企業のブランディングで大きな役割を果たすコーポレートサイトの運営は、デザインやクリエイティブの問題として語られることがある。しかし実際には、多くの部署や担当者が関わる企業活動の中で、どの表現を選び、どの方向で判断するのかという「意思決定のあり方」こそがブランドの一貫性を左右する。
SUBARUが取り組んだサイトリニューアルは、そうした課題に向き合うプロジェクトだった。同社はデジタル領域に強いクリエイティブプロダクション「ユニットベース」(東京・渋谷)とともに、ブランド表現の判断基準を整理し、属人化を避ける仕組みを構築するとともに組織として運用できる体制づくりに挑んだ。
SUBARU広報部の佐藤葉之氏、吉田亘佑氏と、ユニットベースの上村正敏氏、宮内一政氏が、その取り組みについて語る。
「ありたい姿」の実現に向けた課題
SUBARU広報部オウンドメディアグループは、コーポレートサイト運営のほか、デジタル社内報や社内ポータルまでを統括し、様々なステークホルダーとの接点を設計する役割を担う。吉田氏は「SUBARUが掲げているありたい姿は『笑顔をつくる会社』、英語では、“Delivering Happiness to All” と表現しています。それは単に笑顔そのものを指すのではなく、『安心と愉しさ』という価値を提供していきたいという想いを表現したものです。『笑顔をつくる会社』の実現のために、私たちが制作するコーポレートサイトにおいても、サイト内を回遊いただくという体験を通じて、あらゆるステークホルダーがストレスなく正しい情報にたどり着けることを目指しています」と話す。
「最大の課題は、部門ごとの個別最適化が進み、コーポレートサイトの各ページにおいて、デザインや挙動をはじめ、ブランド表現にばらつきが出ていたことです。コーポレートサイトの運営自体は広報部が主管部署ではあるものの、工数が限られる中で、2017年のリニューアル以降の各ページの更新は、各オーナー部署に権限を委譲し、運営を任せてきました。その結果、ページごとに異なる情報設計やデザインがなされ、ブランドとしての統一感が薄れてしまう状況が散見されるようになってしまったのです」(吉田氏)
SUBARU 広報部 オウンドメディアグループ 吉田亘佑 氏
この課題は、単なるビジュアルの不一致だけでなく、メッセージのニュアンスのばらつきにもつながっていたと佐藤氏は指摘する。
「同じような内容であっても、ページや担当ごとに表現のニュアンスが異なったり、更新を重ねる中でデザインの方向性にばらつきが生じたりすることがありました。まさに、組織の都合が、お客様への一貫したブランド訴求を妨げていたという一例です。
こうした経緯を経て、ブランド表現の方法やデザインの判断基準をより明確に共有する必要性を感じるようになったのですが、基盤やツールの整理も含めて、あらためて全体を見直し、お客様とSUBARUとの関係性を伝えるための入り口を再設計する必要があるという結論に至りました」
「判断基準」をつくる取り組み
サイトリニューアルのパートナー探しにあたってSUBARUの心をつかんだのは、ユニットベースが提案した「仕組み化」へのアプローチだった。
SUBARUが抱えていた課題は単なるデザインの不統一ではない。IR、サステナビリティ、採用など、それぞれの部門が独自の目的で情報発信を行う中で、ブランドとしてどの表現を採用するのかという判断が部署ごとに行われていた。その結果、同じ企業のサイトでありながら、ページによってデザインや情報設計の考え方が異なる状態が生まれていたのである。
ユニットベースが提案したのは、こうした状況をデザインの修正だけで解決するのではなく、ブランドとしてどのように判断するのかという基準を言語化し、組織の中で共有できる状態をつくることだった。
「サイト内の構造や表現がばらばらという課題は多くの企業で伺いますが、SUBARUの皆さんにはそれを本気でやり切るという強い意志がありました。だからこそ我々は、単なるデザインの刷新ではなく、誰が担当になってもブランドが守られる『属人化を避ける仕組み』をご提案しました。社内で説明・合意形成に使える“材料”まで含めて整えていくイメージです」(上村氏)
ユニットベース 上村正敏 氏
これには佐藤氏も「その言葉が本当にグッときた」と振り返る。
「自社にナレッジを蓄積し、体制が変わっても続く仕組みをつくる。コーポレートサイトの担当としてまさに求めていた答えでした。ユニットベースさんは、私たちが悩んでいたことを見事に言語化して整理してくれた。その瞬間に『この人たちにお願いしたい』と決まりました」
「なぜ?」を問い続けることで判断基準が生まれる
プロジェクトは2024年春にスタート。トップページからではなく、更新タイミングが決まっていた「サステナビリティ」のページ開発と並行し、ルール(デザイン/コンポーネントガイドライン)を整える進め方を採った。「時間的な制約を踏まえると、ガイドラインの作成を先行するのではなく、都度改善し、“作りながら育てる”アジャイル型の進め方がふさわしいと感じました」と吉田氏。そこで大きな役割を果たしたのが、ユニットベースによる徹底した「なぜ?」の深掘りだった。ブランドとして「なぜ」この判断をするのか。その基準を言語化するプロセスが必要だった。こうした問いかけを繰り返すことで、単なるデザインレビューではなく、「判断する理由」を言語化していった。
