AI時代、機能ではなく「意味」を消費する社会へ。クリエイターがたどり着く先とは?

かつてカンヌライオンズを席巻した日本のクリエイティブは、iPhoneの登場やテックジャイアントへの人材流出、そしてパンデミックを経て、大きく構造が変化した。さらに近年AIがクリエイティブにおいて存在感を増す中、クリエイターの存在意義はどこにあるのか、またどこを目指すべきか。
 
エクスペリエンスデザインやAI/XRソリューションを提供し、企業課題、社会課題を解決する空間DXカンパニー「ワントゥーテン」を率いる澤邊芳明氏が、これからのクリエイターの価値はどこにあるのかを紐解く。

ちょうど本稿の執筆依頼を受け、原稿を書き始めたそのタイミングで、あるニュースが目に飛び込んできました。

「広告制作業に“倒産ラッシュ” 7割が販売不振、AI対応遅れが命取りに」

その見出しを見た瞬間、私はこう思いました。

「ついに、この時が来たか。」

しかし同時に、少し違和感も覚えました。確かに、生成AIの進化は目覚ましいものがあります。プロンプトひとつで高精度なデザインが数分で生成され、これまで手作業で行っていたレタッチや調整も一瞬で完了する。制作現場の風景は、この数年で劇的に変わりました。しかし、本当にこれは「AI対応の遅れ」が原因なのでしょうか。

私は、実はもっと前から、クリエイティブ産業の構造変化は静かに始まっていたのではないかと感じています。

ウェブ制作の黄金時代

私がウェブサイト制作を生業としてクリエイティブ産業に足を踏み入れたのは1997年。ITバブルの拡大期と重なり、インタラクティブなウェブサイトがもてはやされた時代でした。当時は、ブランドの世界観をウェブでどう表現するかが競われ、日本はカンヌライオンズのサイバー部門で世界を席巻していました。インタラクティブ表現において、日本は間違いなく世界のトップランナーだったと思います。ワントゥーテンもその波に乗り、毎年倍々で収益を伸ばし、業績も絶好調でした。

しかし、その流れを一変させる出来事が起こります。

iPhoneの登場です。

インタラクティブなウェブサイトは急速にその役割を終え、主戦場はアプリへと移行していきました。環境は確実に変わり始めていました。アプリへの移行が進むなか、私たちはウェブに留まらず、VRやプロジェクションマッピングといった新しいテクノロジーへと少しずつ軸足を移していきました。

そうした挑戦の中で、世界の広告代理店との距離も急速に縮まっていきます。社員をジェイ・ウォルター・トンプソンの上海支社とシンガポール支社に出向させ、日本のオグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンでは、私自身がアドバイザリーボードメンバーを務める機会もいただきました。

そして海外のトップクリエイターたちと交流する中で、ある変化に気づきます。エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターたちが、次々とFacebook(現メタ・プラットフォームズ)やTwitter(現エックス・コープ)へ移籍していくのです。仲の良かった友人たちも、1人また1人とテックジャイアントへ転職していきました。日本でも、SNSと連動してバイラルを生む「キャンペーンサイト」と呼ばれるウェブ施策のニーズは急激に縮小していきました。

いよいよウェブサイト制作に別れを告げ、新しい領域に踏み出さなければ会社の未来はない。そう考え、私たちはメディアから空間へと活動領域を広げていきました。

AIは確かに大きな転換点です。しかし、その前からすでに、クリエイティブ産業の地殻変動は始まっていたのです。

「作る」価値はコモディティ化する

生成AIの普及によって、多くの領域でディスラプションが起きることは間違いありません。ストックフォト業界はすでに大きな打撃を受けていますし、コピーライター、動画編集者、グラフィックデザイナーなど、多くの職種が影響を受け始めています。

一方で、生成AIやエージェントを“部下”のように使いこなせば、1人でクリエイティブブティックと同じ機能を持つことすら可能になりました。つまり、「作る」という行為そのものの価値は急速にコモディティ化していくでしょう。

しかし私は、「生み出す」ことの価値は決して下がらないと考えています。むしろ、生み出すための効率は、これまでにないほど高まっていくのではないでしょうか。AIがどれだけ進化しても、「何を作るべきか」を決めるのは人間です。

次ページは私たちは「意味」を消費するようになった

次のページ
1 2
この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