電通・博報堂・CAのAIプラットフォームはPhotoshopの「入口」を奪うのか? 広告制作現場の地殻変動とAdobeの戦略的選択

前々回前回のコラムでは、Adobeの戦略転換の構造と、それを揺らすブランディングのノイズを見てきました。

最後に、AdverTimes読者の皆さんの多くも関わっているであろう「広告制作」の現場から、この一連の動きをどう読むかを整理してみます。

広告制作の現場で並走する二つの流れ

Firefly AI Assistantのデモ画面から。

まず、Firefly AI Assistantのスコープを広告制作に当てはめると、Adobeの優先順位がどこにあるかが透けて見えます。

公式ブログで挙がるSkillsの5つはBatch Photo Editing、Building Mood Boards、portraitのretouch、social variations、product mockupといった顔ぶれ。自然言語ユースケースの4カテゴリはdistractions除去、background変更、lighting調整、color adjustingです。動画側はVideo Reformatting、Quick Cut、Firefly Boards handoffの3点。

広告制作で言えば、バナー、SNS素材、ポスター、商品モックアップ、量産バリエーションといった写真・グラフィック側の領域にAdobeの重点投資が向いているのは明らかです。

現場で並走している流れを整理してみると、二つの方向が見えてきます。

ひとつは、汎用LLMがPhotoshopの「入口」を奪う流れです。ChatGPTやGeminiのチャット画面に「このバナー、ヒーロー画像をもう少し青空寄りに」「商品写真の影をやわらかくして」と入力するだけで、それなりの結果が返ってきてしまう。SNSバナー、ティザービジュアル、商品差し替え、ラフ案出し……いずれもPhotoshopを開く前にチャットで終わる用途が、現実に増えていると言えます。

「Will It Replace Photoshop?」という業界メディアの問いが冗談で済まないのは、こういう局面が積み重なっているからです。

もうひとつは、国内大手広告会社がプラットフォーム化を進めている流れです。汎用画像生成モデルを統合した「クリエイティブ生成プラットフォーム」を、サイバーエージェント、博報堂プロダクツ、電通の3社が立ち上げています。

サイバーエージェントのAI SCREAMは、2024年2月から社内提供が始まっており、最も先行しています。28モデル統合(Nano Banana ProやImagen、Veo、GPT-5を含むと公表)、累計生成120万点、約10万点が実プロジェクトで活用、制作時間約30%削減という数字を、3月11日に公表しました。AIクリエイティブBPO事業として外販も始まっています。

博報堂プロダクツのAI Craft Studioは2025年10月28日に始動しています。AI専門職「ジェネレーター」を新設し、複数の生成AIツールを横断的に活用。Adobeの協力を得た訓練プログラムを設計しており、2030年に売上目標100億円という規模感を出しています。

2025年10月28日付のプレスリリースより。

電通のAI For Growth Creative Linesは2026年4月17日始動。電通デジタル、電通クリエイティブピクチャーズ、電通プロモーション、セプテーニ・ホールディングスの4社連携で、Branded、Performance、Process Transformationの3ライン構成です。

2026年4月17日付のプレスリリースより。

3社とも、統合する具体モデル名を非開示にする傾向があります(※1)。「具体モデルは何でもよい、統合プラットフォームのレイヤーで価値を出す」という構造シグナルだと整理できます。

同種の動きが3社並んでいる事実、つまり、この流れは既に国内の業界構造として走り出していると言えるでしょう。広告制作の現場にいる読者の方々にとって、これは他人事ではないはずです(※2)。

※1: 3社のうちAI SCREAMだけはNano Banana ProやImagen、Veo、GPT-5等の主要モデルを公表していますが、28モデルの完全リストは出していません。博報堂プロダクツと電通は統合モデル名そのものを非開示の方針で、「複数のAIを組み合わせる」という抽象表現に留めています。なお、弊社もこうした社内向けAIプラットフォームの設計、開発を請け負っておりますので、ご興味があればお問い合わせください(宣伝)。

※2: ここで挙げた3社以外にも、国内には同種のプラットフォーム化事例が広がっている可能性が高いと考えます。網羅的なリスト化は難しく、業界全体の流れとして観察する方が筋が通ります。周辺事例として、トランスコスモスのtrans-AI Pics(2025年5月13日ベータ提供開始、撮影済み写真の被写体維持で背景生成変換、アパレル業界特化)や、汎用国産SaaSのcre8tiveAIが2025年12月26日にサービス終了し、後継のcopainterがイラスト工程特化に集約された件なども、代理店プラットフォーム化とは別の角度から関連する動きとして拾えます。

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生成AI時代のテクニカルディレクション
岡田太一(sync.dev Technical Director/Visualization Artist)

CG会社のDigital Artist からキャリアを開始。ポストプロダクションを経て、現在はビジュアルクリエイティブ領域にてテクニカルディレクションを担当。得意な分野は映像編集、ビデオ信号とリアルタイム合成、トラッキング関連など。2022年から『ブレーン』で連載中。

岡田太一(sync.dev Technical Director/Visualization Artist)

CG会社のDigital Artist からキャリアを開始。ポストプロダクションを経て、現在はビジュアルクリエイティブ領域にてテクニカルディレクションを担当。得意な分野は映像編集、ビデオ信号とリアルタイム合成、トラッキング関連など。2022年から『ブレーン』で連載中。

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