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コラム

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【前回の記事】「近くて遠い、1メートル。」はこちら


夏目和彦

アイ・エム・ジェイ/ディレクター/プランナー
愛知県新城市生まれ。2006年IMJ入社。デジタルマーケティングにおけるプランニングやディレクションを領域としながら、サービスデザインやプロモーション設計まで幅広く活動中。こう見えて1児のパパ。HCD-Net認定人間中心設計専門家。2014年度グッドデザイン賞「未来づくりデザイン賞」受賞など。


こんにちは、IMJの夏目です。
このコラムをきっかけに、知人・友人から「タクシー芸人」と呼ばれるようになり、なんとなく「タクシー通」と思われている昨今ですが、私がタクシーに携わったのはコラムでご紹介している三和交通さんとのプロジェクトだけなのです。なので、実はそんなに詳しくないのです。ごめんなさい。
さてさて、今回でコラムも4回目になりました。

横浜のタクシー会社、三和交通さんの魅力を発信するための新しいサービスを考えていく中で、

・乗客はみんな急いでいると思っている運転手
・実は急いでいないけど運転手に何も言わない乗客

この両者のすれ違いを解消するサービスができれば、「人に優しいタクシー」という三和交通さんの強みが伝えられるのではないか?と考えたのが、前回までのあらすじです。

そこで私たちが考えた課題解決のアイデアが「ボタンを押すとゆっくり走るタクシー」です。

なぜボタン?アナログアイデアに決めた4つのポイント

解決すべき課題に対して、施策のアイデアは何十個もでてきました。最終的にその中から「ゆっくり運転ボタン」という装置を設置するアイデアが採用されました。

・・・「ボタン」という言葉でお分かりのとおり、超アナログです。

  1. 乗客が後部座席裏に設置されたボタンを押す
  2. 内蔵スピーカーから音が鳴り、運転手に通知される
  3. フロントガラスに設置されたゆっくり運転パネルが掲示される
  4. 運転手がいつもよりゆっくり丁寧に運転する

大事なのは「4.」です。ボタンを車両の回路と繋げてエンジンの回転数をコントロールするのではなく、運転手さんが持ち前のテクニックで運転をコントロールするのです。

なぜこの超アナログのアイデアを採用したのか?そこには、大きく4つの観点があります。

1 わかりやすさ

ボタンって、見るとつい押したくなりますよね?
ボタンを押すと何かが起きる、もしくは状態が変化する、というのは、現代に生きる人にとっては共通の認識として理解されていると思います。そういった概念を認知心理学やデザインの分野では「アフォーダンス」と呼んだりします。今回はボタンにカメ(亀)の絵を描いて、その上に「ゆっくり」と大きく記載することにしました。

2 伝わりやすさ

今回のプロジェクトで重要なのは、乗車した方に三和交通さんのことを好きになってもらうだけではありません。タクシーに乗っていない人にも三和交通さんの魅力を知ってもらうことも、非常に重要なミッションです。
そのために必要なのは『一言で伝えられること』です。
施策を聞いた瞬間に、誰もがストーリーテラーになれる。それくらいシンプルで伝えやすい施策だと、ツイッターにも書きやすいですし、情報番組で取り上げられた時、番組表に並んでいる様子もイメージできます。

3 議論のしやすさ

USBメモリーの生みの親 濱口秀司氏は、イノベーションの要件として3つのポイントを挙げていました。

「見たこと、聞いたことがない」「実行可能である」「議論を生む」

タクシーの新しい価値を提案する今回の取り組みにおいて、この価値観に共感する人を増やすためには、「いやいや、タクシーは急いで乗るものだろ」「ゆっくり走られると邪魔じゃないか」といったネガティブな意見なんて恐れず、議論を生み出すことが有効だと考えました。
むしろ「ゆっくり走るタクシー」というアイデアを考えた時点で、それを期待していました。

なぜなら、賛成反対に分かれた議論が行われることは、クチコミやメディア露出を促進できるばかりではなく、「ゆっくり丁寧に走ることに賛同する一定数の存在」を証明するので、賛成者の共感を強める効果もあるからです。

4 普及しやすさ

現実的な話ですが、コストを押さえてできるだけ導入しやすいかです。
三和交通さんのタクシーは、その当時で500台以上あり、将来的には全ての車両でサービスを提供することを目指していました。ボタンではなくタブレット端末を活用したり、乗客の動きをセンシングする装置を置いたりといったアイデアもありましたが、導入しやすさを優先して低コストで実現できる方法を選択しました。

次ページ 「お金をかけない、シンプルな検証方法。」へ続く