コンポーネントパーツ群のイメージ。デザインガイドライン(基本方針)に沿ってSUBARUコーポレートサイトを構成するコンポーネントパーツをカテゴリごとに作成・管理している。これらは運用しながら新たに加えたり、調整したりすることも
「毎週の定例会で、宮内さんは『このデザインにはどんな意図がありますか』『SUBARUとしてこの表現を選ぶ理由は何でしょうか』といった問いを重ねてくださいました。そのおかげで私たちも『なぜそうなのか』を徹底的に考えるようになった。この言語化のプロセスが、他部署に納得・共感してもらうための強力な武器にもなりました」(佐藤氏)
SUBARU 広報部 オウンドメディアグループ 佐藤葉之 氏
その裏にはどのような意図があったのか。宮内氏は次のように説明する。
「ただデザインの選択肢を増やすのではなく、あくまでSUBARU様が社内で意思決定するための『論理的な材料』を提供することに徹しました。ルールが先にあるのではなく、制作の現場で発生した問題を解決するためにルールを更新していく。そうすることで、ガイドラインが『縛られるもの』から『役に立つもの』へと変わっていきました」
SUBARUコーポレートサイトのデザインガイドライン。SUBARUブランドとして「コーポレートサイトはどうあるべきか」から各デザイン要素の考え方や方針などがまとめられている
また、ガイドラインについても一方的に渡しただけでは守ってもらえない。これには社内の巻き込みも重要だった。
「各部門を巻き込み、意見を反映させながら共に作っていくことで、皆がルールを『自分ごと』として捉えるようになりました。ルールがあるから守るのではなく、良いサイトを作るためにルールを使う。こうした意識の変化が、部署を越えた議論につながっていったと感じています」(宮内氏)
さらに、ルールを“守ること”が目的化しないよう、現場の課題を起点に更新する姿勢も徹底した。たとえば「ガイドライン通りに作ったはずなのに、アクセシビリティの観点でNGになる」といった事例が出た際も、例外で済ませず関係者で議論してルールそのものを見直した。
サイトが組織を動かし、部門を越えて波及する「成功体験」
トップページ刷新に合わせ、「コーポレートサイトリニューアル」のニュースリリースを発信し、社内から驚きの反響があった。
SUBARUコーポレートサイト
「他部署の社員から社内チャットで『最近コーポレートサイトが良くなったね』『非常にクールだ』という声が届きました。コーポレートサイト運営業務を担当する私たちは存在としては裏方ですが、サイトのリニューアルをきっかけに、ブランドの見せ方について社内で関心が高まった瞬間でした」(佐藤氏)
さらに、この変化は他部門へも伝播している。これまで独立して動いていた部門までもが「新しいコーポレートサイトのルールに合わせたい」と広報部に相談に来るようになった。
「採用サイトはコーポレートサイトとは異なる文脈で運用されることも多いのですが、最近ではブランドの考え方を揃えながら進めていこうという動きが出てきました。共通の基盤で“SUBARUらしさ”を発信する体制ができつつあります」(吉田氏)
ブランディングに欠かせない、長期的なマネジメント
プロジェクトを伴走したユニットベースの2人は、日頃大切にしている姿勢として「スタンスの中立性」を挙げる。宮内氏はこう語る。
「ビジネスには期日があり、ロジカルな裏付けが必要です。しかし、感情を動かす表現も欠かせない。その『中庸』を保ちながら、お客様の事情に寄り添い、何が一番より良い形なのかを中立の立場で判断し続ける。それが私たちの伴走スタイルです」
ユニットベース 宮内一政 氏
最後に、佐藤氏は力強くこう締めくくった。
「プロジェクトがスタートした2年前、今のこの状態を想定していたかというと、していませんでした。Webサイトとしての出来上がり以上に、関わる人たちの意識に変化をもたらしたことが何よりの財産です。目的を定めるところから一緒に悩み、時に厳しく『なぜ?』を突き付けてくれたユニットベースさんがいたからこそ、SUBARUは自走し始めることができましたし、それがさらに他の部署を巻き込むという点でも伴走から自走に導くという流れができつつあります」
SUBARUとユニットベースの取り組みは、コーポレートブランディングの根幹をなす自社サイトのあり方を一からリデザインしていくものだ。今後担当者が代わったとしても、統一したルールのもとに情報発信を行うためのベースができつつある。この積み重ねこそが、SUBARUのブランディングをより強固なものにしていく。
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株式会社ユニットベース
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