訪日前に勝負は決まる インバウンド需要を取り込む「指名買い戦略」―グローバル・デイリーの勝ち筋

2025年の訪日外国人客数は約4270万人、インバウンド消費額は約9.5兆円に達し、ともに過去最高を記録した。優れたものづくりを誇る日本のメーカーが、この好機をつかむのに必要なのは何か。アジア圏を中心に、15年以上にわたりインバウンドプロモーションを支援してきたグローバル・デイリーの荒井良治・代表取締役は、訪日客が出国する前、つまり「現地」でのアプローチが肝心と説く。話は異なる文化背景を持つ外国人にメッセージを伝えるためのポイントから、メーカーの成長戦略にまで及んだ。

訪日客向けに「店頭施策」だけでは不十分

━━グローバル・デイリーの成り立ちとこれまでについてご紹介ください。

荒井:訪日(インバウンド)、在留(在日)外国人向けプロモーションに特化した広告やインフルエンサーマーケティング支援を手がけています。複数の広告会社を持つDAC(ダック)グループ内の一部門として2008年に事業を立ち上げ、2013年にグローバル・デイリーとして分社化しました。

事業を始めた当時は、訪日客が年間800万人程度の時代でした。営業先でもインバウンドへの関心は薄かった頃です。そんな中、私たちが最初に気づいたのは「現地のリアルなメディアとつながる重要性」でした。

グローバル・デイリー 代表取締役 荒井良治 氏

日本を訪れる外国人の方々が旅先や行くお店など決めるのは、現地のローカルメディアやSNSの情報です。そこに気づいてから、私たちは自らアジア各国の現地メディアやインフルエンサーを開拓し、独自のネットワークを築いてきました。それが今の私たちの原点です。

━━訪日外国人旅行客の増加に伴い、多くのメーカーや小売がインバウンド施策に注力しています。現在の状況をどう見ていますか。

荒井:確かに「ドン・キホーテ」などのディスカウントストアやドラッグストアに多くの方が訪れ、旅行客に人気の商品が数多く生まれています。その一方で、まだ多くの企業はこの潜在市場に十分にアプローチできていないと感じます。

よく陥りやすいのは、インバウンド施策を日本国内と同じ「リテールマーケティング(店頭販促)」の延長線上で考えてしまうことです。日本人は日常的にドラッグストアやバラエティショップに行くことができますが、旅行で来日される方の買い物時間は非常に限られています。例えばディスカウントストアでの滞在が1〜2時間としたら、その場で棚を見ながら商品を選んでいる時間はありません。

日本に来る前からすでにSNSなどで情報を仕入れ、「何を買うか」をスマホにリスト化しています。つまり、店頭で勝負するのではなく、入国前に「指名買いリスト」に入っているかどうかがすべて。旅行前にこの“リスト”へ入れてもらうための仕掛けが、多くの企業で不足しています。

成否を分けるのは「翻訳の質」と「現地へのオリエン」

━━「指名買い」を増やすために、具体的に何が必要でしょうか。

荒井:当社が勧めるのは、旅行で訪れる方が自国で接触するメディアや人気のインフルエンサーへのアプローチです。訪日旅行客の多い東アジア~東南アジアに強みを持ち、例えば化粧品や食品など、ジャンルと国・地域ごとに適したメディアやインフルエンサーをご提案することができます。自社メディア「JAPANKURU」を運営し、多言語で情報発信していますので、こちらも活用できます。

自社メディア「JAPANKURU」は7言語で運営。ほかに8万人規模の在留外国人コミュニティプラットフォーム「korekoko」を運営する

特に重視しているのは、徹底した「分析」と「翻訳」、そして「現地メディアへの熱量」です。分析については、ソーシャルリスニングや店頭の売れ筋動向を活用し、どの国でどんなキーワードが刺さっているかを精査します。そして、多くの企業が軽視しがちなのが「翻訳」です。単に言葉を置き換えるAI翻訳では、商品の魅力は伝わりません。現地の文化や、各国の広告・薬事関連規制を理解した上で、その国の人が「これが欲しい」と思うニュアンスを込めなければならない。私たちはここを一番泥臭く、丁寧に行います。

