Agentic Commerce元年の先にあるもの 購買行動の地殻変動とAIエージェントと選ぶ時代のマーケティング戦略

ビジネスの世界における生成AIの議論は、業務における活用が論点になってきました。しかし、生成AIは仕事の現場だけでなく、私たちの日々の暮らしの中にも急激に浸透してきています。そうした中で、注目されるのが生成AIやAIエージェントによって、変化を始めている生活者の買物行動です。「購買行動モデルそのものも変わるのではないか?」という問いのもと、生活者調査を踏まえた未来予測の検討を目下、重ねている博報堂のメンバーが本記事を皮切りに全6回にわたり、未来の買物とその行動に対応したマーケティングの在り方を発信していきます。

「Attention」ではなく、AIエージェントとの「Dialogue」から始まる購買行動モデル

AIの普及により、私たちの購買行動は根本的な変革を迎えています。具体的には、人の購買行動にAIエージェントが既に介在しはじめています。従来のAIDMAやAISASといったマーケティングファネルの考えに基づく購買行動モデルが形を変え、生活者とAI エージェントが協働する新たな消費者行動が生まれているという考えのもと、博報堂買物研究所は2025年1月に、新しい購買行動モデル「DREAM」を発表しました。

DREAMのDとは「Dialogue(対話)」ですが、生活者が対話する相手は人でも企業でもなく、AIエージェントになっていく。そしてAIエージェントとの対話から購買行動が始まっていくというモデルをつくりました。従来の、広告を中心とした「Attention」の獲得ではなく、AIエージェントとの「Dialogue(対話)」起点の購買行動に変わるならば、マーケティング、コミュニケーションの役割もそれに合わせて変わることが大いに予測されます。

■DREAMモデル概要

日本国内においても、買物を検討する際にAIを活用する人も徐々に増え始めています。グローバルで見ても、OpenAIの「会話ログ分析2024~2025」のレポートによると「全世界でのChatGPTに対するコマース関連の質問は、1日5,200万プロンプト(2025年7月時点)」であり、これは世界9位のECサイトのセッション数に相当する規模になります。「DREAM」モデルを発表した当初は、3~5年の時間軸で徐々にシフトしていくと考えていましたが、生活者の変化は想定を超える速さで進んでいます。

“Agentic Commerce祭り” だった、米国NRF2026で何が発表されたのか?

私も2026年1月の「NRF 2026: Retail’s Big Show 」に参加してきましたが、今年のNRFは「Agentic Commerce祭り」ともいえる様相を呈していました。2026年は、昨年末から日々進んできていたAgentic Commerceの実装が本格化し、Agentic Commerce元年となるのだということを実感しています。

Agentic Commerceとは、AIエージェントが生活者に代わり、商品検索~比較~購入までの一連の買物プロセスを代行してくれる仕組みです。「DREAM」で提示したように、生活者がAIエージェントとの対話から購買行動を始め、AI上で決済含めた一連の購買プロセスが完結する時代がやってくることが今年のNRFから見て取れました。

NRFでは、Googleのスンダー・ピチャイCEOが登壇し、「Universal Commerce Protocol(UCP)」を発表しました。UCPとはAIエージェントがユーザーに代わってオンラインショッピングを自動で行うためのオープンな共通規格です。その場でWalmartのジョン・ファーナーCEOがUCPの導入を宣言し、今後、数カ月以内にGoogle Gemini内での購買機能が実装されるという発表をしました。この2社の発表は、検索エンジンやECサイトではなく、AIエージェント内での経済圏が発生した決定的瞬間だったと言えます。

UCPは、企業のマーケティング活動を大きく変えます。UCPなどのプロトコルに対応しない小売業・メーカーは、AIエージェントから認識されず、選択肢にすら上がらなくなる可能性があるからです。多くの企業にとって大きな影響を与える可能性が高いと言えます。

従来、広告会社は認知から購買に至るファネルの各段階で広告ビジネスを展開してきました。検索エンジンにも広告が連動されたり、ECサイトにも広告が組み込まれていたのです。しかし、Agentic Commerceの普及により、こうした仕組みがリセットされる恐れが出てきています。まずは、Agentic Commerceの最新動向を知り、そこで生まれる新たな購買行動モデルに対応した新しいマーケティングのあり方を検討すべきだと考えています。

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