本コラムは、2025年10月に発売した書籍『AIネイティブマーケティング 人、企業、AIの幸せな関係をつくる』に書ききれなかった話題、そして発刊から5カ月経って著者の並河進氏が新たに考えていることを、現在進行形で語ってもらう企画です。「続・AIネイティブマーケティング」として、ぜひ本書とあわせてお読みください。
「AIなんて、まだ実際の仕事では使えないよ」 「いや、AIで十分代用できるじゃないか!」
会議室で、あるいはSNSのタイムラインで、毎日のように繰り返されるこの議論。なぜ、同じAIというテクノロジーを目の前にしながら、人によってこれほどまでに意見が真っ二つに分かれるのでしょうか?
その謎が起きる構造を、僕は「AIドーナッツパラドックス」と名付けました。
私たちは自分自身の「ドーナッツ」を持っている
想像してみてください。私たちのスキルや知識は、一つの「ドーナッツ」のような構造をしています。
• 真ん中の穴(専門領域): あなたがプロとして深い知見を持つ、譲れないこだわりがある領域。
• 外側の円(非専門領域): 「なんとなくわかる」が、プロほどのこだわりや深い知識はない領域。
この「専門性の有無」によって、たとえ同じ能力を持つAIであっても、そのAIに対する評価は面白いほど逆転します。
「非専門」だからこそ、AIが十分に見える
例えば、私はプロのコピーライターでもあります。そんなプロのコピーライターの目線で、AIの書いたキャッチコピーを見ると「言葉の奥行きがない」「文脈を読み違えている」と、まだまだ物足りなさを感じます。ある程度は書けても、最後に手直しは必要。つまり、専門領域(ドーナッツの穴)では、「AIにはまだ無理」と感じます。それは、「要求水準が高い」からです。
一方で、僕は、料理ついては素人。なので、AIの生成したレシピを見ると「こんなレシピができるなんて、もうレシピづくりなんてAIで十分じゃないか!」と感動します。非専門領域(ドーナッツの外側)では、自分の知識をAIが軽々と超えてくるため「AIでできるじゃん!」という評価になるのです。
でも、この料理のレシピをプロの料理人が見たら…。たぶん、足りないところがたくさんあって、「AIにはレシピづくりはまだ無理」となるのです。逆に、プロの料理人にとって、AIによるコピーづくりは、ドーナッツの外側、つまり「AIで十分」と思うかもしれません。
こうした一人一人のドーナッツが重なりあっている状態になるのです。
組織で起きている「いらない対立」の正体
このパラドックスの問題は、一人ひとりの「ドーナッツ」が違う点にあります。
専門領域の人から見た「AIではまだ無理」は、他部署の人間から見れば「AIでできる」に見えてしまいます。会社の中では、多様なスキルを持つ人たちが一緒に働いています。たとえ同じ部署であっても、一人一人専門性は違います。
この認識のズレを理解していないと、「自分の仕事を軽んじられた」という感情的な反発や、「十分AIの性能は高いのに現場は導入に反発している」といった誤解など、組織内の「いらない対立」を生んでしまうのです。
