公共交通の“堅さ”を溶かしたもちもちの戦略―都バスマスコットキャラクター「みんくる」

今、多くのブランドが再評価しているのが「物理的な接点」である。その中でも、スマホの画面を越えてファンの手元に届く「ぬいぐるみ」というデバイスは、いかにしてブランドへのロイヤリティを形成するのか。新連載「愛されぬいの履歴書」第1回は、SNSでの熱狂的な「ぬい活」でも知られる、都バスマスコットキャラクター「みんくる」について、東京都交通局に取材。26年という長きにわたり愛されてきたこのキャラクターが、いかにして「単なるマスコット」から、ブランドの熱量を可視化する「フィジカルな媒介者」へと進化したのか、その軌跡を辿る。
みんくるの履歴書

2Dの“なぞ。”を、愛嬌たっぷりの3Dに

1999年の誕生から26年。長年都営バスの顔として愛されてきた「みんくる」が、再び大きな注目を集めたきっかけは、2024年1月の都営バス100周年を前にしたタイミングだった。

「実は以前にもぬいぐるみは作成していましたが、周年という節目が大きなきっかけとなりました。当時、SNSを中心にじわじわとみんくるの知名度が広がる気配があったこともあり、2023年、100周年記念グッズとして特別なぬいぐるみを作成することにしたのです」と広報担当者は振り返る。

みんくるの公式プロフィールには、多くの「なぞ。」が含まれている。大きさや重さは不明であり、そのフォルムは非常に抽象的なもの。そんな存在を立体化する際に並々ならぬこだわりを注いだのが、その独特な「フォルム」である。しかし、この「絶妙なバランス」を形にするプロセスは、一筋縄ではいかなかった。

写真 みんくるぬいぐるみマスコット第4弾

みんくるぬいぐるみマスコット第4弾。

「横から見ると平べったいお顔と、実は奥行きのあるまあるい形。これは立体でしか表現できない、みんくるならではの特徴です。しかしぬいぐるみにすると、細かいカーブを一律で表現することが難しく、どうしても個体差が生じてしまいます。また、この何を考えているのかわからない絶妙なお顔(褒めてます!)も、ほんの少し違うと大きく印象が変わってしまいます。ぬいぐるみならではの特徴やかわいらしさもあるので、どこまで正確に調整していくか、そのバランスが非常に難しいのです」。

だが、この「個体差」さえも、今やファンにとっては唯一無二の“自分だけのみんくる”という愛着の対象となっている。

写真 ぬいぐるみマスコットはさまざまなポーズや表情が存在

ぬいぐるみマスコットはさまざまなポーズや表情が存在。

「一方通行」から「共創」の広報へ

ぬいぐるみという実体を得たことで、広報のあり方にも大きな変化が生まれた。

SNSでは、ファンが自作した衣装を着せた「ぬい撮り」やイラストが日常的にアップされており、もはやファンは「応援者」という枠を超え、みんくるのストーリーを紡ぐ「共創者」となっている。YouTube動画でみんくるが乗っていたからと、「みんくるが乗っているバス」として親しむファンもいるという。

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愛されぬいの履歴書
月刊『宣伝会議』編集部

情報が溢れるデジタル時代だからこそ、手で触れられる「ぬいぐるみ」の存在が、ブランドとファンの絆を深める特別な鍵となっています。本連載では、単なるグッズの枠を超え、ブランドの想いを届ける「広報担当」として奮闘するぬいぐるみたちにスポットを当てます。SNSで愛される「ぬい撮り」の裏側や、彼らが誕生するまでの物語を「履歴書」と共に紹介。等身大のぬいぐるみたちが、いかにして人々の心に寄り添い、愛される存在になっていったのか。その軌跡を紐解いていきます。

月刊『宣伝会議』編集部

情報が溢れるデジタル時代だからこそ、手で触れられる「ぬいぐるみ」の存在が、ブランドとファンの絆を深める特別な鍵となっています。本連載では、単なるグッズの枠を超え、ブランドの想いを届ける「広報担当」として奮闘するぬいぐるみたちにスポットを当てます。SNSで愛される「ぬい撮り」の裏側や、彼らが誕生するまでの物語を「履歴書」と共に紹介。等身大のぬいぐるみたちが、いかにして人々の心に寄り添い、愛される存在になっていったのか。その軌跡を紐解いていきます。

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