てきます。料理や追加注文をする時は、再度スタッフを呼び、退店時には「お会計をお願いします」と再度スタッフを呼んで会計を済ませ、店を出て行きます。

このようにビアガーデンに限らず、一般的な飲食店ではお客様はスタッフのオペレーション管理下に置かれます。「スタッフがお客様のもとに行き、用件を伺う」というスタイルは、サービス業では当たり前のことかもしれませんが、それが真にお客様が求めるサビスで、顧客満足に直結することなのかは、業態によるのではないでしょうか。

例えば、スタバのオペレーションは、先にコーヒーやフードの会計を済ませ、その後は、どこの席に座るかも、いつ店を出るかも自由です。こうしたセルフオペレ−ションは、単にスタッフの人件費を抑えるためだけではなく、お客様が「気軽な状態」でいられることを目的としたホスピタリティの現れとも言えます。

「一番搾りフローズンガーデン」には、そんな気軽な時間な楽しみ方を持ち込みたいと思いました。若年層にとっては、気軽であることがサービスの低下ではなく、むしろ楽しい方向へと向かうのではないか。そう考え、店に入って最初に注文と会計を済ませ、どこに座るのも自由、持ち帰るのも自由という、ビールを楽しむ行為をお客様の自由にしてしまうオペレーションを取り入れることにしました。

そこでビールの提供も、ガラスのジョッキではなく、プラカップにしました。しかもこのプラカップにはトラベラーリッドが付いていて、持ち歩くこともできます。持ち歩いても「一番搾りフローズン<生>」なら、泡のフタで30分冷たさがキープできるので、このブランドならではの体験に繋がります。フードのメニューも、テイクアウトを前提としたメニュー開発をしました。ワンハンドで食べられるピンチョス系メニューを中心に、ナイフやフォークもテイクアウト可能な木製にしました。

そしてビールのオーダーをすると、元気なスタッフがお客様の目の前で「一番搾りフローズン<生>」を作ってくれます。トレーに載ったビールを受けとると、店内のどこに座っても自由です。椅子は個別ではなくベンチになっているので、人数制限はありません。仲間同士詰めて座れば大人数で座れます。


お客様が店舗側のオペレーション管理下に置かれないサービススタイルで、「気楽に楽しめる」体験の場を創った。

そして店内は全席禁煙。ビアガーデンの全席禁煙化は、理想と収支の狭間で大きな議論になりましたが、若者や女性のための新しいビール文脈を生み出すために、実行しました。結果、「一番搾りフローズンガーデン」の来場者は全国で37万人にのぼり、かつ6割が女性という、従来とは異なるビールシーンが創出されました。

店舗の業態は決まりました。次回は、3回目「空間デザイン」についてお話しします。