HRデータ活用の罠—仮説なき分析はなぜ失敗するのか

HRテクノロジーの普及や人的資本開示への要請を背景に、多くの企業で人事領域におけるデータ活用への期待、いわば一種の「熱狂」が生まれています。その一方で、「最新のツールを導入し、データを集めたものの、どう分析すれば良いかわからない」「分析レポートを作成したが、当たり前の結果しか出てこず、次の一手につながらない」といった課題に直面している企業は少なくありません。本稿では、こうしたHRデータ活用の失敗がなぜ起きるのか、その構造を解き明かし、データ活用の考え方について探っていきます。

HRデータ活用において陥りがちな罠

多くの場合、データ活用がうまくいかない原因は、技術的な問題というよりも、その向き合い方にあります。ここでは、多くの企業が陥りがちな「罠」を3つに整理して解説します。

第一の罠は、「データドリブン」という言葉の誤解です。データドリブンと聞くと、「まずはデータを集め、それを多角的に眺めることで、何か有益な発見があるはずだ」と考えるかもしれません。しかし、このアプローチは、失敗に終わりやすいと言えます。

例えば、ツールが自動算出したデータから「研修の受講時間が長い社員ほど、人事評価が高い」という相関関係が見つかったとします。この結果だけを見て、「全社員の研修時間を増やせば、全体のパフォーマンスが向上するはずだ」と結論づけてしまうのは危険です。この二つの変数(研修時間と評価)の間に、直接の因果関係があるとは限りません。もともと意欲が高い個人が、自律的に研修を受講し、その意欲ゆえに高い成果を上げている可能性もあります。

第二の罠は、測定の落とし穴です。データとして提示された数字を客観的な事実として無条件に受け入れてしまうかもしれません。しかし、そもそも「そのデータは、測りたいものを正しく測れているのか」という問いを忘れてはなりません。

測定の質を評価する際に重要になるのが「妥当性」と「信頼性」です。妥当性とは、測定したい概念を、いかに正確に捉えられているかを表します。例えば、「仕事への意欲」を測定するために「いつも早めに出勤しているか」と尋ねたとします。意欲的な社員は早く出勤するかもしれませんが、出勤時間は通勤距離や家庭の事情にも左右されます。したがって、この質問は「仕事への意欲」を正確に測る指標とは言えず、妥当性が低いと言えます。対して、信頼性とは、測定の一貫性・安定性の指標です。例えば、同じ概念を測るための複数の質問項目間で、回答に一貫性があるかを示します。例えば、「チームワーク」を測る複数の質問への回答に一貫性があれば、信頼性が高いと言えます。

第三の罠は、「問い」なき分析です。「何を明らかにしたいのか」という目的、すなわち「問い」が不在のまま分析を始めてしまうケースです。解くべき問いが定まっていなければ、どのようなデータを収集し、どのように分析すべきかの判断基準がありません。結果的に、手当たり次第にデータを集めて分析し、膨大な時間とコストを浪費した末に、何の示唆も得られないという事態を招きます。

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人の知をどう活かすか—HR Tech時代のナレッジ活用と関係のあり方を探る
伊達洋駆(ビジネスリサーチラボ代表取締役)

神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』(すばる舎)、『世界の研究者はマネジメントをどう分析しているのか』(労務行政)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

伊達洋駆(ビジネスリサーチラボ代表取締役)

神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』(すばる舎)、『世界の研究者はマネジメントをどう分析しているのか』(労務行政)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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