現地事情の調査と分析に力を入れる

━━翻訳だけでなく、現地への伝え方にもコツがあると聞きました。

荒井:現地のメディアやインフルエンサーに対して行う説明会(オリエンテーション)の質が成否を分けます。私たちはクライアント以上にその商品を語れるレベルまで理解を深め、メーカーの方の思いをその国の文脈に合わせて「通訳」します。

例えば、美容成分の細かな違いが、ある国では刺さるけれど別の国では競合が強すぎて響かない、といったことがあります。そこを読み違えずに伝えると、メディア側の熱量が高まり、結果として1ページの記事依頼が5ページの大特集に化ける。こうした「メディアを味方につける技術」が、広告費以上の成果を生むのです。

━━意外な商品が売れることもあるのでしょうか。

荒井:よくあります。「なぜこれが?」と思うようなものが売れる背景には、現地独自のコミュニティでつくられた「愛称」があったりします。例えば、ある消炎鎮痛剤は韓国で「コインパス」と呼ばれて大流行していますし、中国では特定の美容関連商品が「元カレ(パック)」のようなユニークな名前で呼ばれることもあります。

こうした現地での呼ばれ方や評判をいち早くキャッチし、プロモーションに逆輸入することが重要です。また、台湾の有名芸能人が番組で紹介したことがきっかけで、10年以上売れ続けている日本の胃腸薬もあります。一度コンシューマーの心に火がつけば、その効果は長く続くのです。

「コンシューマーの心」を直接掴む

━━具体的な成功事例を教えてください。

荒井:愚直にコンシューマーへメッセージを送り続けることです。

実際に、訪日前から継続的に情報接触をつくることで、来日時にはすでに購買対象が決まっている状態を生み出すことができます。いわば「売り場」ではなく「訪日前」に勝負が決まっているということです。

日本のメーカーは、小売店に頭を下げて棚を確保することに力を入れがちですが、消費者が指名してくる状況を先につくれば、小売店は結果として追随せざるを得なくなります。

━━グローバル・デイリーのスタッフは半数が外国人だそうですが、それが強みになっているのでしょうか。

荒井:強みのひとつですが、単に外国出身の人に任せればいいというわけではありません。日本に長く住んでいると、現地の感覚が薄れてしまうこともあるからです。

私たちの強みは、日本人の感覚、在留外国人の視点、そして現地の最新トレンドという3つをミックスさせている点です。その基盤となっているのが、自社で運営する多言語情報発信メディア「JAPANKURU」と、在留外国人のインサイトを捉えられるマーケティングサービス「korekoko」です。

JAPANKURUはグローバルなBtoC接点としてリアルな反応を捉え、korekokoでは日本と母国の両方の感覚を持ち、日本で暮らす生活者でもある在留外国人の声を拾うことができます。さらに、こうした接点を通じて8万人規模の在留外国人コミュニティとつながり、テストマーケティングを行いながら、同時に現地の最新トレンドも確認しています。

━━これからのビジョンについてお聞かせください。

荒井:国内市場の成熟化が進む中で、多くのメーカーは中長期的な成長を目指して海外市場の開拓を視野に入れています。これまで述べたような訪日客向けのマーケティング施策の先に、こうした海外展開を見据えていかれることを提案したいですね。

インバウンドで火がつくと、現地のバイヤーからアプローチが来るようになり、結果として正規の海外展開・輸出の成功につながっていく。この「インバウンドからグローバルへ」というサイクルはすでにできつつあります。メーカーにとってもより大きな売上インパクトを生むはずです。

インバウンドは、「海外展開のための壮大なテストマーケティング」と見ることができます。自社メディアなどを通じて多言語で情報を発信していると、どの商品がどの国で売れそうかの予兆がはっきりと見えます。

私たちは、インバウンドプロモーションがメーカーの成長の鍵を握ると信じています。そのための分析力、翻訳力、そして各国の現地ネットワークを提供します。インバウンドを入り口に、世界中にファンを広げるお手伝いができればと考えています。

お問い合わせ

株式会社グローバル・デイリー

住所:〒110-0015 東京都台東区東上野4-8-1 TIX TOWER UENO 13階
TEL:03-6860-7011
URL:www.gldaily.com

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