テレビ東京系で4月から放送されるアニメ「左ききのエレン」において、製作委員会には参加せず主題歌タイアップという立場で関わるソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)。しかしその動きは、単なる楽曲提供に留まらない。同社コーポレートビジネスマーケティンググループのプロデューサー・田坂健太氏への取材から、アニメと音楽の主題歌タイアップの歴史、タイアップ曲制作へのアプローチ、作品の価値を最大化するための多角的な取り組みが見えてきた。
アニメ主題歌の変遷とは:商品化からタイアップそして文化の醸成へ
アニメにおける主題歌の扱いは、時代と共にその形を大きく変えてきた。田坂氏によれば、その原点はアニメの関連商品の一つとして、製作委員会自身が楽曲を制作・販売する「商品化の一環」だったという。
この流れが変化したのは、外部のアーティストが楽曲を提供する「タイアップ」という形式の登場である。田坂氏はその最初期の事例として「シティーハンター」などを挙げる。これらは、独立したアーティストのクリエイティブとアニメ作品がオープニングやエンディングという場で結びつく形であり、委員会が商品を製造するのとは異なるアプローチだった。
その後、90年代には「名探偵コナン」のように、レコード会社と作品がより強固に連携する事例が生まれ、ソニーミュージックグループのアニメ企画製作大手アニプレックスの前身であるSPEビジュアルワークス(後のSME・ビジュアルワークス)が制作した「るろうに剣心」では、JUDY AND MARYやSIAM SHADEといった著名アーティストが次々と主題歌を担当した。
テレビアニメ15周年記念プロジェクトも始動している「るろうに剣心」の、テレビ版主題歌を完全収録した「るろうに剣心 Complete Collection」。JUDY AND MARY「そばかす」、THE YELLOW MONKEY「Tactics」、川本真琴「1/2」、T.M.
そして、SMEがアニメタイアップに対する本格的な取り組みをスタートしたのが、「NARUTO -ナルト-」シリーズや「機動戦士ガンダムSEED」のタイミングだったと田坂氏は語る。これは、グループ内でアニメ制作を担うアニプレックスの事業立ち上げに際し会社としてどうサポートしていくか、という命題と重なる動きであった。この時期から20年以上にわたりSMEはアニメタイアップの窓口として、主題歌のコーディネーションはもちろん多角的な形で様々なアニメの製作委員会と並走し、業界内での関係性を構築してきたのである。
「左ききのエレン」におけるタイアップの舞台裏:作品性とアーティスト性の合致点を探る
今回の「左ききのエレン」におけるタイアップは、まさにSMEの戦略が体現された事例と言える。田坂氏のチームは、まず原作を深く読み込むことから始めた。そこで見出したのは、クリエイターたちの「青春性」や「泥臭さ」と、広告やアートといったテーマが持つ「アーティスティック」「スタイリッシュ」という、一見すると相反する二つの要素だった。
この二面性を音楽で表現できるアーティストは誰か。「左ききのエレン」製作委員会と議論を重ね、複数の候補の中から最終的に原作者のかっぴー氏と共に選ばれたのが、ALIだった。田坂氏は「泥臭さとスタイリッシュさを兼ね揃えたアーティストは少ない中、ALIはその点でイメージにピンポイントで合っていたのではないか」と選定の過程を振り返る。
さらに、楽曲の完成度をより高めるため、フィーチャリングアーティストとしてラッパーのZORNに白羽の矢を立てた。現在のヒップホップシーンで絶大な評価と信頼を得ているZORNの参加はハードルが高いと見られていたが、ALIチームからの熱いアプローチと作品のテーマ性への賛同を得て実現に至った。田坂氏は「ZORNのラップパートが、熱量の高い泥臭い部分を体現していて、作品と一体感が生まれているのではないか」と語り、アニメ作品の精神性の通底が楽曲に深みを与えたと分析する。
アニメ「左ききのエレン」オープニングテーマの楽曲「FUNKIN’ BEAUTIFUL feat. ZORN」(ALI)のTVサイズ配信ジャケットのアートワークにはマンガ「左ききのエレン」の作者のかっぴー氏が描き下ろしたイラストが使用されている
エンディングテーマの楽曲「New Walk」(紫 今)のアートワークは、アニメーション制作を担当したシグナル・エムディとProduction I.Gによる描き下ろしイラスト


