日本広告業協会(JAAA)では毎年、会員社社員を対象に「論文」と「私の言いたいこと」の懸賞募集を実施している。2026年3月24日、第55回懸賞論文の受賞作品を発表した。
「論文」(課題:変容する世界と広告)で金賞を受賞したのは、博報堂の下萩千耀氏の論文『広告は「求心力」のデザインへ~超多様性社会における、広告人の新たな使命~』。下萩氏の論文のサマリーは以下の通り。
金賞受賞論文のサマリー
「広告は「求心力」のデザインへ~超多様性社会における、広告人の新たな使命~」
妊婦への社会的配慮を求める「マタニティマーク」が、時に嫌悪の対象となり機能不全に陥っている。この問題に限らず、ある集団への配慮を促すことが、別の集団からは「特別扱い」「エコ贔屓」と捉えられてしまうのが現代の複雑化した社会だ。界隈が無数に細分化したこの「超多様性社会」において、一体どんなコミュニケーションが効果を発揮できるのだろうか。本稿は、「超多様性社会」に求められる広告コミュニケーションの新たな形を模索するものだ。
この課題の根源を探るべく、ここ数十年で大きく変化した広告コミュニケーションの変遷を分析した。テレビや新聞などのマスメディアが社会の情報流通を支配していた「伝統的メディア時代」は、大企業や政府が発するメッセージが社会の空気を醸成する「トップダウン型」のコミュニケーションだった。その後、スマートフォンの普及とともに到来した「SNS時代」では、誰もが発信者となり、一個人の意見が社会を動かす「ボトムアップ型」へと変化していく。
そして現代は、生成AIの登場により、個々の文脈に最適化されたコンテンツが量産される「AI・アルゴリズム時代」へと移行している。アルゴリズムの進化は、見たい情報だけが優先的に表示される「フィルターバブル」を生み出し、社会は共通の「マス」的広場を失って無数の「界隈」へと細分化・分散した。このような「超多様性社会」においては、前述のようにある集団への配慮が別の集団の反感を買うなど、かつて有効だった画一的な「正しさ」や新しい行動習慣の一方向的な押し付けは、むしろ集団間のコンフリクトや分断を助長するリスクさえ孕んでいると言える。