「Sora終了」の裏で、動画生成AI “生き残り組” どれを使うべきか?

前回のコラムでは、OpenAI社による「Sora」の終了、そしてByteDanceによる「Seedance 2.0」の海外展開の凍結をはじめ淘汰されるAI動画生成サービス動向について述べました。

ちなみに本コラム公開直前に新たな動きが。AI動画プラットフォーム「Higgsfield」が「Seedance2.0」にグローバル対応したと発表がありました。ただし、使えるのは米国と日本以外という状況になっています。

一方で、同時期に成長を続けているプレイヤーがいます。「Runway」「Google Veo」「Kling3.0」のそれぞれの戦略を見てみます。

Runway社はライセンス先行戦略で知られています。2023年12月にGetty Imagesとデータアクセス契約を結び、2024年9月にはLionsgate(※1)と提携を発表しました。2万タイトルのアーカイブでカスタムモデルを構築するという、AI動画とハリウッドスタジオの初のパートナーシップです。

2026年2月にはSeries Eで3億1500万ドルを調達し、評価額は53億ドルに到達しています(※2)。

ただし、このライセンス戦略が技術的に順調かというと、そうでもないようです。The Wrapの報道によれば「Lionsgateのカタログはモデルを作るには小さすぎる。実はDisneyのカタログですら小さすぎる」。単一スタジオのライブラリでは汎用的な動画生成モデルの訓練に必要な多様性が確保できず、AI版「John Wick」アニメ化は無期限延期になっています。Disneyがドウェイン・ジョンソン氏の「Moana」向けAIディープフェイクに18カ月を費やして結局不採用にしたという話も出ています(※3)。

ライセンスを取ることと、それで実用的なモデルを作れることは、別の問題だということがわかります。個人的には、Runway社の53億ドルの評価額は動画生成そのものよりも「World Models」(物理環境を理解・予測するAIシステム)への転換に対する期待が大きいのではないかな、と感じています。

Google Veoは別の構造的優位を持っています。YouTubeの動画をVeo3のトレーニングに使用しているのですが、クリエイターの明示的な同意は得ていません。サードパーティAI企業のトレーニングからはオプトアウトできますが、Google自身のモデルからは拒否できない仕組みになっています(※4)。

批判は根強いものの、法的に止められてはいません。そしてVeo 3.1はGemini、Ads Asset Studio、Vertex AIに統合され、Google広告のエコシステムに組み込まれました。世界最大の動画プラットフォームを訓練データとして持ち、かつそのプラットフォーム上で配信まで完結できる。これは他社が逆立ちしても得られない構造的特権と言えるでしょう。

興味深いのは「Kling 3.0」です。中国のKuaishou社(快手)が開発したこのモデルは、4K/60fpsのネイティブ出力、AIディレクターモード(※5)、8言語以上のリップシンクを備え、6000万ユーザー、6億本以上の動画生成、月間収益2000万ドル超と好調です(※6)。韓国やロシアではApp Storeで1位、米国や日本でもトップ10に入っています。

ByteDance社と同じ中国企業でありながら、Klingはなぜハリウッドの標的にならなかったのか。いくつかの要因が考えられます。まず、Kuaishou社にはTikTok問題のような政治的な「前科」がない。米上院議員のSeedanceへの批判はTikTokとセットで論じられており、ByteDance社固有の地政学リスクが増幅された面があるでしょう。

次に、Seedanceで告発されたようなハリウッドIPの「プリインストール」問題が、Klingについては現時点で指摘されていません。そして、トム・クルーズ対ブラッド・ピットのような象徴的なバイラル映像がKlingからは出ていない。この3つ目は偶然の可能性もありますし、意図的なガードレール設計かもしれません。結果論ではありますが、炎上のトリガーを引かなかったことが大きかったように見えます。

※1: Lionsgateは「ハンガー・ゲーム」「ジョン・ウィック」シリーズなどで知られる米国の映画・テレビスタジオです。2万タイトル以上のアーカイブを保有しています。

※2: TechCrunch(2026/2/10)より”AI video startup Runway raises $315M at $5.3B valuation”。General Atlantic主導、NVIDIA、Fidelity、Adobe Ventures、AMD Ventures参加。

※3: The Wrap(2026)より”Lionsgate’s Runway AI Deal Runs Into Problems”。Futurism(2026)”Lionsgate’s Attempt to Create Movies Using AI Has Crumbled Into Disaster”。
ハリウッドの複雑な権利構造(複数の権利者が制作・配給の異なる側面を管理)もAI学習許諾を困難にしています。

※4: CNBC(2025/6/19)より”Google is using YouTube videos to train its Gemini, Veo 3 AI models”。なおGoogleはindemnification(著作権訴訟の補償条項)を企業ユーザーに提供しています。

※5: AIディレクターモードは、短いプロンプトから最大6カットのマルチショット映像を自動で構成する機能です。カット割りやカメラアングルをAIが判断します。

※6: Kuaishou IR(2026/2/5)公式リリース。eWeek(2026)”Kling AI 60M: Challenging Sora”。月間収益は2025年12月時点の数値。

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生成AI時代のテクニカルディレクション
岡田太一(sync.dev Technical Director/Visualization Artist)

CG会社のDigital Artist からキャリアを開始。ポストプロダクションを経て、現在はビジュアルクリエイティブ領域にてテクニカルディレクションを担当。得意な分野は映像編集、ビデオ信号とリアルタイム合成、トラッキング関連など。2022年から『ブレーン』で連載中。

岡田太一(sync.dev Technical Director/Visualization Artist)

CG会社のDigital Artist からキャリアを開始。ポストプロダクションを経て、現在はビジュアルクリエイティブ領域にてテクニカルディレクションを担当。得意な分野は映像編集、ビデオ信号とリアルタイム合成、トラッキング関連など。2022年から『ブレーン』で連載中。

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