【前回コラム】「表面的な味やパッケージは花、手法や風土は種(ゲスト:佐藤祐輔)【中編】」はこちら
今回の登場人物紹介
※本記事は7月28日放送分の内容をダイジェスト収録したものです。
酒づくりの研修では周囲の人からバカにされた
権八:佐藤さんのインタビューを読むと、まずは「磯自慢」を飲んでショックを受けて、「醸し人九平次」に出会って、「あ、これだな」と思ったと。それからのことを聞きたいんですが、すぐに実家の秋田の酒蔵に帰ることにしたんですか。国税庁の施設で勉強したときには、まだ帰ってないですよね。どのように実家の酒蔵を継ぐことになったのでしょうか?
佐藤:結局、1カ月の研修では酒づくりなんて分からないですよね。全く分からなくて、どうしようかなと思ったんですよね。正直、このままこの体験で分かったふりをして酒の記事を書いてメシの種にしようかと思ったんだけど、研修で酒をつくってるときは仕事が忙しくて、授業も参加できなかったから。本当に僕は研修で笑い者だったんですよ。疲れてるから、仕込みのときに蒸し米もったら倒れたりして。
一同:(笑)
佐藤:研修に来ている人たちは蔵元の子息や杜氏さんで。僕は日本酒の当たり前のことも覚えてないわけです。「本当にこいつふざけてるな」と思われていたと思うんです。教科書に出てくる蔵元は3つぐらいしかないんだけど、うちの「新政」というブランドは日本酒の教科書を開くと初めに出てくるんですね。それは6号酵母が一番古い酵母だからなんですけど、つまり業界の人は誰でも知ってるブランドなわけです。
当時は地元中心に安い酒を売っている古豪、戦前に一世を風靡したブランドとして認知されていました。一方で、地酒の先端の世界では、「九平次」「十四代」「飛露喜」「磯自慢」「而今」などが死闘を繰り広げていたんです。「新政」は一昔前の地方ブランドのような感じで、そこから研修に来た奴。授業中に寝てるわ、麹づくりの実習中に勝手に帰るわで、みんなにバカにされてたと思うんですよね。
その中で悔しい気持ちもあったし、もっと知りたい気持ちもあったし、物書きについてはいつでもできるなと思って。
澤本:なるほど。
佐藤:そもそも、クリエイティブな仕事がしたくて物書きになったんだけど、酒づくり自体も「九平次」を見ていると、伝統の中にありながら不易流行、時代に即した表現も許されていて。むしろ、そういうものがないと伝統が続いていかないんだという気持ちが湧いてきて。実家の蔵に帰ろうと思ったんです。東京で研修を1カ月半やって、同級生に迷惑かけて、これからどうしようと思ってたときにそういう決断をしました。
権八:お家に帰ってお父さんとはどういう話をしたんですか?
佐藤:その前にもうちょっと勉強したいと思って広島に行ったんです。広島には滝野川よりももっとごつい独立行政法人酒類総合研究所という施設があって。そこで1カ月勉強して、それから1年ぐらいそこで研究生として日本酒のつくり方や最先端の技術などを国税庁の方からびっしり学んだんです。
本当はそこに2年いる予定だったんだけど、1年ぐらいしたときの正月に実家の蔵に帰って、「もうちょっとしたら蔵に帰るから」と、酒蔵の帳簿を見せてもらったんです。そうしたら大きな赤字が出ていて、え?と。これから酒づくりするために帰るのはいいけど、このままだったら何年ももたない状態で。そのときは絶望的な気持ちになったんですよね。
澤本:そうだったんですね。
佐藤:本当は2年ぐらい広島にいる予定だったんですけど、帳簿を見た瞬間にすぐ帰ろうと思って。僕が1年間広島にいたら億単位の赤字が増えて、危険度が増して、将来的に酒づくりができなくなるかもしれないですから。すぐに帰りますと、荷物をまとめて帰りました。
澤本:そのとき、日本酒はダウントレンドだったんですか?
佐藤:ずっとダウンでした。日本酒全体の売上としては1975年からずっと落ちてます。今でも、45年ぐらい続いています。
澤本:最近は日本酒ブームという印象がありますけど。
佐藤:あれはマスコミが言ってるだけで、全体の数量としては落ちてます。ただ、売上の販売数量は減ってるんですけど、3年前ぐらいから販売額は微増になりました。なぜかというと、安い酒は売れないけど、高い酒が売れるからです。つまり、特定名称酒と言われる純米酒、純米吟醸、純米大吟醸ですね。直接的に牽引してくれたのは「獺祭」です。
澤本:「獺祭」「九平次」の文脈でいうと、フランスに日本酒が行って……というのがありますよね。「新政」も外国の評価が高くて、外国人がたくさん買ってるという話をよく聞きます。
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