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コラム

「恐れながら社長マーケティングの本当の話をします。」ディレクターズカット

『恐れながら社長マーケティングの本当の話をします。』刊行記念/これからの広告エージェンシーはどうあるべきか(前編)

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書籍『恐れながら社長マーケティングの本当の話をします。』(宣伝会議)の刊行を記念し、著者の小霜和也氏と、電通デジタルの代表取締役社長である川上宗一氏による特別対談セミナーを2月14日に開催。マーケティングが経営にとって重要な位置づけとなり、広告主のトップがマーケティング全体を見る「社長マーケティング」の時代へと変化していくなかで、広告エージェンシーはどうあるべきなのか。広告主と広告エージェンシー、双方の視点から語った。

エージェンシーがクライアントより先回りできているか

—川上さんは、電通デジタルの社長に就任される直前に『恐れながら社長マーケティングの本当の話をします。』を読まれたと伺いました、どんな感想を持たれましたか。

川上:小霜さんがマーケティング分野でこんなにも広く深く仕事をされているんだということに衝撃を受けました。本にはその実体験から、エージェンシーやクライアントの課題点を小気味よく書かれていて、ぐいぐい引き込まれましたね。特にエージェンシーとクライアントの距離が離れつつある、と書かれていた部分が印象的で、同時に危機感を持ちました。これをクライアントの社長さんが読めばいろいろなことがクライアントの中で起こるだろうから、その前に電通の後輩に読ませなければと、たくさんの人に勧めた記憶があります。

小霜:僕は今までエージェンシーから仕事を受ける立場でしたが、広告主側としても仕事をするようになり、エージェンシーと広告主を取り巻く環境が立体的に見えるようになりました。すると、エージェンシーのビジネスは問題だらけだということが分かってきたんです。

正直なところ、エージェンシーはビジネスモデルとして終わっていると思うことが多い。クライアントとしてエージェンシーからの請求内容を見ると、これはないだろうと思う額が請求されている。そうしなければ生存できない時点で、相当な無理があるはずなんです。かと言ってその分の価値が提供できているかというと怪しいし、その請求に対してクライアント側もおかしいと思っている。たとえばそういうことを一つとっても、この先大丈夫かなと思ってしまいます。

川上:エージェンシーの立場から言うと、僕はビジネスモデル自体が終わっているとは思いません。実はエージェンシーのモデルはシンプルで、簡単に言えば仕入れ値と売り値の差額が利益。あまりに利益を多く取りすぎれば信頼関係がなくなるし、逆にすごく薄利であれば、広告エージェンシーという業界はやっていけません。だから、クライアントとエージェンシーが二人三脚でお互いに業績をアップできる、その妥当な金額のラインをつくり続けることが大事なのだと思っています。

小霜さんの話をお聞きしていて、今はエージェンシーの付加価値が下がっているから、そこが迷いにつながっているんだという気がしました。

小霜:僕も、優れた仕事をするのであれば、それに見合ったフィーを取っていいと思います。でも、もう全然プロじゃないんですよね。たとえば、WEBCMの編集をしているときに、僕が「Call To Actionをどこに入れるか考えてレイアウトを決めないと」と言うと、「Call To Actionって何ですか」と返ってくるんです。TVCMのついでにWEB、ではなくWEBCM単体の発注でTrueViewの作法も知らずに受けて、とんでもないフィーを取ってたり。そんな有様。

川上:結局エージェンシーの役割って何なのか、下手したらクライアントの方が知識は豊富なんじゃないか、ということですよね。

正直なところ、いろいろなエージェンシーの中で、デジタル化の流れについていけない人は結構いると思います。一言で言えば、勉強不足です。知るべきことを知らないのに仕事を進め、強引に納品して、強引に請求している。エージェンシーとしてフィーをいただいている以上、少なくともその分の勉強をクライアントよりも先回りしてやっている状態でなければ不信につながり、この先辛い思いをするでしょう。TrueViewの話にしても、先に編集室でつくって準備していくのがプロの仕事。それをCMの準備しかしていないというのは、アマチュアの仕事です。

勉強はおそらく、今までのような先輩の背中を見て勉強するというやり方だけではダメなんですよね。というのも、きちんとデジタルマーケティングを理解して進めていける、ロールモデルたる先輩がいなくなっていると思うんです。

小霜:僕はエージェンシー出身の人間なので、先輩の立場としてそれでいいのか君たち!という腹立ちに任せて本を書いたところもあるんです。だから、頑張ってほしいと思っています。

エージェンシーの優位性とは

—最近はコンサル系の会社が広告コミュニケーションの領域に入ってくるなど、広告エージェンシーをとりまく環境も変化しています。そこに危機感はあるのでしょうか。

川上:今のままだとエージェンシーが飲まれるという危機感はあります。デジタルエージェンシーである電通デジタルの場合は、サービスは大きく分けて3つ。一つめはデジタルマーケティング領域で、メディアやクリエイティブ、CRMまで統合して推進します。二つめはそういったデジタルマーケティングを行うためのシステムの導入とデータの利活用、三つめは企業の事業や組織をデジタル時代に合わせて抜本的に変革するデジタルトランスフォーメーションの実施。この3つはすべてつながっています。

デジタルトランスフォーメーションでは、クライアントの事業自体をデジタル化によって進化させます。そのときに当たる競合がコンサルです。コンサルは経営戦略や事業戦略を描くことに長けていますが、我々は出自がマーケティングやメディア、クリエイティブ。正面から当たれば苦戦しますが、ここを本気で掘らなければ、エージェンシーはコンサルに飲み込まれてしまうのではないかと思っています。

ただ、コンサル会社は実際に物を売ったことがない。どうしたら物が売れるのか、その肌感があるプランがつくれるというのはエージェンシーの価値だと思いますね。

小霜:僕は、コンサルがすべての場面で競合に当たるとは思っていません。彼らは現場をやらないし、これからやろうとも思っていない。現場の成果物報酬は収益が低いですからね。コンサルの人と話していると、自分のフィーの低さにしょんぼりすることがあるくらいです。一方でエージェンシーは、川上さんがおっしゃったように、現場をできる強みがきっとあるはずなんです。でも僕は、その現場さえおろそかになっていることを感じているんですよ。

川上:世の中に出る、最後のところが緩んでいるということですよね。TVCMやグラフィック広告など、我々が昔からやっていた物事に対しても、昔ほど集中して強度のあるものがつくれているのかというのはたしかに疑問です。今は、昔のように1本つくれば終わりではなく、クリエイティブを何本も何本もつくって永続性を持たせなければいけない。出口となるデバイスも増えています。勉強不足という話に戻るかもしれないけれど、そこに対して、付いていけていない人が多い。それをどう育成するのかは、大きな課題です。

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